友人の体験談「呪詛の意味を教わった話」
なんと、学生時代の友人と会いました。
進学先や就職が重なり中々会えなかったのですが、先日たまたま再会しまして。
相手は一児の母となり、なんとか子育てをしているとの事です。
元気そうで安心したいのですが、彼女は足を少しだけ引きずっていました。
そこで話してくれた内容が、私が追っている話と繋がっているのでまとめました。
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そうそう!もう、出産って大変でさぁ!
……え、足?
あぁ、これねぇ……。
まぁ、話してもいいか。オカルトとか、好きでしょう?
大学時代に付き合ってた人と、結婚したの。
待ってね、写真あるから。
この人。見える?
……そう、優しい人。子育てにも積極的だし、家の事もやってくれる。
今はすごい仲いいけど、ちょっと危うかった時期があってね。
一年くらい前の話ね。
入った会社自体は、とてもいい会社だったと思う。
ただ、お人よしだったから夫は仕事を断れなくて。
今でいうと、ブラック企業……だったんだと思うの。
ちょうど子供も生まれたころだし、夫は異動願いを出したの。
元々営業だったんだけど、向いてないってずっと言ってたから。
ただ、それが通ることがなくて。
ずっとよ、ずっと。
平日は飲み会で、土日は接待ゴルフとかでほとんど家にいなくて。
その中でも、子どもと関わろうとしてくれるのはありがたいと思った。
けど、それ以上に休んでほしくて。
だからか、喧嘩が多かったのよ。その時。
変な考えが出てきたの。
「離婚したほうがいいのかもしれない」
ある日ね、子どもと一緒に街をふらついていたの。
夫と喧嘩して、どこにも行く当てがなくて。
そうしているうちに、喉が渇いたからコンビニに入ったの。
霧も濃かったから、もしかしたら天気が変わるのかもって。
今考えると、ちょっと変よね。急に霧が出るなんて。
そのコンビニがちょっとおかしくて。
コンビニって、普通は四角っぽい建物でしょう?
なんかね、裏に古民家が見えたの。
入るのが怖かったけど、そこを過ぎるとコンビニはないの。
戻る気力も、体力もなかった。
近くにスーパーもあったけど、頭の中には選択肢にすら入らなかった。
だから、意を決して店内に入ったわ。
入った後もね音が、おかしかったの。
普通の男性の声だったんだけど、なんかね……。なんというか。
喋っている感じだったのよねぇ。ぼそぼそって。
で、子どもがぐずっちゃって。
さっさと何か買って出ようと思ったの。
そしたらね。
「お、子どもやん」
メガネをかけた細めの女性の店員さんが出てきたの。
私が謝罪して出ようと思ったんだけど。
「ええよ、ええよ。久しぶりに見たなぁ、子どもなんて。コウくん、ちょっと見といて~」
レジに椅子を用意しながら、誰かに話しかけていたの。
そしたらバックヤードからマスクをつけた背の高い男性が出てきて。
「……店長、どうしたんすか」
「なんか疲れてそうだから、この人。子供見るの、得意やん?コウくん」
「……得意ではないんですけど」
「え、あの、そこまでしていただかなくても。その、すぐに出ますんで……!」
そう言いながら出ようとしたけど、店長?って呼ばれた女性に肩を掴まれた。
「まだまだ。そのまま出たら、また迷うよ」
「迷うって……」
「ここはね。迷った人間しか入れないんよ」
「迷った人間しか入れない……」
「うん。だから、とりあえず何があったかお姉さんに話してみ?」
店長さんはニコニコと人が好さそうな笑顔で、ものすごい力で私を椅子に座らせた。
確かに私は迷ってたの。夫と離婚するか、子どもはどうするか。
でも、当時の私には誰かに相談するなんて考えたこともなかった。
気が付いたら、子どもはコウくん?って呼ばれた店員さんと何か話してた。絵本の読み聞かせだったかな。
店長さんは、レジの向こう側に同じように椅子をもって座っていた。
レジ横になんか、不思議なものが置いてあって。
神棚が置いてあったの。
酒とか米が供えてあって、不思議とは思った。
けど、それ以上に目の前の店長さんの真意が分からなかった。
「あの……相談というか……」
「とりあえず、好き勝手話してみ。……ただ、2つ守ってな」
「何を……」
「1つ、名前は話さない。2つ、店内での飲食禁止」
その条件を話す時だけ、店長さんの顔が真顔になったの。すごい、怖かった。
それに、どっちも意味が分からなかった。
名前は話す気がなかったし、飲食だって店内ではしないのが普通のはず。
にもかかわらず、なぜこの条件が出されたか分からなかった。
「条件を守らないと、あぁなるよ」
店長さんが指さした先、黒い何かがうごめいているのが見えた。
ドアから出ようとしているが、何かに阻まれて出られないのかドアに張り付いている。
急に背筋が冷えた。
私は、おかしなところに来てしまった。
出ようにも、身体は動かない。
ぎこちなく店長さんの顔を見た。
「わかった?」
小さい子に向かって話しかけられている感覚だった。
けれどね、なんか嫌じゃないの。
ゆっくり頷くと、店長さんはまた笑顔に戻った。
そこから、私は色々話した。
夫との馴れ初めから何から。
店長さんは、嫌そうな顔をしないで頷きながら聞いてくれたの。
