第5話 特例
ライブハウスのはずれ、一つのワープバンドが光っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
ライオン、アムールトラ、ミツオビアルマジロの三匹が、現実世界のアフリカの様子を見ていた。そして、その視線の先には、ぐったりとした一匹のオスのライオンの姿があった。
「あのオス、レオだっけ。大丈夫なの?」
アルマジロが聞くと、となりのトラが答える。
「額に傷があるだろ?あそこからウイルスが入ったみたいでな。
……もうすぐ、こっちに来るかもな」
「……っ」
その瞬間
すぐそばにいたライオンのメスがサーッと離れていった。
「そういえば、あの子知ってる?
私初めて会ったんだけど……」
アルマジロが首を傾げると、息を呑んだあと、トラが答える。
「あの子はライオンのパンテラ」
一瞬の間。
「……レオの妻だ」
パンテラはある小さい施設に戻った。
そこはアフリカの生き物たちが集まる場所だった。
「…………」
トラとアルマジロも戻ってきた。
「パンテラ……」
トラが呼ぶと、パンテラが口を開いた。
「……あぁ、ドット」
アムールトラ、ドットが心配そうに話す。
「大丈夫か?」
「……うん」
「まぁ、思うとこはあるだろうが……あんたはレオの妻だ。再会できるんだし、こっちに来たときは出迎えてや――」
「違うの!」
パンテラの叫びが、ドットの声を遮る。
「違う?」
「私たちの群れが崩壊して、レオも一匹になった。私はその後ハイエナにやられてこっちにきた……」
それを聞いた途端、部屋の端にいたハイエナたちが思わず叫ぶ。
「……!? うちの仲間がすみません……」
「ううん、いいの。自然界のことだから」
「こっちでレオの様子も見てたし、近々こうなることは分かってた。私だって会いたいって思った……」
「だったら……」
ドットが言った瞬間――
「でも……会いたいって思ったらダメなの」
「……? 何がだ?」
「だって、ここは死後の世界よ。会うためにはレオがこっちに来ないといけない」
「この世界で会いたいと願うことは、死を願うことになる。そんなこと思ってないのに……」
死後の世界で会いたいと思うことに対し、パンテラは卑屈になっていた。
「もう、どうすればいいか、わからない……」
「……ねぇ、私、どうすればいい…?」
「…………」
ドットは少し考えたあと
「……俺は口下手だから、言い方がちときついかもしれないが……」
「レオの妻はパンテラだ。パンテラが迎えてやらねぇと……って思う」
「…………」
肩がすれ違う。
パンテラはドットを横切って、また外に出て歩いていく。
「おい」
ドットが引き止める。
「……レオが来るときは、迎えてあげてくれ」
「…………」
パンテラは一度立ち止まったあと、そのまま歩いていった。
辺りは、沈黙に包まれる。
「……はぁ」
ドットはため息をつき、施設の奥に入っていた。
すると、棚の上に止まっているヒゲワシが話しかけてきた。
「パンテラのやつは大丈夫なのか?」
「あぁ、どうだろうなぁ。レオの状態を聞いてから顔色が変わり、日に日にひどくなってる気がするが……。あー思っていたとはな……」
「……ってか、アズマいつもそこにいるよな」
ヒゲワシのアズマがいるのは、3メートルはある棚の上だった。
「ここが落ち着くからな。パンテラもよく棚の上に座ってるぞ」
「あぁ……前も登ってたな」
「ライオンは群れで暮らすが、パンテラはここに来たときから一匹でいることが多いな。
別に群れとは仲悪そうではないけど……」
アズマは続けて
「……というか、ドットはなぜここに来る?ここはアフリカの生き物たちが集まるとこだぞ」
「……?」
ドットの不思議そうな顔を見ると、アズマは慌てて飛び降りる。
「あー別にあれだぞ? トラはアフリカにいないんだから、ここには来るなって言ってるわけじゃないぞ?ただ不思議でな。なんて言ったって……」
「アフリカ出身じゃないやつでここに来るのは、ドットだけだからな……」
少し考えてからドットは呟く。
「別にこれと言った理由はねぇよ。
……成り行きみたいなもんだ」
「パンテラのやつ、大丈夫だといいがな……」
外はいつの間にか暗くなっていた。その真っ暗闇の中、少しずつ星が帯び始めていた。
「この辺りにいればいいか」
リューセイたちはハレー彗星を観覧するために、適当な場所に待機していた。
「お、リューセイたちも来たのか」
「……? あーリオウとスリか」
ハレー彗星の観覧のため、多くの生き物が集まっていた。その中には、リオウとスリもいた。
すると、ミラが口を開く。
「そういえば、イノセントワールドでもハレー彗星見れるんだね」
リューセイが返す。
「ここの空は、現時点で最も大きな自然現象が起こっている空が反映される。ハレー彗星が来れば、さすがにここの空でも見れるだろう」
そのとき――
「リューセイ!」
後ろから声がした。
「あぁ、リイも来たのか」
現れたのは、リューセイと同じような見た目だが、リューセイよりも色白の恐竜だった。
首を傾げるミラに、リューセイが答える。
「リイは俺の妻だ。そういえば、まだ紹介してなかったな」
「いつもリューセイがお世話になってます」
「……俺が世話してんだけどな」
リューセイがそうボソッと漏らす。
――そのとき
「おい、そろそろだぞ」
リオウがその短い腕で空を指す。
その瞬間、一筋の光が、空を横切った。
それは他の星とは明らかに違い、肉眼でもはっきり形が見えるほど大きかった。
――ハレー彗星だ。
「おーーー!」
辺りに歓声が上がる。
「うわー、隕石思い出すわー」
リオウがそう呟いた瞬間、リューセイは思わずビクッとして振り向く。
――すると、あの彗星のあと、明らかに先ほどよりも星が増えていた。
そしてその星は一つ、また一つと空を横切っていった。
「これは?」
ミラが不思議がる。
「あれはオリオン座流星群だ」
リューセイはいつもの調子で答える。
「ハレー彗星が残した塵が、大気に飛び込むことでオリオン座やみずがめ座などの流星群が降るんだ」
「綺麗だねぇ〜」
ミラがそう言うと、今度はリオウが口を開く。
「……流星群って、なんか寂しいよな」
「寂しい?」
リューセイが聞く。
「流れ星が流れている間に願い事を言えば叶うなんて聞いたことがあるが、そんなこと言う暇がないくらい速いだろ?」
「星は命に例えられたりするが……儚いよな……。
星屑なんて言葉もあるし」
「………星屑か……」
リューセイの囁きを聞くと、リオウは続ける。
「そもそもあの流星群も、元はハレー彗星の塵なんだろ?たまたま、置き去りになった塵が、見えるだけ……。一瞬、輝くだけ……。
それで歓声が上がるって、何だか皮肉に思うんだよな……」
少しの間。
すると、小さく考えるようにリューセイが言った。
「……一瞬でも、輝けるなら、それでいいと思うけどな」
「そうか?」
「中には大気に入らず、見られないものもある。
そんな中、一瞬でも見えて、輝けるなら、それだけで十分だろ」
「……ふーん」
(ミシシッピ川のことを除けば、最近妙に平和だな……。……まぁ、気にしすぎか)
リューセイは一瞬目を閉じた後、幾度も流れる星を眺めていた。
その後、流星群が見えなくなると集まっていた生き物たちは解散し、夜は終わった。
――また、イノセントワールドの新しい1日が始まる。




