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前編

本当に久々の投稿になります。

リハビリ作品ですのでだいぶ荒くなっておりますが暖かい目で読んでいただけますと幸いです。



「どうして、どうしてこんなことを…!」


 勇者と呼ばれた金髪碧眼の青年は、体中の至る箇所に怪我を負いながら叫んだ。

 それに応えたのは勇者とは真反対の印象を持たせる漆黒の髪に赤い目を持った青年だった。


「何故? お前たちが、それを問うのか?」


 その言葉の余りの冷たさに、勇者は戸惑いすら見せる。


「何故だ、何故だ、勇者よ…私は、お前を信じていた…」

「何を、言っている?」


 魔王は苦悩に満ちた表情を浮かべながらその長い髪で表情を覆い隠すかのように俯いた。そんな魔王の姿に、勇者は困惑する。


 魔族と人族は、姿や能力こそ違えど意思疎通ができることもありうまく共存をしていた。

 魔族は魔素の濃い地域に住むことで独自に進化しており、人族よりも力や生存力が強い。魔素を体内で魔力に変換することが出来、魔力を行使することで生活をしている。しかし魔素の濃い地域で住める個体は少なく、その頂点に立つのが魔王。

 その逆に魔素の少ない地域で暮らしているのが人族だ。人族は魔族ほど力がないものの、繁殖能力が高いが魔素を変換する器官がないため、魔石を用いた生活を営んでいる。魔族のように一人の王を抱くのではなく数ある国家がそれぞれ王を抱えている。

 そうなれば力の差的に魔族が圧倒しそうなものだが、”聖剣”と呼ばれる剣を扱うことが出来る人は魔族に対抗する力を持ち、人族は彼を勇者と呼び有事の際の対抗手段としていた。

 その”聖剣”がどこから来たのか、本当に魔族に有効なのかはいまだに証明されていないが、それが互いの抑止力となっていたのは確かであった。


 魔素の濃い地域では食物は育たず、逆に薄い場所では良質な魔石は手に入らない。

 そのこともあって、魔族と人族は良き隣人として共存していたのだ。


 それなのに、ある日。

 魔王がある国家の城を襲撃したと聞きつけ、勇者は慌てて転移したのだ。

 勇者は、平時は冒険者として仲間と共に各国の依頼を受けながら旅をしている。急遽の知らせに、勇者は慌ててしまい、つい自分一人だけを転移させていた。


 そこはまさしく阿鼻叫喚といったところか。奇跡的なのは誰一人死んでは(・・・・)いなかった。だが、死んだほうがましだろうことが勇者にはわかってしまった。


「なんてことをしたんだ! 今まで平和にやってきたというのに…! これじゃ戦争になる…!」


 仲間は誰もいない。回復魔法が得意な仲間を連れてこなかったことを勇者は心の内で悔やんだ。

 そんな勇者に、魔王は鼻で笑いを零した。


「平和…? 貴様の言う平和とやらは、随分と都合のいいものだ」


 勇者は魔王の言葉に神経を逆なでされたような気がした。

 実際、平和だったのだ。()この瞬間までは。


「……ゆ、う、しゃよ」

「!! 大丈夫ですか!?」


 血まみれになりながらその国の王が勇者に手を伸ばす。

 勇者は魔王に意識を向けながらも慌てて王の近くに寄った。


「あ、あやつは、敵と、なった…! 今こそ、勇者としての、責務を…!」


 王の傍には王女も同様に血に濡れている。痛みなどろくに知らないだろう彼女は気絶していた。

 しかし勇者にはすぐに魔王を敵と判断できるほどの判断材料がなかった。魔王自身とは何度も会ったことがあったし、なんなら勇者自身としては友人だとすら思っていた。

 少し口下手で、それでも魔族のことを思い統治する彼をひそかに尊敬すらしていたのだ。

 その彼がなんの理由もなく城を襲撃するはずがない。


「……魔王、俺は、貴方が王として尊敬に値する存在だと思っている。何故、このようなことをしたんだ…?」

「…」


 魔王は凍てついた瞳で勇者を見た。そしてその傍にいる王と王女に憎悪に満ちた視線を向けた。


「…勇者よ、私は、其方を友のようにすら思っていた」

「! そ、それは俺もだ!! だが、なんで」

「しかし」


 魔王は勇者の言葉を遮る。


其方(・・)にしか、話していないのだ」

「―――は?」


 勇者は、一瞬何を言われたのか分からなかった。


「…私には、愛する人族がいる」

「そ、れは、きいた、ことが…」


 それは確かに聞いたことがあった。

 何十回と会い、それこそ酒を酌み交わすようになってから聞いた話だった。

 好いた人族がいるのだと。出来れば彼女と添い遂げたいとも。

 勇者はそれを応援した。しかし人族が魔族の領で暮らすのにはとてつもない労力がいる。その人族に合った魔素に対抗する魔道具を作成しなければならないのだ。その魔道具が非常に厄介で、一般的な魔族は勿論人族の魔法使いですら簡単に作れるものではない。

