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イノセントワールド〜死を迎えた生き物たちが自然を"ちょっとだけ"管理する物語〜  作者: GOLD
第一章 ようこそ、イノセントワールドへ

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第2話 新時代

 セラは歩きながら、淡々と説明を続けていた。

すると、何やら大小様々な生き物が行き交う、にぎやかでひらけた空間が見える。


「最後にこちら。新管理部設立部しんかんりぶせつりつぶです。」


「新管理?」


 セラは慣れた様子で返す。


「はい。自然管理の機器はこの世界に元からあったものですが、既存の機器を参考に新たな管理機器を作るべく、材料運びや設計などを行っている部です。この世界に来た生き物たちはまずここに入ります。」


 周囲を見回すと、確かに多くの生き物が忙しなく動いていた。


「……ってことは俺も?」


「はい。そんなにルールもないので気楽にいてください」


――そのとき


「はーい皆さん頑張ってくださーい」


 奥の方で声が聞こえた。


「ネジはあっち、大きさによって分けといてください」


 声のした方を見ると、黒い体の恐竜が立っていた。

体つきは細身で、小柄だが、大きな目がよく目立つ。

その目に迷いはなく、落ち着いた様子で必要な指示を飛ばしていた。


「あの方はリューセイ。自然管理本部記録係しぜんかんりほんぶきろくがかり。ここでは指示役を務めています」


 記録係。

 その担当と、今の光景が、アオイの中で少し結びつかなかった。


「リューセイ!」


 セラに名前を呼ばれるとリューセイはこちらに振り向き、すぐさま歩いてきた。


「お、新鳥(しんどり)か」


 その視線が、一瞬だけアオイの上で止まった。


「あ、はじめまして、アオイです。」


「お初です。俺はリューセイ。種類は小型肉食恐竜、トロオドンです。」


 自分から種類まで名乗るのは、ここでは普通のようだ。


「よろしくお願いします」


「ふーん。日本のカラスか。種類はハシブトかな?話はセラから聞いたか?」


「ふん、きっちりお話いたしました」


 セラの言い方に、リューセイはフッと微笑んだ。


「わかった。とりあえずここでは、たぶん最初ネジ運びとかを頼むことになると思う。

俺は専門ではないが、時々指示役も務めてるから、何かあったら言ってくれ。

またしっかり説明するとは思うが」


 指示役と言いながら、その口調は意外と柔らかい。


「分かりました」


 アオイは辺りを見回し、しきりに観察する。

その部品や生き物たちを見るや否や……


「うわぁ……すごい!

見たことないものがいっぱい!」


 急にテンションが上がった。


「……オリエンテーションのときもあんな感じだったのか?」


「いえ、まあカラスですし、好奇心強いんじゃない?そろそろここに慣れてきた頃だろうし……」


「……適応、早くね?」


 リューセイとセラがそんな会話をしていた。


――そのとき


「どうした?  新しいやつか?」


 不意に、頭上から声が降ってきた。


 見上げると、そこには煌びやかな巨木の枝に腰を下ろした猿の姿があった。


「うわぁ〜……ん? あれは?」


 思わず声が漏れる。


 セラはいつも通り落ち着いた調子で答えた。


「あの方は、ここ新管理部設立部の総長を務めています、ラフです。種類はマントヒヒですね」


 その瞬間、ラフは枝から枝へと器用に移り、するりと地面へ降り立った。


「こちら、今日から入ることになるアオイです」


「そうか。よろしくな」


 そう言うと、ラフは上唇をくいと裏返し、牙をあらわにした。

マントヒヒの挨拶か何かだろうか?


