邂逅
「ちょっと休憩するか……」
時計を見ると、すでに朝の6時。
(また徹夜だ……)
眉間をつまみ、何度か瞬きをする。
頭には、偶然出会った桃谷の言葉が浮かぶ。
『黒崎ケイゴって、覚えてる?』
「懐かしいな……」
本棚に向かい、本の背をなぞる。
「確か、ここに……。あった」
卒業アルバムと書いてある本を取り出し、ページを開く。
黒崎ケイゴ。
同じクラスではあったが、あまり喋らなかった。
クラスの中心的存在の黒崎と、隅の方で本を読んでいるこちらでは接点がなかった。
「いや……図書館で話したか……」
何を話していたかは、覚えていない。
いや、確か心霊とか話したか?
「……コンビニに行くか」
アルバムを棚に戻し、財布とスマホを手にもつ。
一回コンビニに行って、戻ってきたら調査の続きをしよう。
「おいおい……。うそだろ……」
家から徒歩5分ほどにあるコンビニに着いたのはいいが。
コンビニの形がおかしい。
四角い建物の隣に、明らかにないはずの建物がある。
「古民家……例のコンビニか……」
明るいコンビニとは裏腹に、目を凝らさないと見えないであろう古民家。
いつのまにか漂ってきた霧。
「とりあえず、報告して……と」
冷静さを装うと思ったが、動揺しているのか手が震える。
『すいません、緊急デカいてます
コンビニ見つけたので入ってみます
誤字脱字すいません』
それだけ報告し、スマホをポケットに入れる。
意を決して、店内に入った。
(確かに、BGMがない……)
いらっしゃいませも聞こえない。
いつもなら、聞こえるはずなのに。
とりあえず弁当と飲み物を買おう。
そう決意し、店内を見て回る。
(確かに、下着とか置いてあるな……)
ちらりと裏を見て、販売業者を確認する。
『』
何も書いてない。いや、書いてはあるが読めない。
読めない方がいいのだろうか。
次にジュース棚。
(奥に目があるらしいが、果たして)
ジュースを取るフリをしてしゃがみ込み、中を覗く。
白い玉が複数浮いている。
なるほど、これか。
その白い玉から、赤い筋が見える。徐々に太くなっていき――。
目が合う前に、私は立ち上がった。
そのまま弁当コーナーへと足を進ませる。
(あれ、ないな)
何もない。空っぽである。
その代わり、野菜や魚、肉などが置いてあった。
あとは、米俵。
値段は5kgで、3500円。
ブレンド米ではなく、ブランド米を選んで購入できるようになっている。
(食べてみたかったが……)
ないのなら、仕方ない。
レジに向かい、会計を通す。
確かにレジ横には、神棚が置いてある。
(神棚がここにあるなんて、あり得ない)
神棚をよく見ると、米や酒が置いてある。
ついで、小さなチョコが置いてある場所にはお椀と『自由にお持ち帰りください』の紙が添えられている。
「お兄さん。さっきから、このコンビニを物色してどうしたいん?」
突然、声をかけられた。
驚き目の前を見ると、メガネをかけた女性の店員がにやりとこちらを見下ろしていた。
「な、なにを?」
出来るだけ動揺を抑えて、答える。
私の言葉に、女性の店員は「くっくっ……」と喉の奥で笑いをかみ殺すようにしている。
「いやいや。万引きGメンみたいやなって。……お兄さん、なんで驚いてないん?」
すぅっと目が細くなる。
名札を見ると『店長』と書かれていた。
(この人が、件の『店長』か)
驚いていないだって?
多少は驚いているが、調査で知っているから驚くわけがない。
調査で知っているから、驚くわけがない?
この調査資料を、私はどこに置いた?
(まさか……)
「これ、なぁんだ」
彼女は、スマホを操作して画面を私に見せてきた。
見たことあるUI。
見たことあるサイトデザイン
見たことある文体。
何度も見た……記事のタイトル。
『東北地方の一部地域に出現する謎のコンビニについての調査報告』
紛れもなく、私が今朝まで書いていた記事のタイトルだった。