拾参 本領発揮
「では、晴明様。そろそろご依頼に答えましょうか」
「……そうだな」
晴明は、炎雷の言葉で軽やかに立ち上がる。畳が擦れる音だけが鳴る部屋。炎雷は口の端を吊り上げた。
(どうだ――――悔しいか、蘆屋の者たち)
その思惑にそっくりそのまま当てはまるような顔をした彼ら。炎雷も晴明の後を追い、例の壁の黒ずみの前に立った。後ろでは、畳を指先でとんとん、と叩く音が忙しなく響いている。きっと、道満がいらいらしながら此方を恨めしそうに見ているのであろう。炎雷は、彼らに背へを向けたまま、小さくもよく響く声で言った。
「晴明様、道満様。ご依頼の余興に、射覆でもなさいませんか?」
晴明がその声に反応して、薄く笑う。彼は道満のほうへ向き直った。射覆とは、隠されたものを言い当てるというもの。陰陽師たちは、様々な方法を使い言い当てる。なかでも晴明は射覆を得意としていた。
「私は構わないが。道満、お前はどうする」
「愚問だな。受けなければ私の顔がたたない」
もっとも、道満も一流の陰陽師。射覆など、何度もこなしたことがあり晴明と結果を争ったこともあるのだ。
風が鳴り、日がだんだんと傾き始めている。部屋の畳に落とされていた人影が、少なくなっていく。道満が立ち上がり、晴明の隣へ肩を並べる。炎雷は氷嵐が腰を下ろすあたりに並んだ。
「では、基実様。都随一と呼ばれる陰陽師の、摩訶不思議な対決。篤とその目にお焼き付けください……!」
彼らの戦いは、炎雷の声で静けさを含みつつ幕を開けた。
「くぅ……!! 晴明! お前なんでそんな分かる! 俺なんかまだ影しか見えないぞ!」
「ふふふふふ、所詮その程度なんだよ。お前はな」
「クソッ」
――――――――ただ、彼らはシリアスな場面が苦手だ。
いくら難解な書物を読みこなしても、不治の病を治しても、魑魅魍魎な世界で幼いころから生きていても、そんな彼らだから‘格好いい’とは言いがたい。まるで幼い子が玩具の取り合いをするような、そんな雰囲気の中、貴族の前で大真面目に射覆を行っていた。
晴明は、白い壁に向かい目をつぶって呪文を唱えていたが、やがて静かに目を開けた。隣で力みつつ、必死で呪文を唱える道満を華麗にスルーし、基実に向かってさわやかに笑った。
「見えましたよ」
基実は大きく目を見開き、興奮気味に晴明に歩み寄り、白い壁を指差す。日はどんどんと落ちながら、部屋の中に赤い灯火を残してゆく。夏の暑さの残し火だ。
「晴明さん、何が見えたんですか!?」
「それはですね――――――――、道満。お前うるさい。負けたのを認めなさい」
「……ッ! わかったよ!」
道満は目を開け、炎雷・氷嵐の隣に音を立てて胡坐をかいた。
「見えたのはですね――――――――」
晴明が口を開いたとき、炎雷たちの目の前――――例の壁の黒ずみから、風を切るような鋭い音がした。炎雷は、確実にそれを聞き取り、目で追いながらも冷静に呟いた。
「晴明様、お話をお邪魔いたします」
「見えたのは――――――――『鈴姫』様。少々嫉妬深い、この手の持ち主ですね?」
炎雷が指差すのは、自らの首――――に巻きつく、真っ白な腕だった。




