店長へのインタビュー終
「店じまいですか……」
「まぁ、まだまだやるけどね。ところでさぁ」
「はい?」
にやりと笑う店長。
「君、コウくんとはどんな関係性?」
からかおうとしているのか?
「……なぜ、そんな笑っているんですか」
「いや。妙に気にするから。記事見ても、そうじゃん?」
「彼は、友人でした。学生時代に、オカルトで繋がった」
テスト前の勉強だけにしか来なかった黒崎。
図書館の住人となっていた私。
同じ種類の本を読んでいたのが始まりだった。
「連絡は取っていませんが、記事で彼の活躍は見ていたいので」
「なるほどなぁ。そんな微かな縁で」
「微か……確かに、そう見えますよね」
私は、彼と連絡を取っていない。
一方的に知っているだけだ。
だから、店長が言っていることも分かる。
私は、荷物をまとめながら店長に笑いかける。
「たまたま、彼がいただけです。この調査の延長に」
そうだ、たまたまだ。
偶然、黒崎が関わっていただけである。
(十中八九、『縁』で巻き込まれた形だろうな……)
貴重な体験ができたから、良しとしよう。
私の回答に満足したのか、にやりと笑い椅子から立ち上がる店長。
「いや~~~、久々に長く話したわ~」
ぐっと背伸びをする店長。
筆などを片付けながら、「あ」と声を上げた。
「なんか買ってく?」
「では、弁当と酒を」
「あいよー。鮭でいい?」
「はい。お願いします」
裏に引っ込む店長を見送りつつ、スマホにメモを取る。
少し待っていると、パタパタと音がして店長が戻ってきた。
「はいよ~。あと、酒か」
渡された木の箱は、かすかに温かった。
「ありがとうございます」
「仕事やしなぁ」
袋に詰め、お金を渡す。
(これが儀式だとは、思わないよな……)
袋を受け取り、歩き出す。
聞きたい事があるのを思い出し、振り返ろうとする。
「あ、すみません。もう一個――」
「ダメや」
さっきの朗らかな声とは違う、冷えた声だった。
「……そうでした。では、失礼ですがこのままで」
自動ドアを見る。
黒い影がこちらを見ている。……ように見えた。
『振り向いたら、帰れなくなる』
(抜けてたな……)
普通の店と同じ感覚だった。
店長に背中を向けたまま、話を続ける。
マナーとしてどうかと思うが、ここの『ルール』の方が上だ。
「ええよ」
私の行動に満足したのか、店長は先ほどと打って変わって明るい声で返事をした。
「……マヨヒガ、ヨモツヘグイの特性の話です。私は、ここには『二度とこれない』んですよね」
「おん。こればっかりは、『家』側の都合や」
「……そうですか。記念品とか、欲しかったんですが」
何かしら、私がここに訪れた証拠が欲しい。
あわよくば、という気持ちがほとんどだ。
背後から音が聞こえる。
足音が近づき、袋の中に何かを入れた。
「これでええやろ。……お、コウくんお疲れー」
「……お疲れ様です。あの、これ、どういう状況ですか」
片側から声が聞こえる。
そちらに顔を向ける。
「こんにちは。ちょっと店長さんとお話を」
「……もしかして」
私の顔を見た黒崎が目を丸くする。
名前を呼ぼうとしたが、気づいたのか首を振った。
「……またな」
「ええ」
そう言って私は自動ドアを潜り抜けた。
背後からは「店長……すみません、話が合って」と声が聞こえた。