店長との邂逅
「モクさんから教えてもらったけど、まさかここを調査している人がいるなんてなぁ」
(見ていたのか……!?)
いつから?
どこまで?
人でない者。彼等が、インターネットを見ないとでも?
動揺していると、後ろで音がする。
ガタッと、何かを置く音だ。
「まぁまぁ、座りな。お茶は出せないけどね。飲んだら、戻すのが大変だし」
後ろ手に探ると、どうやらパイプ椅子のようだ。
警戒しながらも、腰を下ろす。
「なぜ、分かったんですか?」
すぐに逃げられるよう、腰を浮かしつつも話を進める。
(せっかくのチャンスだ……!)
引き出せるだけ、話を引き出そう。
私の質問に、「ん~……」と唸りつつ天井を仰ぐ店長。
「私らは出られないけどね。モクさんとコウくんは、出られるんよ。一時的に」
「……答えになっていませんが」
「あぁ、確かに。モクさんが、目だけの人ってのは知ってるやろ?」
「……えぇ」
「彼女、たまにライブに行くんよ」
「ライブ?」
人ではない者が行くライブ。
私が考えている物とは違うのか。
動揺がバレたのか、店長はスマホを操作して画面を見せてくれた。
写っているのは、話題になっている男性グループだった。
「この子らのライブ帰りだった……かな?帰りにパブサしている時に偶然見つけたって。推し?が、この記事について呟いてたって」
「……このコンビニにいる理由が、あるんですか?」
「うん。ライブ費用を稼ぐためって。まぁ、モクさんはここの勤務自体も趣味だしなぁ。今日は出勤してないし。コウくんは……あ、おるか。今日はバックヤード作業だった」
「……この店は、3人で回しているんですか?」
「そうだよ~。あんまり来ないし。……あ、ちゃう。一人キッチン担当がいるわ。神格が強すぎて、出られないから会うことはないなぁ。あ、弁当出してない。あとで頼も」
バインダーを取り出し、挟んである紙を見ながら話している。
まるでバイトの面接のようだ。
私は今からこの店で働くのだろうか。
そのような錯覚さえ覚えるほど、あまりにリアルな仕事ぶりだ。
見ている紙も恐らくシフト表だろう。
(いや、でもさっき目が合いそうになったな……)
ジュース棚の奥にある白い玉。あれが恐らくモクさんなのだろう。
出勤していないのであれば、あれはなんだ。
「あの……ジュース棚の奥に見えた白い玉って……」
「あぁ、あれか。現代でいう監視カメラ……かな」
「監視カメラ?」
「うん。うちも監視カメラ置こうと思ったんだけどさぁ。キッチン担当が出るたびに、カメラがバグっちゃうしねぇ。映らんかったり、死角になるところが多すぎてなぁ。だから、モクさんに頼んで一部を店内に置いて監視カメラ代わりにしてるんよ。棚の隙間とか見てもらって、ついでに掃除とかも」
あ、その分はきちんとお金を渡しているからと語る店長。
目が大量にある女性。
百目かと思ったが、どうやら違う。
「もしかして、モクさんという女性は――」
目々蓮では?と言いかけた口は、動かなかった。
目の前の店長の顔が怖い。
目は鋭く、蛇を思わせる視線だ。
「……ここのルールの一つに、名前禁止があるんよ。『ソレ』は、あかんよ」
思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。
一回頷くと、さっきまでの顔がウソのように朗らかに笑いだした。
だが、よく観察すると目の奥があまり笑っていない。
文字通り『張り付けた笑顔』だ。
「で、後聞きたい事ある?」
「……なぜ、そんなに協力的なんですか」
コンビニについて調査している私に対して、なぜこんなにもフレンドリーなんだ。
私の問いに、顎に手を当てて「うーん」と唸り始めた。
「そうだねぇ……。何から、話そうか」