第9話 双子の食事デート / ラスタルの悪意
僕と姉上はデートの最中だ。と言っても、一緒に街の美味しい物を探してるだけだけどね。
ただ、美味しい物探しって言っても、始めての街だからどこのお店の料理が良いのかわからない。だから、美味しそうな匂いを探ってみると・・・
「姉上!あっちから良い匂いがするよ!」
「よぅし!突撃だ!」
『おーー!』
路地裏から良い匂いがしてきて、それを辿って突き進む。すると、1分もしない内に、僕達は小さな食堂の前にたどり着いた。
「ここだね」
「間違いないね」
いくつになっても、始めての店に入る時は緊張する。でも、美味しそうな匂いの誘惑には勝てない。僕達は意を決して、扉を開いた。
『たのもー!』
「おや、随分可愛らしいお客さんだね」
店の奥から、女将さんと思しき貫禄のある女性が姿を現した。
「自分で言うのも難だが、良くこの店を見つけられたね?」
「この店から漂う良い匂いに誘われたんです」
「この何の匂いですか?」
「今日仕入れた突撃猪のステーキだよ」
『それお願いします!』
「おやおや、席に着く前に注文かい? まあ良いけど。サイズはどうする?」
『1番デッカいやつで!』
「かなりのサイズだよ? 大丈夫かい?」
『2人ですから!』
「そうかい。お代は銀貨1枚だよ。足りるかい?」
「姉上、どう?」
「え~と・・・」
お財布の中を確かめてみると、さっきの納品で手に入れた金貨5枚が入っていた。
「足りるね!」
「うん!」
『お願いします!』
「あいよ!すぐに用意するから、どこか適当に席を見つけて待ってておくれ」
『はーい!』
女将さんが厨房に入り、僕達は2人用のテーブルに座って待つ。
―――10分後
「お待たせしたね。こちら、当店の本日のイチオシ、突撃猪のステーキLLサイズだよ!」
『デッカ~イ!!』
女将さんが持ってきてくれたのは、僕達の顔よりもデッカいステーキだった。
「どうだい、凄いだろ? さて、あんた達。コイツを食べ切ることが―――」
『いただきまーーーす!!!!』
女将さんが何か話してたけど、もうそんなの待ってらんない!僕達は無我夢中で食べ始めてしまった。味は・・・
『美味しい~~~~!!!!』
最っ高だ!!こんな美味しい物は、今まで1度も食べたことがない!
「姉上、これは!」
「うん!最高に美味しい!ラスタルのどの料理よりも美味しい!」
ラスタルの王城で出てきた食事は、とにかくマズかった。別に、父上に差別されてマズい物食べさせられてたとか、そんなんじゃない。あの父上も、食事だけは皆平等に与えてくれた。でも・・・出てくる料理はどれもこれも、兵士として強い体を作ることばかり考えて、味を度外視した物ばかりだったんだ。森で作ってた魔物の丸焼きの方が、まだ美味しかった。
「あんた達、本当にうまそうに食うね!」
「それはもう!」
「美味しいですから!」
「そんなに誉めて貰えると、鼻が高いねぇ!」
女将さんが豪快に笑う。
「なぁ、女将さん。俺にも、突撃猪のステーキを、Mサイズで頼む」
「私もMを!」
「俺はLで!」
「じゃあ俺達はLLだ!」
ふと見ると、さっきまで少し空席のあった食堂は、いつの間にか満員御礼となっていた。しかも皆口々に、ステーキを注文している。
「おやおや、2人があんまりうまそうに食うから、皆あてられちまったようだね。お前達!気張っていくよ!」
『はい!』
女将さんにウェイトレスさん、そして厨房にいる人達が忙しなく動き始める。
「何か、皆忙しくなっちゃったね」
「ヒイヒイ言ってる人もいる」
「嬉しい悲鳴って奴さ」
近くの席にいたおじさんが話しかけてきた。
『嬉しい悲鳴?』
「忙しいってのは大変だが、その分儲かるからな。そういう時に上げる声のことを、嬉しい悲鳴って言ったりするんだ」
『へぇ』
世界には、まだまだ知らないことがたくさんあるんだね!
「それにしても、突撃猪ってそれなりの高級食材のはずだよな? しかも最近の異変の影響で、突撃猪も強くなって、流通量も減ってるはずだろ? どうやって手に入れたんだ?」
確かに、昔読んだ本にも、『突撃猪の肉を手に入れるには、貴族レベルの財力が必要』って感じのことが書いてあった。
「ああ、それは・・・言ってしまえば、ギルドとのコネですね」
ウェイトレスさんの1人が、疑問に答えてくれた。
「ギルドのコネ?」
「実は本日、ギルドに突撃猪の素材が納品されたそうなのですが、店長はギルドに伝手がありまして。その伝手で突撃猪のお肉を融通してもらったんです」
「このご時世に、ギルドに突撃猪を? 一体誰が?」
「さすがにそこまでは・・・」
「そうだよな。無理言って悪かったな」
今日納品された突撃猪・・・?
