表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

残火

アマミ村を覆っていた轟音ごうおん咆哮ほうこうは、夜の闇に溶けるように静まり返っていた。

御神木ごしんぼくの根元に広がる避難所の入り口が再び開かれ、人々が恐る恐る外へと出ていく。


しかし、彼らの目に映ったのは――無惨むざんに変わり果てた故郷の姿だった。


石畳は割れ、木造の家々は半ば潰れ、血の匂いが夜風に混じる。戦った剣士たちの亡骸なきがらがあちこちに横たわり、仲間や家族を探して泣き崩れる声がそこかしこから響いた。


御神木もまた、深くえぐられた傷跡を残していた。神聖なる樹皮ががれた部分からは白い樹液が流れ落ち、まるで村の痛みを代弁するように地面を濡らしている。


剣士隊長をはじめ、多くの熟練戦士が倒れた。犠牲は決して少なくはない。

それでも――巨大異形種は討たれ、村は守られたのだ。


-----


避難所の片隅。

薬師たちの手は今も絶え間なく動いていた。負傷者を担架たんかに寝かせ、血を止め、薬を塗り、火照ほてひたいに布を当てる。


リアもまた、必死に働いていた。

小さな手が震えても、泣きそうになっても、それを飲み込み傷口を押さえ続ける。

だが心の奥底では、ただひとつの名を叫んでいた。


――ナナイ。どうか、どうか生きていて。


その願いは祈りとなり、胸の奥で熱を持ち続ける。


バルガスもまた、避難所の片隅で膝を折り、ぶ厚いてのひらを組んでいた。

「神様……どうか、ライラを……あいつだけは……」

屈強な商人の肩が、小刻みに震えていた。


-----


そして夜明け前。


一つの寝台で、誰よりも深い眠りについていた少年が、わずかにまぶたを震わせた。

ナナイである。


「……う、うぅ……」

かすかな呻き声に、傍らで眠りかけていたリアが顔を上げる。

「ナナイ……!」


涙に濡れた瞳で彼の手を握りしめる。

「ナナイ! よかった、生きて……生きていてくれた……」


まだ意識はおぼろげで、声もかすれている。

「……リア……? 村は……」


リアは大きく首を振る。

「村は……守られたわ。みんな……あなたが守ってくれたの」

せきを切ったように涙がこぼれ落ちる。


ナナイは、安堵あんどと共にその言葉を受け止めた。

身体は痛みにきしみ、まだ動ける状態ではない。

だが、心だけは確かに燃えていた。


その時、避難所の入口から大きな影が現れる。

ライラだ。顔も体も返り血にまみれ、疲労でふらつきながらも、彼女は笑っていた。


「目ぇ覚ましたかい、坊や」

豪快に笑い、親指を立てる。

「いい戦いっぷりだった。あんたがいたから、私らは折れずに済んだんだ」


リアがナナイの手を握り、ライラが笑い飛ばす。

村の痛みと犠牲の重さを抱えながらも――その場には確かに、希望のともしびが残っていた。


ナナイは息を整えながら、心の奥でつぶやく。


――まだ終わりじゃない。俺はもっと強くならなきゃならない。

村を、人を、リアを守るために。


その時、彼の脳裏のうりに浮かんでいたのは、戦いの最中に突きつけられた現実だった。

短剣二刀流では届かないものがある。刃を叩きつけても、深く貫けない。

巨大異形種の目を前にした時、確かにそれを思い知らされた。


「……俺には……俺だけの剣が必要だ」


まだかすれた声でつぶやくその言葉を、リアとライラは聞き取れなかった。

だが、その呟きは誰よりも深く、ナナイ自身の心に刻まれていた。


朝焼けに染まる御神木が、まるで新たな道を示すように静かに光を浴びていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