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悪童マスタル
ナナイはルヴェイン家での暮らしを始めた。
朝はリアと共に薬草を干し、昼は市場を歩き、夜は囲炉裏を囲んで食事をとる。
森の香りと薬草の匂い。静かながらも賑わいのある村の空気が、少しずつ彼の胸に馴染んでいった。
市場はアマミ村の心臓だった。
アマミ村創設の白面族だけでなく、剛力族や獣人族、天竜族までもが行き交い、声を張り上げる。
木の樽に詰められたアマミの樹液、香りの強い薬草、色とりどりの織物――目を奪う品々が並ぶ。
ナナイはその光景に何度も立ち止まり、リアに袖を引かれては慌てて歩き出した。
だが、その穏やかな日常に、必ず影を落とす者がいた。
悪童マスタル・デラクロワ。
剛力族に劣らぬ体格を持ち、白面族の名家に生まれた少年だ。
彼はナナイを見るたびに眉をひそめ、ことあるごとに絡んできた。
「記憶もねえのに、のうのうと村で暮らしてるってか。甘やかされてるじゃねえか」
取り巻きのフーデスとローデスも、後ろで嘲笑を重ねる。
ナナイは反論せず、ただ黙ってやり過ごした。
心のどこかで「自分はよそ者だ」という意識が抜けず、強く言い返すことができなかったのだ。
けれど――リアのことになると違った。
マスタルの視線がリアに向かうたび、ナナイの胸の奥でかすかな熱が芽生えていた。
それはまだ形にならない。だが確かに、守ろうとする意志だった。




