友人の体験談:都内のコンビニ
お久しぶりです、佐藤です。
別の友人から、コンビニについて聞きました。
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お~、久しぶりじゃん。
佐藤は?宮城?あ、俺?都内都内。
そうだ。あのさ、黒崎って覚えてるか?
そうそう、声優の。黒崎ケイゴ。
俺、あいつ見たわ。
配信終わった後に、コンビニに行ったんだよ。
霧が出てて天気悪いから、早く帰ろうと思ってさ。
コンビニでさっさと飯買って。
そしたら、ちょうどバックヤードから出てきたんだよ。
いや、最初は分からなかった。
でかい店員だなって、思っただけ。
ただ、目元がなんとなく見たことあるなって思ってさ。
俺、その時持ってた酒のビン落としちまったんだよ。
拾ってもらったんだけど、店員が声出してさ。
「……交換しますか?」
声聞いて分かった。
「黒崎じゃん!?何してんの、ここで!?」
声優やってるの知ってたけど、バイトしてるとは思わなかったよ。
あ~……確かに。下積み時代だとバイトしてる人とかいるよな。
でも、今の時代ならソシャゲがあるじゃん?
すぐに潰れたとしても、金は出るじゃん。
それに動画サイトもあるし、俺、黒崎が動画やってるの知ってたからさ。
しかも、黒崎って今売れっ子だろ?そこまでひっ迫してんのかなって。
話ずれたわ。
で、懐かしい~って思ってたら向こうが口を手に当ててなんか呆然としてんの。
「……そうだ」
なんか、一人で納得してんだよ。
で、話そうと思った時にもう一人バックヤードから出てきた。
「およ?すごい音したけど、どしたん?」
メガネで細目で黒縁眼鏡のでかい女。
いや、違うって。俺の性癖じゃないって。
マジでそういう人が出てきたんだって。
俺と黒崎を交互に見て店員が。
「あちゃあ、落としちゃったか。ヒビ、入ってるねぇ。コウくん、新しいの持ってきてもらっていい?」
「……うす」
コウくんって誰?と思ったけど、その言葉で黒崎が動いたから黒崎なんだって。
でも、あいつの名前って「黒崎ケイゴ」じゃん?
どこにもないじゃん。名前の意味が。
その間に女性の店員さんが俺の事見てくるんだよ。
で、名札を見たら『店長』って書いてあってさ。
「いや~、すみませんねぇ。もう少し待っててねぇ」
「あ、別に大丈夫っすけど……。その……、さっきの店員って黒崎――」
黒崎がここで何してるのとか、なんでここにとか聞きたかったけど聞けなかった。
首に何か冷たいのが当てられたんだよ。
というか、首じゃなくて全身が寒かった。
目の前の店長は、笑顔なのに迫力があった。
「コウくんが、なニか、粗相デも?」
明らかに人じゃない、あの話し方は。
一つ一つ区切るように、まるで人間の声帯を真似してるようだった。
それまでは、普通に喋ってたんだぜ?
首降ったよ。必死に。
で、友達だってことを話した。
したら、空気が緩んだんだ。
「あ~、そういう事ね。びっくりしたぁ」
「あの、黒……コウってどこから来たんですか?」
「ん~?そっちと同じ場所。ただ、ここに来るときに全部落っことしたらしくてねぇ」
落っことしたって、何を。
質問しようと思ったけど、なんとなく出来なくて黙ってた。
「名前も存在も何もかも、あの子にはなかった。『こっち』に迷った時に、落としちゃったんだろうね。だから、私が名前を付けたんだ。虚空って書いて『コウ』って。ここにいる間だけ使える名前さ」
「だから、コウって」
「そういう事。……まぁ、君のおかげでコウくんも何か拾えたのかもしれないかな」
寂しそうに嬉しそうに話す店長。
なんというか、店長と店員って感じではなかったな。
どちらかというと……心配?
にしては、ちょっと過保護すぎるな。
まるで、親が子供を心配するみたいだった。
「……これでコウくんも問題ないだろう。あとは、あの子の気持ち次第だし」
「そう、なんですか」
「うん。少なくとも、コウくんを『知っている』人がいるんだったら問題ない」
「ただなぁ。この『家』は寂しがるなぁ。せっかく、シェアハウスをしてたのに」
店長がそう話した瞬間、コンビニ全体がぎしぎしと鳴り始めたんだよ。
家鳴りってあるじゃん?柱がなるやつ。
あれじゃない。もう、本当に揺れてるんじゃないか?ってくらい。
癖で天井見て、何か落ちてこないか確認しちまった。
店長は。
「まぁまぁ。私らがいるじゃん?」
って、慰めてた。
コンビニの店舗を。子供みたいに。
俺、とんでもねぇところに来たんじゃないかって。
ちょうどそのタイミングで、黒崎が戻ってきたんだよ。
「……店長、同じものがなくて……」
「あらら?じゃあ、別のでいい?」
店長が俺に聞いてきた。
もう、頷くことしかできない。
明らかに人じゃない『店長』
全部『落っことした』友人。
意志を持って鳴る『コンビニ』
すぐに帰りたかった。
で、普通に金払って出たよ。
帰る間際に言われた。黒崎に。
『思い出した。ありがとう』
それで、思い出したんだよ。
そうそう、お前の調査書。
あれってさ、基本は東北だろ?
なんで、都内にあのコンビニがあるんだよ。
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これが、友人から聞いた話です。
黒崎ケイゴ氏は、どうやら件のコンビニで働いているようです。
しかも、今まで出た話と違いますね。
今までは東北地方の一部地域にのみ出現していたコンビニが、都内にも出現しました。
次ページに今まで出た情報をまとめます。