表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼火の吐息  作者: 数寄亭 福
幕間=壱
19/26

幕壱  宵闇に愛

幕間、ということで物語の裏側や脇を語ります。でもすべて『鬼火の吐息』という物語の話なので、重要事実もここで明かされる……かも。

「ごめんなさい」


 目が覚めて、初めに耳に入ったのはこれだった。

 目が覚めて、初めに目に入ったのは泣き顔だった。

 目が覚めて、初めに感じたのは、頬にあるぬくもりだった。


「……鈴姫、かい?」

「基実様、お目覚めでしょうか」

「見ての通り、君の泣き顔を見ながら起きたよ。……どうしたんだい」


 はっとしたように鈴姫が基実を見て、泣きそうな顔で笑う。鈴姫は基実を静かに起き上がらせた。彼と向き合いあうように座って、しっかりと基実の瞳を見て歯切れよく言葉を紡いだ。


「私、基実様の事が好きなんです」


「……鈴」

「許されないことも、気味が悪いのも、分かっています。でも、炎雷さんに言われたんです。『鬼だからって伝えることも許されないの?』って。『好きなら伝えてから死になさい』って。だから、私。はっきり言いました」

「……僕は」

「……はっきり振って、くださいよっ」


 ぽろり、と透明なしずくがこぼれた。


「基実様、はっきりきっぱり言ってください。優しいのは貴方の素敵なところです。でも今は早く伝えてほしいんです。私には、時間がない」

「時間……?」

「――――約束、したんです。朝が来たら、この炎雷さんの霊力が詰まった鬼避護符を張って地獄に行くって。罪だとわかって、この世に残る契約をした。だから、それを償ってくるんです」

「この世に残る……? 君、死んでいるのかい……?」


 基実が鈴を覗き込むように見ると、鈴が泣きながらも綺麗に微笑んで言う。


「……はい、基実様と初めて会った、あの満月の夜に。牛車が通っていた橋が、突然崩れて川へ投げ出されておぼれました」

「……」

「……基実様、はやく。お答えを」


「――――――――――もっと、早く出会いたかった」


 基実が鈴を抱きかかえるようにして包み込む。鈴の肩に額を押しつけるようにして、ぎゅうと細い体をこれでもかというほどに抱きすくめた。でもそれは。

 成人男性の力には程遠い、弱弱しい抱擁だった。


「僕は、病を患ってるんだ。だからほら……力が出ないだろ?」

「……え?」

「だから、悲しませたくなかった」

「基実様……」

「もし僕が君を好きだと言って僕と婚姻を結べば、僕が死んだときに君は一人になってしまう」


「そんなの……いやなんだ……!」


 お互いを、思いあうほど遠くなる。

 私たちをどうか永遠に縛りつけておくれ。

 離れぬように。

 嗚呼、極楽の神よ。 

 縛れないというなら、

 貴方は地獄の閻魔よりも愛を知らないのね。


「好きだった! 君が好きだった! でも、冗談めかしてしか言えなかったんだ! 君が好きだ、愛しいのに、愛しい――――――――――――君が欲しいよ」

「――――――――――――あげる、あげる。地獄の業火で焼かれるの。私。骨の髄まで基実様で染め上げて」


 基実と鈴姫は涙をこぼしながら畳に倒れこんだ。口元は笑いあえるのに、どこまでも、哀しい。













「どうか、朝日を拝むまでは」


 愛した恋人と私を、宵闇で隠して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