きゅうり
それにしても、那月は…
なぜ、うちにいたのだろうか?
「今さ、那月来てたよね?」
母に問うと、母は
「あぁ、スイカ!大きなスイカ持ってきてくれたのよ〜。昔もよく、那月ちゃんがうちに来て、色々もってきてくれたりしたわよね。なんか懐かしいわあ。今は冬季も帰ってきて、那月ちゃんもいて。お母さん、若返ったみたいだわ。いや、若くなったのよ!」
…
なぜ、若返る?
てか、若返り確定…
これは、若返ったのではなく、過去を振り返っただけ…なんだよね。
母よ、まぁ…
うん…そういうことにしておこう。
色々ほんとのこと言ったら、面倒なことになりそうだし。
「あ、そうだ!うちにも沢山きゅうりがあるのよ。冬季、あんた暇でしょ。那月ちゃんちにきゅうり持っていってよ」
え…
大丈夫…かな。
なんか、不安なんだが…
「でも、オレが行ったら…那月嫌がるかも」
「なんでよ?そんなわけないない。ほら、いったいった」
沢山のきゅうりを抱えるオレ。
オレがカッパだったら、そりゃ嬉しいさ。
でも…
オレはカッパでもないし、たぶん前世も来世もカッパじゃない気がするんだよね…
カッパになりきれないオレは、ドキドキしながら、那月の家にピンポンした。
な、なんか…ピンポンって、ドキドキワクワクするんだよね…。
なぜだろう…
「はーい、いまあけまーす」
那月の声だ。
ガチャっとドアがあくと、那月は…は?みたいな顔をした。
そして、少し低めのトーンで
「なんのごようですか?」
と、にらみをきかせてきた。
…
「あ、あの…きゅうりを…スイカのお礼に」
「そうですか。わざわざありがとうございます。では」
「え、待って!那月!」
…
「名前…気安く名前呼びやめてください。わたし、馴れ馴れしい人嫌いです‼︎じゃ」
パタンとドアがしめられた。
…
那月ー…
なんでだよ…
今までずっと、オレは那月って呼んでたやん…。
なぜ、大学生になったとたんに他人行儀なんよ…。
あ、もしかして幼馴染って義務教育までなの?
いや、高校の頃だって那月って呼んでたよね?
なら、オレはまだ大学生だし…那月だって大学生…ってさ‼︎
もしかして那月…彼氏できたんじゃね⁉︎
だからか…
彼氏がきっと、男の幼馴染にヤキモチやいて…
あれか…
帰省するんだけど、わたしはあなた一筋だから、幼馴染とは絶縁するよ!だから、わたしはあなた一筋よ♡って約束してきたんだ…?
だから、わたしに関わるな‼︎他人野郎‼︎ってことか。
あー…
そ、そう…いうことね。
そりゃ、そうだよな。
那月に彼氏ができる可能性は、高確率だ。
当たり前か…
那月は、明るくて誰にでも優しくて…清楚感溢れる最高の女性なんだった…。
忘れてたよ…
那月って呼んでたあの頃のオレは、当たり前に那月って呼んでたけど…
今は、那月さんなんだ。
他人の那月さん。
そんな他人の那月さんに、オレは気軽に声かけて…上半身ハダカで遭遇したり、きゅうり抱えて玄関に立っていたりしたんだ…。
とんだカッパ野郎だぜ。
…
「おかえりー、那月ちゃんいた?」
母さん…
母さんも、カッパかい?
「あぁ、那月さん…イカッパよ。きゅうりあげカッパよ」
「はあ?冬季…暑すぎて脳みそ溶けたの?白湯ばっかり飲んでるからよ。ほら、あなたの好きな甘いリンゴスカッシュ飲みなさい」
キンキンに冷えた氷入りジュースを渡された。
「ありガッパです。オレ…少し部屋で休むカパよ」
「あ、お疲れ様…。草取りもありがとうね」
「…カパ」
…
もう、語彙力すら失われた。
カパカパカパカパカパカパ…
カパカパしながら、眠りに落ちた。
気づけば、夕方になっていた。
「ご飯よー、おいなりさんできたわよー」
あぁ、懐かしいな。
昔は、よくさ…
母さんが夜ご飯の支度をして…夜ご飯食べて…
次の日、那月が学校行こうって…さ、誘いに来てさ…
笑顔で、行こーってさ…っ
グスッ
思わず目から汗がこぼれた。
あぁ、そうか。
夏は、目からも汗をかくんだな。
今まで、そんなことも気づかなかったよ。
あぁ…夏か。
そうなのか。
夏の次は、秋だったりするのかなぁ…
遠くの方でひぐらしがないていた。
オレは…泣いてない。
これは、汗だから。
自分に言い聞かせて、涙をふいた。
いや、汗を。
帰省して、フラれた。
もう…このまま家に寄生しようかな。
このベッドに寄生しよう。
そう決めたその時、
ドタドタ、バタン!
「ほら、ご飯っ‼︎」
母さんがやってきた。
「あ、うん。」
「なんだ、起きてるじゃない。冬季の好きなおいなりさんよ。沢山作ったから、食べな」
…
なんだか、母の声があんまり懐かしく思えて、また泣けてきた。
あ、いや…汗がこぼれた。
「母さん、やっぱり夏は、あっついなぁ。汗とまんないや」
「そりゃそうよ。エアコンつけたらいいのに。てか、布団かぶってるから暑いのよ…そんなダイエット危険よ?」
…
「あぁ…そうだね。」
目をゴシゴシして布団から出て、ご飯にした。
もぐっていたから、泣いた顔を母さんはみていない。
しかし、弟の春翔がオレをじっとみて
「にいちゃんって…寝起き泣いた顔みたいになんのな」
って、笑われた。
「は?春翔…それは酷いって」
「だってガチじゃん」
「春翔もいずれそうなるよ」
「えー、ヤダー」
「ほら、くだらないこと言ってないで二人とも早く食べなさいよ」
「そうだぞ!母さんの出汁がきいた豚汁も美味しいぞ」
「母さんは、豚じゃありません」
「「「「あはは」」」」
家族ってやっぱりいいね。
そう思ったら、少しだけ元気がでた。
続く。