 一朝一夕で出来るものではないそれを魔王は求め、勇者はその素材集めに協力すらした。


「聞いた? それを其方がこ奴らに漏らしたのだのだろう?」

「―――」


 勇者は必死に記憶を探り、一度だけこの国の王の接待を受けた際に零したかもしれないと思い出した。


「だ、だが、それと、襲撃と、なんの関係が…」

「はっ!! そやつらは、その村を襲撃した!!」


 勇者の言葉が逆鱗に触れたのか、魔王は抑えきれないとばかりに激高した。


「なっ!?」


 魔王の言葉に勇者は嘘だろうと言わんばかりに王を見る。

 王は一瞬だけ苦々しい表情を浮かべるもすぐさま毅然とした態度で言い放った。


「あの村は税を納めていなかったのだ!! 勇者よ、魔王の嘘などに耳を貸すでない!! それは我ら人族の敵だ!! 今こそ勇者としての責務を…!」

「それこそ嘘だ。私が彼女を娶るために彼女の村には支援していた。良質な魔石を売るようになり、彼女の村は満額の税を納めていた!」


 勇者は何が本当で嘘かわからず、持っていた聖剣を取り落としそうになるも意識して柄を握りしめた。そうでないと、今にも落としてしまいそうだった。


「…勇者よ、教えてやろう…。そこの女は、私の妻になりたかったそうだ。そして其方からの話であの村に私の最愛が住み、なおかつ私が支援していることを知ったそこの愚図は、あろうことが私の、最愛を、無き者にすることでその地位に納まろうとしたのだ…!!」

「なっ…」


 勇者はその言葉がすぐには信じられず、王をもう一度見る。言っていることが違いすぎると。


「ごほっ…勇者よ、貴様、同胞の人族よりも魔族を信じるつもりか!? 確かに、我が娘は魔王の妻になりたいと望んでいた…! 王と王女だぞ…!? どこぞの村娘よりも相応ではないか!!」

「―――なんて、ことを」


 その瞬間、勇者は魔王の言っていることが本当なのだろうと感じてしまった。

 人族の数いる王たちは、すべてが善良な存在というわけではない。

 魔族のその高い能力を恐れ、奴隷にすべきだ、滅ぼすべきだと声高に叫ぶ王もいる。しかし魔石の恩恵が高いため、その他の大勢の王の意見に潰されているだけだ。


「さらにだ。その女は私の最愛を穢し、恐怖に落としてから無き者にしようとしていた」

「!!」

「間一髪で私の配下が彼女を救ったが……彼女は、二度と、歩くことが出来ない…!! 平和に暮らしていた!? これが、これがそうだというのか、勇者よ!!」


 


***




 魔王が駆け付けた時、最愛の彼女は足元を真っ赤な血で濡らし、恐怖にその表情を染めていた。


「なんて、なんてことだ!! あぁ、私が、私が貴女を愛したばかりに…!」


 すでに賊は捕らえ、魅了が得意な魔族によって賊がなんのために来たのかを尋問している。しかし魔王はそれを待つことなく最愛の傷ついた姿に膝をついた。

 魔王の声を聴いた女性は、ぼんやりと顔上げ魔王を視界に入れるとぼろぼろと泣き出す。


「あ、ま、お、さま…まお、さまぁっ…!」


 助けを求めるかのように手を自分に伸ばす最愛を、魔王はかき抱いた。


「すまない、すまない、私が、其方を愛したばかりに…!」


 村人の何人かは犠牲になった。いきなりやってきた王国軍に不信感を抱いたのだろう。魔王の最愛である彼女を守るべく、戦う技術のない彼らは立ち上がってくれたのだ。


「ひっく…ぅ、お、おじさんが、みっ、みんながぁ…!!」


 女性は息も絶え絶えに魔王に縋り付きながら泣き叫ぶ。

 その姿に、魔王は生きていて初めての憤怒の怒りを覚え、配下にすぐさま村に結界を張るように指示する。敵意ある存在がこの村に入り込めないようにしたのだ。


「私が、もっと早くに来られたら…!」


 魔王はそう口にしながらも彼女を愛さなければとは口が裂けても言えなかった。だが、こうなることを想定して村をもっとしっかりと保護しなかった自身に罪があると理解していた。今までなかったからと平和に胡坐をかいていた自信を嬲り殺したいほどの激情に駆られた。

