表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イノセントワールド〜死を迎えた生き物たちが自然を"ちょっとだけ"管理する物語〜  作者: GOLD
第一章 ようこそ、イノセントワールドへ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話 オリエンテーション

人間は死ぬと、天国か地獄に行くと言われる。

――では、人間以外の生き物は、死ぬとどこの世界に行くのか。


 気がつくと不思議な空間にいた。

空、地面、東西南北。どこもかしこも白い景色。

どこまでも続くような、けれど自分が立っているところには、前方に道が続いているのが見えた。


 そして、そこにはより白い光が放たれる出口のようなものがあった。


「俺はアオイ。種類はハシブトガラス」


 誰に聞かれた訳では無いが、自然と語り出す。


「俺はさっき、死んだ。理由はトラックだ」


 いつも通り、猫と喧嘩していた。

だが、引っ掻かれて羽根を傷めた。

そこにトラックが来て――そこからは記憶がない。


「12歳だ。ハシブトガラスの平均寿命は7〜8年だから、俺は割と長生きしたほうだと思う」


 ここに来た時にはもう痛みも恐怖もなかった。


「で、今はこの光の道を歩いている」


 この道はどこに続いているのだろう?

全く予想はつかなかったが、不思議と引き返す気にはならなかった。


 そして――


 あの出口のようなものに入ると、白光に包まれた。



「……………」


(ここはどこだ?)


 思わず、足が止まった。


 広がっていたのは、見たことのない光景だった。

先程とは打って変わって青くひらけた世界。遠くを見ると、ところどころに見慣れない機器が置かれていた。


 そして――

そこには見たことのない生き物が、あたかも当たり前かのように行き交っていた。


「はいど〜も〜!」


 そのとき、場違いなほど明るい声が、横から飛んできた。


「私はこの世界の自然管理本部(しぜんかんりほんぶ)・副監督、およびオリエンテーション係を務めております、セラと申します! 種類はトキです。どうぞ、お見知りおきを!」


「……?」


 目の前には、体が白く、されど頭部は真っ赤の奇妙な鳥が立っていた。


 トキ? セラ?

頭が、まったく追いつかない。


「まぁまぁ、戸惑うのも無理はありません。順に説明していきますね」


 セラは続けた。


「まず確認ですが、あなた、さっき光の一本道を通ってきましたよね?」


「……は、はい!」


「その道は、現実世界と死後の世界のあいだにある道です」


 さらっと言われたが、その言葉を聞くと背筋に冷たいものが走った。


「あなたは先程、生を終え、この世界に来ました。

ここは……人間以外の生き物が集う、死後の世界です」


 辺りを見ると、確かに姿形、大きさの違う生き物がうろついていた。


「この世界には、自然を管理するための機械があります。

自然現象を"少しだけ"セーブして、地球が混乱しないようにするためのものです」

「いわば、自分たちを生んでくれた地球への恩返しですね」


 セラは一歩下がると――


「ようこそ!

イノセントワールドへ!」


 翼を広げ、自慢げに辺りを指した。


 頭の中は、疑問だらけだった。


「……????」


「ですよね」


 セラは軽く笑った。


「立ち話で全部分かるとは思ってません。

なので……」


 くるりと振り返り……


「今から、この世界のオリエンテーションを始めます。

私についてきてください!」


 言われるがまま、アオイはついて行った。

すると、セラは、どこからともなく黄緑色の旗を取り出すと、勢いよく振り上げた。


「ではでは!

オリエンテーションを始めまーす!」


 セラは軽快に歩きながら語り始める。


「現在、地球に生息している生き物は、およそ五百万種から三千万種。

絶滅した生物まで含めると……その数は、もうとんでもないことになります」


 旗を振りながら、くるりと振り返った。


「そして、その生き物たちはすべてこの星、地球に生まれました」

「地球は"奇跡の星"なんて言われますよね。

暑くなったり、寒くなったり。

酸素ができたり、生命爆発があったり……。

さらには五度の大量絶滅の末に今があって……。

くぅ〜!」


 内容は重かったが、明らかにテンションが上がっていた。


「いや〜やっぱりいいですよね、生命って!」

「こんな無茶苦茶な歴史をくぐり抜けて、それでも続いてるんですから」


「んー、よく分からない」 


アオイが不思議そうに呟く。


「そうですか……私はこの話永遠にできますけどね」


「なんか、すごいですね……」


 徐々にスピードの増す話に、ついていけないアオイ。


「おっと! 話が逸れましたね。先ほども言いましたが、この世界では、そんな地球への“恩返し”として、機械を通じて自然を少しだけ調整しています」


 "少しだけ"


