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鬼火の吐息  作者: 数寄亭 福
炎の娘と氷の男
3/26

参   零度の男

「……氷嵐?」


 炎雷が呟くと、その場の空気が少々下がったようだった。氷嵐、と呼ばれて現れたのは短い黒髪の男だ。黒い大きな両刃の剣を担ぎ、瞳は不機嫌に細められている。それは、銀髪の女を捕らえてさらに細められた。


「お前、人間か?」

「……」

「氷嵐? どうしたんですか。確かにあの女は‘妖’なんて呼ばれていますが――――」

「ちげぇよ道満さん、あいつからは‘鬼’の臭いがする」


 あまり表情の変化がなかった炎雷の顔が一瞬、強張った。彼女の澄んだ赤い瞳は動揺を微かに映し、静かに影を落とした。その静けさは、嵐の前兆を思わせる不気味なもの。


「‘鬼’、ですか。 そう言う貴方――――氷嵐、さんからは、‘鬼’を追うものの匂いがします」


 彼女は喉の奥で笑い、ぎらぎらと光る目を男に向ける。氷嵐はニヤリ、と笑みを返して背の刀を手に取った。ひゅう、と風が足元を駆ける。


「すみません、晴明様。 蘆屋の旦那様と戦わないでくださいね」

「……炎雷、あの男はもしかして、」

「晴明様、後を追って説明いたしますので。……戦闘許可を」

「――――――翔鶴(しょうかく)、炎雷の刀を。朱雀(すざく)を炎雷に」


 翔鶴と呼ばれた少年は、式服の裾を翻して細く、朱色の長剣を持ってきた。ありがとう、とにこやかに笑う炎雷に薄く頬を染め少年は晴明の横に並ぶ。晴明に子供が見るものではありません、と言うが少年は頭が切れるようで晴明様と蘆屋様の戦いはみていますが、と師を説き伏せていた。


「炎雷、『壱』の開放を許可します」

「御意」


 彼女は、首から提げている黒水晶の大数珠をはずした。はずした状態でも、首からはまだ紅水晶と無色透明の水晶でできた大数珠をかけている。晴明からもらいうけ、幼少時からつけている物にもかかわらず一切の傷も汚れも見あたらなかった。


「‘鬼’を追うもの……もしかして、‘方相氏(ほうそうし)’の一族の方ですかね?」

「当たり、だ」


 氷嵐が大きく剣を振ると、辺りに旋風が駆けた。周りの木々が大きくしなる中、炎雷の細い白銀の髪だけは少しもなびいていなかった。


(さすが、‘鬼’の力は伊達じゃねぇってことか)


 ふと氷嵐の頭をよぎって、その考えは消えた。炎雷は瞳に鋭い光を宿して、地面を蹴ったからだ。瞬時に反応したからよかったものの、素早さと長剣の長さが祟って彼の式服の端が切れたのは刀の交わりを氷嵐が無理やり切った後だった。


「朱雀――――てめぇの刀も、‘四神剣(しじんけん)’か……?」

「そうです。そしておそらく貴方のは――――‘玄武(げんぶ)’ね」

「ご名答!」


 金属が鳴く、白く火花が散った。氷嵐は、素早い炎雷の動きを捉え始め、己の腕力の力を見せ付けた。そのたびに大きく炎雷の刀がしなり、弾かれる。


「晴明様、『弐』の開放を、」

「だめだ」

「、」


 何か言いたげに口を閉じ、炎雷は風の流れに集中する。玄武は大振りすぎるほどの剣だ。風を切る音と振るための時間は、通常の刀よりも幾分と大きい。


「俺との試合中に余所見かよ、余裕だなァ」

「いえいえ、貴方こそ。これは本気じゃないんでしょう?」

「……その口調も、目も気にいらねぇんだよ」

「それは貴方個人の感情でしょう」

「いちいち気にいらねぇ女だな」









「晴明、お前のところの女と氷嵐、どちらが強いとふむ?」

「そりゃあ、炎雷にきまってんだろ」

「……くくくっ」

「なに笑ってんだてめぇ!」


 保護者サイドは所詮親バカ。

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