店長へのインタビュー
「で?何から聞きたい?……っと、ちょい待ち」
店長は扉に行くと、何かをかけた。
戻ってくると、対面に椅子を置いて座り私を見つめてきた。
「今のは……?」
「え?休憩中の札。間違えて入ってこないように」
「そう、ですね。……では、このコンビニを始めたきっかけを」
「う~ん。面白い話じゃないよ?」
「構いません」
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まぁ、この記事を見てわかると思うけど、私らはいわゆる「人間」ではない。
で、派閥があるんよ。こっちの世界にも。
人を忌み嫌う派閥と、人を好きな派閥
私?人間が好きだよ。当たり前やん。
だって、私は人間の『』を食べて生活しているから。
え?聞こえんかった?まぁ、そっちで適当に考えておいて。
それに、人間は好きだよ。だから、こんなことしてるんだ。
当たり前だけど、普段わたしらはこっちにいない。
ほら、よくそっちが言うじゃん。
あの世。
天上。
幽世。
呼び方はいっぱいあるけどさ。
わたしらは、普段そこに住んでいるんだよ。
そっちの名称だと「神様」「妖怪」「怪異」
それらも、一緒くたに暮らしてる。
ただなぁ、暇なんよ。
なんでそんなびっくりしてるん。
やることがないんよ。
自動で補充される供物。
勝手に綺麗に咲く花々。
決して苦悩もなく、悲しみもない世界。
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「お、どうしたんその顔」
どんな顔をしているのだろう。
ひきつった顔をしているんだろうな、今の自分は。
目の前の店長は、そういうことはあまり気にしないのだろう。
(多分、人ではないものだと思っていた)
実際にそうだったが、いわゆる「幽霊」や「妖怪」ではない。
目の前にいる女性は、「神」と呼ばれる人だ。
ならば、レジ横に神棚が飾られているのも分かる。
「……米俵は、新嘗祭のですか?」
「おお、よくわかったな。そうだよ~」
「じゃあ、神棚のも……」
「そうそう。米と酒と塩は、人から。肉や魚は、また別からね。あ、野菜も別」
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で、どこまで話したっけ。
……あぁ、そうそう。私がいたところの話か。
いや~、人間からしたら穏やかな場所だとは思うよ?
だって、山も谷も何もないんよ。
ただ、ただ平穏な日々を享受するだけ。
飽きたんよな、私と何人かは。
飽きて飽きて。
人間もそうかは知らんけど、暇になると余計な争いが増える。
人間はいる、いらない、いる、いらない。
私と数人以外は、ずっとそんな話をしていた。
そんな時に、ある噂を聞いたんだ。
『岩手の山の方に、意志を持つ家がある。頑なに、こっちに来ようとしない』
面白そうだから、すぐに向かった。
神とか物語とかがなくなったこの時代に、わざわざ岩手の。しかも、山に残っているなんておかしい奴だと思ってさ。
会いに行こうとしたけど、止められて。でも、振り切って会いに行ってみた。
岩手の奥の方。
霧の結界を超えて進むと、古民家が見えた。
それ見てすぐわかったわ。「あ、遠野の」ってね。
そうそう「マヨヒガ」
私らには、個人名ってないからさ。
名前がある物ってのが羨ましいなて。
で、気になるから話してみたんよ。なんで、まだ建ってるのって。
人間が言う幽霊とか怪異ってのは、ほとんど見なくなったやん?
そしたら「人が来るのを待っている」って、家が答えた。
特定の人物かと思ったけど、そうじゃない。
誰でもいい。とにかく「人」が来てほしい。
だから、提案した。
「なぁ。人に来てもらえるよう、私と何かしない?」
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「……だとして、なぜコンビニなのでしょうか」
ずっと気になっていた。
なぜコンビニを選んだのか。
「現代であれば、色々あるじゃないですか。スーパーとか、カフェとか。あえてコンビニを選んだ理由がわかりません」
「あ~、そうやなぁ」
ん~と天井を仰いで考える店長。
少し待つと、ふっと顔を下げた。
「君、神社の作法って知っとる?」
「確か……。確か鳥居の前で会釈して、手水舎で手を清めて、お賽銭をして二拝二礼一拍手……で、鈴をならす」
「そうそう。……それさ、コンビニで代用できるやん」
「あ」
確かにそうだ。
鳥居は、自動ドア。
手水舎は、アルコール消毒。
お賽銭は、代金。
鈴は入店音。
「あの……二拝二礼一拍手は?」
「省略でええよ。それに、私らは24時間営業だから。ほら、当てはまるところ多いやん?」
「確かに……」
「祠とか神社って、日常になっている人間は珍しいやろ。コンビニであれば、日常に溶け込みつつ『』を回収できるし。『家』も、人が来て嬉しいから一石二鳥」
ブイサインでご機嫌に笑う店長。
「まぁ、あとはコンビニなら壊されんやろ。祠は、災害とか誰かに壊されるかもやけど」
「……車が突っ込んでくる可能性もありますが」
「あー……確かに」
なんでインターネットミームまで知ってるんだ。
(そうだ、モクさんって人がネット強者なんだ……)
なんというか、目の前の店長はあまり神っぽくはない。
それっぽく装っている人間のように見える。
私の視線に気づいたのか、突然大きな声で店長が笑い出した。
「あ、あの……何か……?」
「いやいや。そうやな、確かにそうや」
「そうやろ?だって、『神』として話したら君は帰れないんよ」