「キール、もしかして・・・」
「やっぱり、そうだよね」
「どうかしたのか?」
「その突撃猪を納品したの、多分僕達です」
「え、お2人がそうなんですか!?」
『多分』
ギルドには、魔物素材などを換金してくれる場所がある。僕達は依頼の達成に向かう直前、道すがら倒した魔物の素材をそこに納品していた。あまりにも金欠だったからね。
「でもよ、お前らはどうやって突撃猪手に入れたんだ?」
「私が倒しました」
「1発でした!」
『・・・はぁ!?』
あれ、何か驚かせるようなこと言ったかな?
「ク、突撃猪を、子供のお前らが!?」
「子供じゃないです」
「15歳です」
『15歳!?』
さっきよりも驚かれた。むう、突撃猪のことより、そっちの方に驚くなんて・・・
「あ・・・も、申し訳ありません!」
「お、俺も悪かった。すまねぇ」
「いえ、大丈夫です」
「このくらい、大したことないです」
・・・本当はちょっとだけ気にしてるけど。
「けど本当なのか? お前ら、と言うよりそこの嬢ちゃんが、突撃猪を倒したって」
「本当です。あの時の姉上、本当にかっこよかったんですよ!1撃で突撃猪をぶっ飛ばして!」
「そ、そうか。そんな姿とてもそんな姿は想像できないが」
「やれやれ、あんたもまだまだだね」
ここで、女将さんが話に入って来た。
・・・ステーキを配りながら。
「この店には、冒険者も良く来るからね。あたしも長年名だたる猛者共をいっぱい見てきた。だからそれなりに目も肥えて、強さの判別ができるようになったつもりだったんだが・・・驚いたことに、この2人の強さはまったくわからない」
「それって、弱いのとは違うのか?」
「まったく違う。たとえそれが子供でも、ある程度の力は持ってるわけだから、それはそれで判別できる。でもこの2人には、それが全然できないんだ。強いて言うなら、底が知れない。少なくとも、あたしらレベルじゃ一切力を測れない程の猛者と見るべきだろうね」
「マジかよ・・・」
見た所、女将さんはお世辞にも猛者とは言えない。でもこの人は、僕達の強さを見抜いてみせた。僕達は全力で気配を隠してたのに。
『どうしてわかったんですか?』
「女将さんはスキル『気配察知』から進化した、上位スキル『心眼』を持ってんだ。相手の強さとかがなんとなくわかるのもそのお陰さ」
「まあ見えるだけで、あんた達のように敵と戦えるわけじゃないけどね」
「それでも凄いですよ!」
「え?」
「スキルは職業と違って、努力しないと絶対手にいれることができません」
「つまり、女将さんの進化したスキルは、女将さんの努力の結晶なんです!」
「その努力だけで、充分凄いですよ!」
「・・・そんな風に誉めて貰えたのは、始めてだよ。2人共、ありがとうね」
僕達は事実を言っただけなんだけど・・・?
「何で御礼言われてるか、わかんないって顔だぜ」
「ふふ、本当に良い子達ですね。あっ、ごめんなさい!また子供扱いを―――」
「何言ってんだい。あたしからすりゃ、あんたも、この子達も、まだまだ子供さ」
っ!・・・確かに。
「そうだ、お2人さん。既にLLサイズ完食したみたいだけど、お腹は満たされたかい?」
「う~ん・・・」
「まだ、ですね・・・」
「だと思ったよ。それじゃあ、あたしの奢りでもう1枚焼くって言ったら、どうする?」
『お願いします!!』
「あっははは!あいよ!ちょっと待ってな!」
意図せずもう1枚ステーキを食べられることになった僕達。その後は、店に来てた他の人達とも会話が弾み、夕方まで楽しい一時を過ごした。
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一方、こちらはラスタル王城。
ラスタル王国は今もカーナの捜索に当たっているが、未だカーナの行方を掴めてはいなかった。しかし、ゴルト王の意向で捜索方針を変えた結果、カーナを連れ戻す糸口が見えてきた。事の発端は、国境警備兵―――以前、キールの身ぐるみを剥がそうとした、中年の警備兵2人の報告だった。
「申し訳ありません!キールにしてやられました!」
「恐らくは魔道具を使って逃走したものと思われます!」
遠距離通信の魔道具を使い、警備兵達はそう報告してきた。2人は当然、キールの真の力を知らない。そのため2人は、キールが何らかのアイテムを使って逃走したと考えたのだ。いつものゴルトであれば、「無能に出し抜かれるとは何事だ!」と言って2人に罰則を与えるところだが、今回は違った。
「キールが、お前達のいる国境から逃げたというのは、本当か?」
「は!間違いありません!」
「うむ、わかった。では下がれ」
『・・・え?』
「聞こえなかったか? 下がれと言ったのだ」
『は!』
