表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

店長へのインタビュー

「で?何から聞きたい?……っと、ちょい待ち」

 店長は扉に行くと、何かをかけた。

 戻ってくると、対面に椅子を置いて座り私を見つめてきた。

「今のは……?」

「え?休憩中の札。間違えて入ってこないように」

「そう、ですね。……では、このコンビニを始めたきっかけを」

「う~ん。面白い話じゃないよ?」

「構いません」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 まぁ、この記事を見てわかると思うけど、私らはいわゆる「人間」ではない。


 で、派閥があるんよ。こっちの世界にも。

 人を忌み嫌う派閥と、人を好きな派閥

 私?人間が好きだよ。当たり前やん。


 だって、私は人間の『』を食べて生活しているから。

 え?聞こえんかった?まぁ、そっちで適当に考えておいて。

 それに、人間は好きだよ。だから、こんなことしてるんだ。


 当たり前だけど、普段わたしらはこっちにいない。

 ほら、よくそっちが言うじゃん。

 あの世。

 天上。

 幽世。

 呼び方はいっぱいあるけどさ。

 わたしらは、普段そこに住んでいるんだよ。

 そっちの名称だと「神様」「妖怪」「怪異」

 それらも、一緒くたに暮らしてる。



 ただなぁ、暇なんよ。

 なんでそんなびっくりしてるん。

 やることがないんよ。

 自動で補充される供物。

 勝手に綺麗に咲く花々。

 決して苦悩もなく、悲しみもない世界。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お、どうしたんその顔」


 どんな顔をしているのだろう。

 ひきつった顔をしているんだろうな、今の自分は。

 目の前の店長は、そういうことはあまり気にしないのだろう。


(多分、人ではないものだと思っていた)


 実際にそうだったが、いわゆる「幽霊」や「妖怪」ではない。

 目の前にいる女性は、「神」と呼ばれる人だ。

 ならば、レジ横に神棚が飾られているのも分かる。


「……米俵は、新嘗祭のですか?」

「おお、よくわかったな。そうだよ~」

「じゃあ、神棚のも……」

「そうそう。米と酒と塩は、人から。肉や魚は、また別からね。あ、野菜も別」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 で、どこまで話したっけ。

 ……あぁ、そうそう。私がいたところの話か。

 いや~、人間からしたら穏やかな場所だとは思うよ?

 だって、山も谷も何もないんよ。

 ただ、ただ平穏な日々を享受するだけ。


 飽きたんよな、私と何人かは。


 飽きて飽きて。

 人間もそうかは知らんけど、暇になると余計な争いが増える。

 人間はいる、いらない、いる、いらない。

 私と数人以外は、ずっとそんな話をしていた。

 そんな時に、ある噂を聞いたんだ。


『岩手の山の方に、意志を持つ家がある。頑なに、こっちに来ようとしない』


 面白そうだから、すぐに向かった。

 神とか物語とかがなくなったこの時代に、わざわざ岩手の。しかも、山に残っているなんておかしい奴だと思ってさ。

 会いに行こうとしたけど、止められて。でも、振り切って会いに行ってみた。

 岩手の奥の方。

 霧の結界を超えて進むと、古民家が見えた。

 それ見てすぐわかったわ。「あ、遠野の」ってね。


 そうそう「マヨヒガ」

 私らには、個人名ってないからさ。

 名前がある物ってのが羨ましいなて。

 で、気になるから話してみたんよ。なんで、まだ建ってるのって。

 人間が言う幽霊とか怪異ってのは、ほとんど見なくなったやん?


 そしたら「人が来るのを待っている」って、家が答えた。

 特定の人物かと思ったけど、そうじゃない。

 誰でもいい。とにかく「人」が来てほしい。

 だから、提案した。


「なぁ。人に来てもらえるよう、私と何かしない?」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……だとして、なぜコンビニなのでしょうか」


 ずっと気になっていた。

 なぜコンビニを選んだのか。


「現代であれば、色々あるじゃないですか。スーパーとか、カフェとか。あえてコンビニを選んだ理由がわかりません」

「あ~、そうやなぁ」


 ん~と天井を仰いで考える店長。

 少し待つと、ふっと顔を下げた。


「君、神社の作法って知っとる?」

「確か……。確か鳥居の前で会釈して、手水舎で手を清めて、お賽銭をして二拝二礼一拍手……で、鈴をならす」

「そうそう。……それさ、コンビニで代用できるやん」

「あ」


 確かにそうだ。

 鳥居は、自動ドア。

 手水舎は、アルコール消毒。

 お賽銭は、代金。

 鈴は入店音。


「あの……二拝二礼一拍手は?」

「省略でええよ。それに、私らは24時間営業だから。ほら、当てはまるところ多いやん?」

「確かに……」

「祠とか神社って、日常になっている人間は珍しいやろ。コンビニであれば、日常に溶け込みつつ『』を回収できるし。『家』も、人が来て嬉しいから一石二鳥」


 ブイサインでご機嫌に笑う店長。


「まぁ、あとはコンビニなら壊されんやろ。祠は、災害とか誰かに壊されるかもやけど」

「……車が突っ込んでくる可能性もありますが」

「あー……確かに」


 なんでインターネットミームまで知ってるんだ。


(そうだ、モクさんって人がネット強者なんだ……)

 なんというか、目の前の店長はあまり神っぽくはない。

 それっぽく装っている人間のように見える。

 私の視線に気づいたのか、突然大きな声で店長が笑い出した。


「あ、あの……何か……?」

「いやいや。そうやな、確かにそうや」


「そうやろ?だって、『神』として話したら君は帰れないんよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