 その言葉が、妙に印象に残った。


「たとえば、乾燥している地域に雨を降らせたり。

逆に、雨が多すぎる場所では、降水量を少し抑えたり、ですね」


 セラは羽で、遠くを指した。


「たとえば……あれ!」


 言われた先を見ると、いくつかの機械が並び、そのそばに二つの影があった。


「何かある!」


「あれは北太平洋雨量管理部きたたいへいよううりょうかんりぶです」


 近づいていくと、二匹の首の長い爬虫類が、機械の前で話し込んでいた。


「よっしゃ! レインタイムきたぞぉ〜!」


 首長竜、フタバサウルスがやけに楽しそうに声を上げる。


「お前さぁ……天気予報で晴れって言ってた日に雨降らすのやめろ」


 となりにいるノトサウルスが呆れたように言う。


「へっ、だって面白いじゃん!

予報では快晴だって言ってるのに、雨が降るかどうかの決定権は俺のひれの中にある!」


 得意げにひれを振る。


「そして結果は! 土砂降りなんだぜ! ハッハッハッハッハ!」


「……性格悪いわぁ……」


 仕事というよりは、世間話のように見えた。


「ふん。そもそも最近雨降ってなかったから、ちょっと降らせようって話だったじゃねぇか。雨量はこれくらいでいいか?」


「いいんじゃね。豪雨じゃなければ、あとで調整できるし」


「よっしゃ! じゃあいくぜ! レッツ・レインタイム!」


 フタバサウルスはそう叫び、ひれで機械を操作する。

 すると近くの上空……と同時に、機械の上にあるモニターに映された現実世界の港の空にも雨雲が現れる。


 次の瞬間、雨粒が落ちてきた。


「あんな感じで、時々機械を操作して調整してるんです」


 セラは、さらっと言った。


 そのとき、モニターに映る現実世界の海に異変が起きた。


 ホエールウォッチングのボートの目の前に、巨大な黒い影が浮き上がる。


「おっ? ザトウクジラだ」


「ブリーチングだな」


 首長竜たちがそう言うと


「ブリーチング?」


 アオイは思わず聞き返す。

すると、セラがすぐに答える。


「クジラが威嚇したり、寄生虫を落としたりするために行う水面ジャンプのことです。

まぁ、実際何で跳んでるかは、クジラに聞いてみないと分かりませんけど」


 そう言った直後、今度は目の前の海からもザトウクジラが姿を現した。


「サンゲ、サンゲ、ロッコンショウジョウ、コンガラドウジ、セイタカドウジ――」


 何やら呪文のような鳴き声を上げながら跳んだ後、豪快に沈んでいった。


「あれは?」


「あれは遊んでるだけですね」


「ふーん」


 理解はできていないまま、アオイは海を見つめる。


「さてさて!」


セラが、ふわっと羽ばたく。


「次、行きましょうか!」


(……まだ、あまり理解はできてないけど、なんだかちょっと楽しいかも……?)


 そんな事を思いながら、アオイもついて歩く。

すると突然、セラが思い出したように立ち止まる。


「あっ、そうそう。これ、渡さないとでした」


 セラは何かを探すように、少しごそごそと羽の中を探り始めた。


「羽、出して」


 言われるがまま翼を広げると、何かが巻き付けられる。


「これは移動用の、いわばリストバンドみたいなものです。

……リストバンド、知ってます?」


「都会で人間が、なんかつけてた!」


「そうそう、それです!」


 セラは満足そうに羽ばたく。


「正式にはワープバンドっていいます。ここにボタンが三つあるでしょう。あなたから見て左が緯度、真ん中が経度を入力するボタン。

緑等部(りょくとうぶ)仮想部(かそうぶ)を移動する時に使います」


「緑等部……? 仮想部……?」


そう聞くと、セラは続けて説明する。


「今私たちがいるのが緑等部で、こことは別に自然の設計図のような別世界がありまして、そこを仮想部と言います」


「設計図?」


「はい!自然を操作した影響は全て仮想部に働き、そこから現実世界にも反映されるんです!