「……よろしくお願いします!」


 アオイがぎこちなく頭を下げると、ラフは満足そうに鼻を鳴らした。


「では、リューセイもラフも揃いましたし、もう大丈夫ですね。私は自分の持ち場に戻ります」


「もう行くのか?」


 リューセイが思わず聞いた。


「こう見えても、私の暇なときは少ないんですよ」


 そう言ってから、セラはアオイの方に向き直る。


「アオイさん。ここでオリエンテーションは終了ですので、今後はリューセイやラフの指示に従ってください。

分からないことがありましたら、トキのセラにお申し付けを。時々向かいますので」


 少しだけ柔らかな笑みを浮かべ……


「では、また会うときまで」


 そのまま翼を広げ、セラは軽やかに空へと飛び去っていった。


「俺も一旦戻る。新鳥は任せていいか?」


 続けてラフが言う。


「……あいよー」


 やや面倒くさそうに返事をすると、リューセイは軽く手を振った。


 ラフは作業場の奥へと歩いていく。

そこでは、石のように硬そうな頭部を持つ恐竜が、大きめの部品を前に頭を傾げていた。


「順調か?」


 ラフが尋ねる。


「たぶん、いいんじゃない?」


 そう答えた、まさにその直後だった。

部品が低く唸りを上げ、火花を散らしながら動きを止める。


「……頑張れよ」


 肩をぽんと叩き、ラフは去っていく。


「…………」


 次の瞬間――


 ガッ!


 嫌気が差したのか、石頭恐竜はその部品を頭突きで吹き飛ばしていた。


 一方、その一連の様子をじっと見ていたアオイは、別のことが気になっていた。


「あの……」


「……どうした?」


「あの、大きい木は何ですか?」


 アオイが羽で指したのは、先ほどラフが登っていたあの巨木だった。


「あれは、進化の樹だ」


「進化の樹?」


 思わず聞き返す。


「進化はよく樹で表現される。この樹は揺れも壊れもしない。俺らとともに過ごしてきた樹だ。

生き物の種類が増えるたびに、枝分かれが増え、枝が伸びる」


 改めて見上げると、確かに普通の樹とはどこか違う。


「生き物は一つの細胞から生まれた。

この樹が進化を象徴しているなら……おそらく芽は、葉が一枚の単子葉類だったはずだ」


「ふーん」


 そのどっしりとした巨木を見ると、大胆さと神秘的さでアオイは内心テンションが上がっていた。


 そのときだった。


「お、やってるなぁ〜」


 間抜けた声とともに、向こうから大きな影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


 アオイは、その巨体を見上げると、思わず口にした。


「……あれって、ティラノサウルス?」


 視線の先では、赤黒い巨体がゆっくりと歩いてくる。


「あぁ、あいつはティラノサウルスのリオウ。火山噴火抑制部かざんふんかよくせいぶ担当だ」


 全長12メートルはあろうか。

働いている生き物を横目に、リオウは悠々とこちらへ近づいてきた。


「ふ、相変わらず質素な部だな」


「たくっ……また来たのか?」


 リューセイの呆れを隠そうともしない声に、リオウは視線を下げて言い放つ。


「暇だったからな。別にいいだろ、邪魔なんてしねぇし」


 その返しに、リューセイは不満げに返す。


「はぁ……暇という理由だけでこっちには来ないでいただきたい!

