二人の夢
護衛訓練を終えてから数週間が過ぎた。
異形種を初めて討ち倒した白嵐剣士隊の武勇は、村中の話題となっていた。バルガスら商人の情報網を通じ、この噂は各地にも広がっている。
アマミ村の空気は緊張感を帯びつつも、日常は穏やかに流れていた。
ヘイク師範は異形種討伐の作戦参謀として、白面騎士団から直々に招聘され今は王都にいる。
そのため道場の練習生には束の間の暇が与えられた。
久しぶりに、ナナイは、リアと二人きりで過ごすことができた。
「剣士として力をつけて……村を、人を守りたい。異形種のような未知の脅威からリアを守りたいんだ」
小さな焚き火の灯に照らされ、ナナイは真剣な眼差しで語った。かつて満身創痍でこの村に辿り着いた名無しの少年は、今や剣を携え、未来を語る存在となっていた――その事実に、リアは微笑んだ。
「みんなナナイの話で持ちきりよ。本当に頼もしい剣士になったのね。わたしも嬉しい」
リアもまた、初めて自分の夢を語った。
「わたし、翡翠術を学びたいの」
翡翠族――翡翠術という秘術を使う、数少ない閉鎖的な種族。緑がかった瞳と黒髪、長い耳を持ち、気品と静謐を纏う存在だ。
白面族の瞳は青い。しかし、リアの瞳は翡翠のように緑色に輝いていた。幼い頃、それを理由にマスタルにからかわれたこともある。だが、その背景にはもっと重い事情があった。
リアはアマミ村にやってきた商人が森で拾った捨て子だった。薬草籠の中には、翡翠の玉がはめ込まれた銀の首飾りと、「リア」という名を書いた紙切れだけが添えられていた。翡翠族ほど長くはない尖った耳、栗色の髪、そして緑の瞳――混血の「忌子」かもしれなかった。
リアを育てたのは薬師、エルネスト・ルヴェイン。子を授からなかった夫妻は、リアを我が子のように愛した。
幼い頃から、リアには不思議な力があった。父の切り傷に触れるだけで、傷が癒えていったのだ。その力を目の当たりにしたエルネストは驚きつつも、厳しく言い聞かせた――「その力を他人に見せてはならない」と。
「わたしの中に、翡翠族の血が流れているのなら……確かめたいの」
「リア……」
「だから、いつか旅をするの。資金を貯めて、翡翠族の国へ」
過去の記憶も自分の名すらも思い出せないナナイは、リアの夢を真っ直ぐに受け止めた。
「……なら、俺が護衛としてついていく。必ず」
リアの緑の瞳が揺れた。ナナイの想いは、彼女にとって何よりも心強い約束だった。
夜空に星が広がる。二人の夢は、その輝きに照らされながら、静かに重なっていった。