これらのボタンに緯度と経度を入れると、その場所へワープできるんですよ」


「へぇ……」


「自然管理をする時によく使われます」


 そう説明したあと、セラは続けて、一番右にある少し離れたボタンを示した。


「でも今はこれじゃなくて、この右のボタンを押してください。

押すと目の前に光が出てきます。そこを通ると、自然管理の本部に移動できます」


 どうやら、自然管理の要となる場所らしい。


「私が先に押しますので、それに続いてくださいね」


 そう言ってセラがボタンを押すと、白い光が現れ、彼女の姿を包み込んだ。


 アオイも、それに続く。


 次の瞬間――


「ここが、本部です」


 目を開けると、見慣れない機械に囲まれた室内に立っていた。

その少し先のほうを見ると、一匹のコウモリが天井から逆さにぶら下がっていた。


「あのコウモリは……?」


「あの方が、本部の総監督を務めています。アブラコウモリのテラスです」


 その瞬間、コウモリがふわりと舞い降り、機械の前に降り立つ。


 うんしょ、うんしょと小さな手で這いながら、地道に進んでいった。


「……飛べばいいのに」


 ボソッとセラが呟く。


 すると、目の前のコウモリが這うのをやめた。


「……音が、乱れてやがる」


 そう小声でつぶやくと、コウモリは何か小さな装置を取り出し、それに超音波を吹きかけた。


「――――――」


 機械が微かに反応したことを確認すると、コウモリが話しかける。


「……お、ミラか。

ナミブ砂漠の南東に砂嵐が発生した。まだ勢力は大きくないが、念のため様子を見てくれ。

忘れるな。

自然は自然に。これは掟だ」


「……今のは……?」


 アオイが聞く。


「他の部に連絡しているんです」


 セラはくるりと振り返り、説明を続ける。


「この世界には電波はありません。その代わり、超音波を使います。

手に持ってるのは超音波通信機ちょうおんぱつうしんき

みんなは略してエコーラインと呼んでいます。

あれに超音波を吹きかけると、一定時間、他の部と繋がるんですよ」


「へぇ……」


「なので、必ず各部には超音波を出せる生き物が配属されています。

ほとんどはコウモリですね。

ただ、海の部ではさすがに効率が悪いので、同じく超音波が使えるイルカやクジラが担当しています」


 そしてセラは続けざまに話す。


「そして先程テラスが言ってましたが、この世界には"自然は自然に"という掟があります」


「自然は自然に?」


 不思議と脳裏に残るその言葉に、アオイは聞き返す。


「はい。自然には2つの意味がありますよね?緑の自然とありのままの自然。私たちは自然を操作していますが、全てを操作するのではなく、あくまで自然のままを尊重するという意味です」


 アオイは思い出す。

彼女がさっき言っていた"少しだけ"という言葉。


「基本は自然のままを尊重し、時に混乱が起きそうなときに少しセーブする……というのがこの掟です」


(まだよくわからないけど、なんか……いいな)


 聞き慣れない言葉ではあったが、不思議と納得してしまった。



 その頃――


「ということなので、これから部署に行ってくるね!」


 そうミラが明るく言うと


「ふんっ……あいつも心配性だな」


 呆れた様子でリューセイが返した。


「砂嵐程度、待っていれば自然消滅するでしょうに……」


「砂嵐を舐めちゃいけないよ」


 ミラはにこっと笑う。


「過去には勢力が拡大して、小屋が倒壊したこともあるんだ。

ナミブ砂漠だとそうだなぁ……ナマクアカメレオンあたり吹っ飛ぶんじゃない?」


「カメレオンが吹っ飛んでるところ、見たことないんだけど……」


「まぁ要するに、油断大敵ってこと」


「……大丈夫だろうがよ……」


 リューセイがボソッと言う。


「ふふん! と、いうことで……」


 ミラは一枚の切り紙を取り出した。

そこには、『いってきます』の文字。


「……早く行け」


 リューセイは指差し棒でそれをすくい、そっけなく言った。


「ふふっ。じゃあ行ってくるね!すぐ戻ってくる〜!」


 そう言って、ミラは羽をパタパタと軽く羽ばたいた後、駆け出していった。


「………ふんっ……」



――場面は戻る。


「昼まで働いて、大変ねぇ」


 セラがテラスに言う。


「アブラコウモリは本来、夜行性なのに」


「全くだ」


 テラスはため息をついた。


「生前は夜にのんびり暮らしてたのに、今は昼は仕事に追われ、なんなら夜に暇がある。

昼夜逆転……あーややこしい!」


「そっか。コウモリは夜行性か」


 アオイはハッとする。


「ええ。ほとんどこの本部に籠っているので、いつの間にか“ヒキコウモリ”なんてあだ名もついてしまいまして」


 セラが笑う。


「最近はそれを気にして、夜に少し散歩……いえ、散飛行?してるんですが、もうあだ名は定着しちゃってますからねぇ。

トキ、すでに遅しってね! ハッハッハッハッハ!」

「……次、行きましょう!

続いてが最後です。なお、次に行く部署にアオイさんも就くことになります」


「え、もう?」


「はい、まぁそんなに大変な部署じゃないので安心してください。とりあえず、詳しいことは次で!

ついてきてくださ〜い!」


 とにもかくにも、ついていくしかなさそう。

アオイは、軽快に歩くセラのあとを、慌てて追っていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

面白ければ、ブックマーク、評価、コメント等貰えると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