で、離婚の話になった時に店長さんが焦りだした。
「ちょちょちょ。ちょいまち!展開が早いって!!!」
「でも、もう限界で。顔を合わせると、喧嘩ばかりで」
「だからって、せっかく縁を結べたのに離縁するのはもったいないやん」
「でも……」
「にしても、激務ねぇ。……人間ってのは、なぁんでそうなるのかなぁ」
「?」
「あぁ、こっちの話。……今の話の中で、一番不満に思う事は?」
不満に思う事。
たくさんあったけど、一番は。
「夫と話し合いたい……」
喧嘩ばかりは、疲れた。
結婚したての頃のように、話し合いたい。
私の呟きに店長さんは、にんまりと笑った。
「なら、強く願いな」
「強く……」
「そ。……呪詛って、知ってる?」
「呪い……?」
「あぁ、知ってるんだ」
そう言って店長さんは、何かを探しながら話を続ける。
「願い事だろうが、恨み節だろうが、呪詛には変わりないよ」
「……違うんじゃ」
「方向性が違うだけ」
「方向性……」
「誰に願うか、どうやって願うか、何の願いか。それで、変わる。こっちからしたら、どっちも似たようなもんさ」
お、あったと言いながら紙にインクで何かを書いていた。
「願えば叶うのは当たり前」
「当たり前なんて、そんなの……あり得ないじゃないですか。現に、私は……夫と話し合いもできていないですし……」
「……ある程度の対価は必要になってくるよ」
静かな声だった。
BGMと子供の声が聞こえるのに、妙な静けさが私と店長さんの間に流れた。
「小さな呪詛でもいいんよ。命を削らないような簡単なね」
「呪詛って……」
「大きくとらえすぎなんよ。対価ってのは、必ず同じようになっているからなぁ」
「……そんなもんですか」
「うん。例えば、あんたがずっと話していた夫の会社の事だっけ」
「はい」
「そこだって、言い続ければいずれは現実になる。……あんたが嫌に思っているんだ。他の人間も、同じように思ってるはずさ」
「……」
「叶ってないのは、まだ対価を貰ってないから。覚悟が決まっていないから。……いや、まぁ、そんな覚悟をすぐに持てるほど人間は強くはないんよな」
ははっと笑いながらも、手は止めない店長さん。
「だから、人間が好きなんよ。私は」
なんとなく、目の前の人は人間じゃないと思った。
ただ、それでも逃げることは考えてなかった。
それくらい、疲れていたのかもしれないわ。
「ただ、覚えておき」
何かを書き終わったのか、紙を見て満足そうに頷く店長さん。
それを綺麗に畳み、私の手に握らせてきた。
「小さくても、呪詛は呪詛だから」
「あんたの願いが、トリガーになって発動する場合もある」
「何を持っていかれるか、何を持っていかれてもいいか。よく、考えとき」
「覚悟が決まったら、この紙を燃やして灰を川……。あ~、今の時代だと川はそこらへんにないんか……」
「……小さい川でも、いいんですか?」
この発言が出た自分に驚いたの。
でも、不思議に思わなかった。
「ええよ。川さえ、あれば。あるなら、流してな」
「わかりました。……あの、あとお弁当2つ」
「はいよ~。待ってて。鮭食べられる?」
「大丈夫です……」
「じゃあ、作ってもらお。ちょっと待ってて~」
店長さんが奥に引っ込んでしまった。
その間、ふと店内で何か歌が聞こえてきた。
今になって思うと、あれは店員さんが歌ってたんでしょうね。
当時は、聞いたことあるくらいしか思わなかったけども。
「はい。二つね」
話を聞いてもらって申し訳ないから、お弁当を買っていったの。
夜に、夫と話をするときに食べようと思ってね。
出ていくときに、ちらりと神棚を見たら米がなくなっていたの。
家に帰って夫と話したの。
それで、夫も何とかして転職しようと考えて。
そういえば、この時点で私の願いはかなったのよね。
「夫と話し合いたい」ってのは。
でもね、私おもっちゃったの。
「会社がつぶれてしまえばいい」って。
ダメよね、こういう考えは。
だって、他にも働いている人がいるし。私の我儘じゃない。
でも、そのまま紙を燃やしちゃった。
だって、許せなかったから。
その数日後に、足を怪我したの。
命に係わるほどじゃないけど、歩きづらくなっちゃって。
ほら、杖があるでしょう。なくても歩けるけど、長い距離を歩くには必要になっちゃって。
同時に、夫の会社がつぶれたの。
何でも粉飾決算とかで、不正や横領がバレたらしくてニュースにもなったわ。
後から聞いたら、内部告発をした人がいたって。そうそう、夫から聞いたの。
私、その時わかったの。
これが店長さんの言っていた「トリガー」なんだって。
それから夫は転職して、今は自分のペースで仕事しているわ。
私の願いは叶ったのにね。「話し合いたい」は。
でも、私は夫を使い潰す「会社」が許せなかったの。
だから、この足はそういう事なんだと思うわ。
……そういえば、あの後子どもからこんなことを言われたの。
「遊んでくれたお兄さんの声が、動画で聞いた声にそっくりだって」
確か……あ、これこれ。
『遠野物語~ナレーター:黒崎ケイゴ』
URLを送っておくから、後で聞いてみてね
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以上が友人の体験談です。
現在ですが、友人の旦那さんはフリーで活躍しているそうです。