 そんな魔王の心を読んだのか、女性は泣きながら弱弱しく首を振った。


「ち、ちがい、ます…、こんな、こんなひどいことを、する人が、悪い…の、私が、もっと、ちゃんと、自分の立場を、理解していたら…!!」

「違う!! 私が、もっとしっかりと護衛をつけていたら、このような事には!!」


 彼女を守るために、いったい何人の村人が犠牲になったのか。

 結界のせいか、血の匂いが立ち込める。最愛に会いに来る際に知り合った何人もの村人が、地に伏せその命を途切れされていた。夫か親族か、亡骸に縋り付く女や子供の姿が視界に入る。中には、年端もいかぬ亡骸に咽び泣く大人の姿もあった。


「―――なんて、なんてことだ…人族は、なんてことをするのだ…!」


 魔族は子が出来ずらい。そのため、誰もが生まれた子供を自身の子のように慈しみ、守る。それが当然の魔族からすれば、幼い子にすら剣を振るう人族こそが化け物のように思えた。


「へ、陛下…私には、信じられません、こんな、幼い子にすら手をかけるのが、隣人など…!」


 配下の魔族が今にも涙を零しそうになりながら目を伏せる。彼は魔王についてよくこの村を訪れていた。肌には蛇のような鱗があり、初めのころ村人には恐れられていたが子供たちは初めて見る魔族に興奮し、彼に纏わりついていたのだ。

 初めこそ戸惑っていた配下も、小さい子への慈愛が止まらず彼らを相手にするようになるとその姿を見た村人たちは彼を面倒見の良い魔族だと判断し、彼を筆頭に魔族を受け入れてくれたのだ。


 配下たちは魔王の最愛がいるというだけでなく、自身たちを慕ってくれる人族を大切にしたいと魔王に進言し、警護をかって出てくれた。

 それがたまたま。

 たまたま、魔族全体で行われる会議のため、いつもより警備が薄い日に、襲撃を受けた。

 悲鳴のような通信を受けた時の、会議中の魔族の戸惑いと怒り、殺気は舌鋒にし難い。


「―――それで、吐いたのか」

「はい、一番近い国の軍でした」

「何故、この村を?」

「…魔王様の正妃の地位を望んだ王女と、魔石を量産するこの村を人質に他の人族の国家を圧倒するためだと」

「―――!! 馬鹿、なのか!!」


 魔石が量産されるようになったのは魔王の最愛がいるからだ。以前は農業のみで生活を成り立たせていた村に、いきなりそのような奇跡が起こるはずなどない。どうしてそのような考えに至ったのかが理解できない。


「それと」

「まだあるのか!?」

「―――勇者様が」

「勇者、が?」


 配下の人間は言い辛そうにしながらもはっきりといった。


「勇者様が、陛下の最愛がこの村にいることを話したとのことです」


 おかしかったのだ。どうして、最愛の彼女が住む村が狙われたのか。確かに魔石の存在は捨てきれない。だが、聞くところによると悍ましいことに人族は最愛を女性として穢そうとしていたらしいのだ。逃げられぬよう、足の健を切って。その余りの非道さに魔王は言葉を失う。


「なるほど…確かに私もここに最愛がいることを隠していた。だが、仮にそうだとしても人族の行ったことは許しがたい、な?」

「はい」


 そう答える配下は、この村にもよく来ていて誰よりも子を慈しんでいた。同じ魔族の子にすら時折恐れられる風貌をしているのに、この村の子たちはかっこいいとよくわからないことを言って彼を慕っていたのだ。


「―――これは、魔族への宣戦布告にも等しいと、思わないか?」

「おっしゃる通りです」


 襲撃を行った人族の王は、ここに魔王の最愛がいることを知って襲撃をした。





「赦して、なるものか」





 魔王のその言葉に、配下たちは雄たけびを上げた。








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