いいか?  あんたみたいに図体がデカいやつは、ちょっと歩くだけで、地響きが鳴り、昆虫たちが慌てふためくんだ!」


 声を荒げるリューセイに対し、リオウはどこか楽しげだ。


「自分だって恐竜の端くれのクセに……」


「恐竜という一括りにしないでくれ。恐竜にだって大きいのも小さいのもいる……!」


 そんな言い合いの最中――


「リューセイ、ただいま〜!」


 噂をすれば影。

白の体色をした小さな恐竜が、軽い足取りでこちらへ駆け寄ってきた。


 リューセイは慣れた様子で聞いた。


「おう。砂嵐、終わった?」


「砂嵐終わったー!」


 その一連の会話に、アオイは疑問を浮かべる。


「…………砂嵐?」


 リューセイは一瞬考えるようにしてから、簡潔に答える。


「こいつはヴェロキラプトルのミラ。砂漠抑制部(さばくよくせいぶ)担当だ。さっき砂嵐を沈静してきたとこだ」


「新鳥?  よろしく〜」


 そう言って、ミラはどこからともなく『よろしく』と書かれた切り紙を差し出した。


 アオイには一つ、気になることがあった。


「……リューセイさん」


「ん?」


「さっきから管理部とか、抑制部とか言ってますけど……違いってあるんですか?」


「……なんだ。セラから聞いてなかったのか。何がきっちり話しただ」


 小さくため息をついてから、リューセイは説明を始める。


「自然管理部には、大きく分けて管理部と抑制部がある。

管理部は、24時間ずっと様子を見張る部署だ」


「ずっと……?」


「とは言っても、生き物の数が多いからな。

一グループの担当時間は長くても十五分くらいだ。なんなら暇すぎて、担当時間外でも来るやつもいるらしい」


(時間外でも……)


「一方で抑制部は、普段は何もしない。

火山、洪水、砂嵐……自然への介入が特に大きい現象を扱うから、誤作動を防ぐため極力触れないんだ

……まっ、このあたりの部が確立されたのは割と最近だけどよ」


「……なるほどです」


 おそらく他の生き物たちにも同じ説明をしてきたのだろう。リューセイのその言葉には一切の迷いはなかった。


「こっちはこっちで、ほとんどの時間暇だから、別の部に行ってるやつもいるしな…」


「俺のことか?」


「違うとは言えないのが腹立つな……」


 リオウが言うと、リューセイは呆れた顔で返した。


 すると、アオイはハッとする。


「あ! さっきリオウさんが暇って言ってたのは……」


「あぁ。だいたいやることなくてな」


 どこか誇らしげに言うリオウ。


 そのとき、控えめな声が割り込んだ。


「あの……」


 リューセイのそばに控えていたコウモリが、

エコーラインを差し出す。


「テラスさんから、緊急のお電話です」


 リューセイは受け取ると、すぐに応答した。


「……よう、ヒキコウモリ。居眠りしてねぇだろうな」


「無駄話はよせよ。

超音波通信には時間制限があるんだから」

 

 フッと笑うとリューセイが返す。


「……で?  どうした?」


 一瞬の間。


「昨日の豪雨の影響で、ミシシッピ川に氾濫の恐れがあるとの情報が入った。

至急、仮想部・北緯30度、西経90度へ移動してほしい」


「あの雨、豪雨になるほどじゃなかったはずだが?」


「予定ではな。だが、アメフラシの野郎が、また勝手に機械を操作して豪雨にしやがったんだ」


「……はぁ……」


 リューセイは深いため息を漏らす。


激流抑制部(げきりゅうよくせいぶ)はすでに出動している。記録係のお前も来い」


「りょーかい」


 軽く返し、通信を切った。


 ミラがリューセイに聞く。


「どうしたの?」


「ミシシッピ川が氾濫するかもだってさ。仮想部に移動だ」


 リオウはやや呆れた声で言う。


「またアメフラシが勝手に雨降らしたのか?」


「あぁ……」


(勝手に……)


 その頃――


「おい、何やってんだ! また豪雨になってるじゃねぇか!」


 管理機器の前で、首長竜が怒鳴る。


 その横で、灰色のウミウシが気まずそうにしていた。


「……だって……雨は恵みだよ? ウミウシだって、雨好きなんだよ?」


「……それと勝手に操作するのは別問題だろ!」


「………………」


「……なんか言えよ!?」


――場面は戻る。


「とりあえず、ミシシッピ川行ってくる」


 リューセイが言うと――


「僕もついてく!」


「俺も暇つぶしに行こうかな。

スリのやつもいるし」


 ミラとリオウが続く。


「……なんでついてくるんだ……」


 呆れた声で、リューセイが呟く。


 アオイはその様子を眺めながら、胸の内で思った。


(……これが、自然管理……)


 するとリューセイが、ふと振り返った。


「どうせなら、君も来るか?」


「……え?」


「来たばかりだ。この世界を見るには、ちょうどいいだろ」


 一瞬の迷いのあと、アオイは小さく頷く。


「じゃ、じゃあお願いします!」


「よし。北緯30度、西経90度を入力すれば行ける。ついてこい」


 そうして一同は、仮想部へと向かった。


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