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鬼火の吐息  作者: 数寄亭 福
炎の娘と壁の手
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拾柒  紅蓮覚醒

「鈴姫様、」

「来ないでっ!」


 うずくまった彼女は、漆黒の髪を振り乱して半ば狂ったように叫んだ。炎雷が鈴の肩に載せようとしていた手を引っ込める。


「あんたはいいわよ! まだ若いし、端正な顔だって持ってるし、何より――――――――――――人間じゃないの! それに比べてどうよ?! 私は疎まれて、気味悪がられて、変な妖怪に襲われるしさぁ! 好きになった人だって、私を見て気味悪がるのよ!? 私だって、人間だったのにっ」

「――――――――――――騒がしい」



 まさに、地を這うような。腹のそこから震えさせるような、そんな、声。

 空気が、乾いた。


 炎雷の鋭い目が、声が、まとう空気が、漂う存在感が、並みのものではない。瞼が閉まらなくなり、喉が焼け付くように痛い。畳に付いた足は縫い付けられたように動かなくなり、一つの静止画のようになった。


 さらり、となる様な豊かな白銀の髪の奥から、紅色がかった瞳がのぞいている。


「……鈴姫、」


 炎雷の小さな唇が動いて、言葉をつむいだ。先ほどの声とは違う明るい音色を奏でる彼女の声だが、鈴はあまりの恐れに肩を揺らした。目の前の炎雷は、ただ無表情で自分を見るだけだというのに。彼女が手を伸ばす。


 これが、恐怖だ。


「や……やだっ、やだああっ!」

「何をそんな恐れるのですか」

「来ないでよっ……何なのよ……!」

「はて、それはこちらが言いたいのですが」

「何……何なの……っあんた! 人間じゃないわ!」


 伸ばされた手が、ふ、と止まった。炎雷の瞳が揺れている。まるで不安定な炎のように。ちらちらと、奥のほうの色を変えながら燃え続ける、紅蓮の存在のごとく。

 鈴は涙の膜が張った自分の瞳と、彼女のそれが、似ていると感じた。でも。


「どう?! 人間って言うのを否定されるのは?! 悲しいでしょ、わかる? あの、恐ろしくて気味の悪い存在と同じにされるのは!」

「鈴姫様!!」


 炎雷の師、晴明から切羽詰ったような声が鋭く飛ぶ。しかし鈴は言葉をつむぐのをやめない。


「どうせ、人間に愛されない『妖』なのよ!」


 途端、鈴の髪の毛の端が燃え出した。本当に小さな灯火、だが確かに黒髪を消す、炎。


「炎雷! 落ち着け!」

「燃えてる……っいやあぁぁぁあぁっ!」


 触れもしないのに燃え出した髪に、鈴がパニック状態となる。晴明が思わず炎を手で包んで消した。少々熱かった様だが、そんなものを気にしている場合ではない。焦りながら炎雷を見れば、彼女はすこぶる機嫌よさげに首をこてんと傾けて笑う。

 

「……ふふ、何で消しちゃうの?」

「何で……ってお前……! おい、氷嵐てめぇいつまで後ろ向いてるつもりだ!」

「……安倍さんよぉ、俺に助けを求めるってのか? 炎雷(ソイツ)との約束、破ることになるんだぜ?」

「晴明! なぜ私を選ばない!」

「てめーが空気読めねぇやつだからだよっ」


 ごん、と鈍い音がして道満が白目をむいて倒れる。ためらいなく殴った。その原因である晴明は、やりきった、という満足げな顔をしてから、氷嵐に向き直る。


「んなもん、どーでもいい! 俺らは人間だ! 嘘つくことがあってもいーだろ」

「……仕置きがあったら、安倍さんがやられろよ」

「……後ろ向いてていいy「さぁて安倍さんからの特別オファーだ、張り切っていくぞーぅ」


 氷嵐が立ち上がって伸びをしてから、道満を基実の隣に寝かせる。顔キモい、とか呟いたのが聞こえたが、晴明はスルーしておいた。だって本当だもん。







「さぁて、本日の依頼だ。張り切っていくぜ? 安倍さん」


 彼女が熱いなら、俺が冷やしてやろう。

あと……ちょっと!

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