第3話 沈静開始
仮想部についた一同は、ミシシッピ川の下流付近に来ていた。
一見落ち着いてはいたが、川はやや大袈裟に波打っていた。
「さて、激流抑制部はどこだ?」
その問いに答えるように、下流のほうから何かが近づいてきた。
姿は見えないが、水面には巨大な帆が突き立ち、ゆっくりと迫ってくる。
するとリオウが言った。
「きたきた。スリだ」
次の瞬間、水しぶきが上がった。
川の中から、巨大な影が浮かび上がる。
「あれって……」
アオイが思わず呟くと、リオウがすぐさま返す。
「あれはスリ。種類はスピノサウルス。奥の方にいるビーバーたちも含め、激流抑制部だ」
巨体は水を振り払いながら、こちらへ向かってくる。
その動きはどんどんスピードを増し……
そして……
「えーい!」
「がっ!」
スリのその長い顎が、リオウを軽くふっとばした。
「ハッハッハ! きてくれたのか!」
弾んだ声が、川辺に響く。
「ったく、何してくれてんだ」
起き上がるリオウに、スリがこんな事を言う。
「だってさー。
リューセイだけじゃ話しててつまんないだもん」
「あ?」
プチギレのリューセイ。
そしてリオウはスイと互いの爪を鳴らしアイコンタクトをとった後、聞いた。
「氾濫は大丈夫そうなのか?」
スリが返す。
「うーん。水流が速いからどうなるかは分かんないけど、まぁ腕試しだな」
そう言った後、巨体はゆっくりと水中に沈んでいった。
「うーん」
何かを確認するスリに、仲間内のビーバーの一匹が尋ねた。
「水流どれくらい?」
「うーん、だいたい3.5といったとこかなぁ」
「結構速いね」
「よし、急いで木を積むぞ!自然は?」
「自然に」
その言葉を合図に、ビーバーたちは雄叫びを上げ、一斉に動き出した。
岸辺の木へ向かい、前歯を立て、倒し、引きずる。
それに続くように、スリも動く。
太い両腕で木を抱え、川へ入る。
アオイは尋ねた。
「あれ何やってるんですか?」
その問いに、リューセイよりも早くリオウが答える。
「激流抑制部は唯一機械を使わない部なんだ。
あーやって木をとって川にダムを作って激流を軽くせき止めて氾濫を防ぐんだ」
「ダムで防ぐんですか?」
「あぁ、今回は水流が早くて時間がなさそうだから、あまり木を砕かずに使用するっぽいな。
時間があればもっと細い枝で作るんだが」
確かに、細かく加工された枝ではない。
丸太のまま、豪快に組み上げられていく。
すると、補足するようにリューセイが言う。
「ミシシッピ川は流域面積が広いから、おそらくあーやって大きな木で土台を作った後、細かな木で整えるんだと思う」
「すごいですね」
感心し、川を見つめるアオイ。その間にダムはみるみるうちに形を成していった。
そして――
「ふ〜こんなもんか?」
満足げな声。
仲間と短く言葉を交わした後、激流抑制部は岸へ戻ってくる。
「あとは激流が来るのを待つだけだな」
スリがそう言い放つと、今度はミラが尋ねた。
「でも、ダムでどうやって氾濫を防ぐの?」
スリが答える。
「ダムを作ると水位が下がるだろ?水が迫ってきたとき、ダムにぶつかる衝撃で流速が遅くなるんだ。
その後ダムは崩れるが、水位が下がった川に水がゆっくり流れ込み、結果的に氾濫は抑えられるという原理だ」
「へ〜」
少しおもしろがるような声でミラが言うと、スリが補足する。
「とはいえ、綿密な計算が必要だけどな」
不思議そうに振り返るミラ。
「ダムが脆いと流速が速いまま流れ込むから結局氾濫してしまうし、ダムが強かったら強かったで水が流れ込みにくくなって、今度は上流部で氾濫してしまう」
「だから、ダムはそれなりに強くはするけど、丁度いい塩梅に水が流れ込むような強度にしないといけない。この辺は慣れだけどな」
(なんか、すごいなぁ)
アオイの胸には感嘆が広がる。
――すると
「激流が来たよ!」
木に止まり、激流を監視していたプテラノドンが叫んだ。
スリが腕を組み言う。
「さて、見ものだな」
一同は今にも迫る激流を眺めながら、その行方を見届ける。
そして……
ザバンっ!
激流がダムにぶつかり、水しぶきが舞う。
流速は時間とともに落ち着き、水は下流へゆっくりと流れ込んでいく。
数分。
張りつめていた空気が、スリのひと言でふっと緩む。
「止まったな」
水位の上昇は溢れる直前に止まった。
「"ミシシッピ川、沈静完了!"」
スリがそう叫ぶと、辺りに歓声が上がった。
リューセイは軽く微笑んだ後、今回の沈静の様子をノートに書き留めていた。
アオイは感じた。
(……もう、死んだはずなのに。
ここでは、みんな生きているんだ――でも)
(本当に、自然を操作して大丈夫なのかな……)
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