通信が切れると同時に、ゴルトは特殊部隊に召集をかけ、国境の砦から続く街道を徹底的に調べさせた。その結果、キールに隠す気が無かったことも相まって、足取りはすぐに掴めた。そしてゴルトの読み通り、カーナの足取りも掴めた。
(思えばアイツは、キールに執着していた。キールの後を追えばカーナも見つかる。もっと早く気付くべきであったな)
そう考えつつ、王子・王女を含めたラスタル王国軍の一部の将兵達に、召集をかけるゴルト。現在は集めた面子と共に、会議室にて会議の真っ最中だ。
「調査の結果、カーナはキールを追ってディアナ王国方面へと逃亡したことがわかった。そこでお前達には、カーナ及びキールラスタルへと連れ戻す任を与える」
会議室が騒然とする。この国において無能として名が知れているキールを、わざわざ連れ戻せというのだから、当然の反応だろう。
「父上、いや元帥!何故あの無能まで連れ戻す必要があるのですか? カーナに対する人質ですか?」
真っ先に口を開いたのは、赤髪の女性―――第2王女にして王国軍中将の1人のファウラだ。彼女は椅子から立ち上がり、詰め寄るようにゴルトにそう聞いた。
「もし人質のつもりでしたら、それはやめていただきたい!私は、あの無能と同じ空間にいると思うだけで、吐き気がします!カーナには生きていると思わせておけば良い。無能を生かしておく必要などありません!」
「余も最初は同じ様に考えた。だがな、キールには兵器としての価値があるのだ」
「兵器? 一体どういうことですか?」
「実はな・・・キールが、レベル8000を超えている可能性が浮上した」
『!!!?』
先程よりも会議室が騒然とする。
「特殊部隊の報告によると、奴は街道を歩いて移動していたようなのだが、街道のどこにも、奴の野営の跡が無かったそうだ。それどころか、高レベルの旅人でも10日程掛かる距離の道のりに、一切途切れることなくキールの足跡の痕跡が残っていたらしい」
「それって・・・」
「そうだ。奴はその道のりを、一切の休息を取らずに、歩いて移動したということだ。それ程の体力は、レベル8000以上で無ければありえない」
「魔道具を使った可能性は?」
「無い。キールのレベルが8000以上であることは、揺るぎない事実だ」
ゴルトから聞かされた話に、皆一様に黙り込んでしまう。だが、話にはまだ続きがあった。
「さらに言えば、街道の途中でカーナの痕跡も見つかった。恐らく、キールと合流したのだろう」
「お、お待ちください元帥」
くせ毛の金髪に、銀縁の丸眼鏡が特徴の男性―――第3王子にして中将のイベルが、額に冷や汗を浮かべながら発言する。
「カーナがキールに追いついた? いくらキールが本気で逃げていなかったとはいえ、相手はレベル8000以上ですよ? それに追いつくということは、カーナのレベルはキールと同等以上ということですか?」
『!!!』
「・・・その通りだ。カーナもレベル8000以上である可能性が極めて高い。奴め、何がレベル5000だ。謀りおって!」
カーナに黙ってキールを追放したことを棚に上げて、ゴルトは怒りを露わにする。
「どうすんだよ元帥。力ずくで2人を連れ戻すのは絶対に無理だぞ? 相手はレベル8000が2人。対してこっちは、大将筆頭ですらレベル7000程度なんだからな」
第2王子のガイロは、大将筆頭にして第1王子のユティウスを見ながらそう言い放つ。
「確かにレベルでは負けているが、俺にはギフトがあるぞ」
「何言ってんだよ。カーナだって同じ可能性はあるだろ? 職業だって、本当にただの『格闘家』なのか疑わしいじゃねぇか」
「それは・・・」
「あんたはどう思う、リーファ大将?」
ガイロは続けてもう1人の大将、第3王女のリーファにも話を振る。
「悔しいけど、実力行使は無理」
「だろ? アイツらが自ら戻ってくる可能性も皆無だし、2人のことは諦めた方が良いんじゃねぇか?」
「何を言うか!我らの目的は世界征服だぞ!? あの不良品共の力も使わなければ、達成は不可能だ!」
「あの、ちょっと良いですか?」
突然イベルが、その場の全員の視線を集める。
「実力行使は無理、自ら戻る可能性も無い。ならば、自ら戻らざるを得ない状況にしてしまえば良いではないですか」
「ほう?」
ゴルトが興味を持ったことを確認し、イベルは話を続ける。
「恐らくはあの平民の影響でしょうけど、カーナには甘いところがありましたよね?」
「ああ、よく知っている。街を破壊しつくせと命じても民間人を必ず見逃すから、毎回追跡部隊を編制しなければならないのが非常に面倒であったのを、良く覚えておるわ。特に、子供は良く見逃していたな。『殺せば殺すだけレベルが上がるのだから、敵は皆殺しにしろ』と、何度言っても絶対に殺そうとしない。それどころか、敵国の子供を身を挺して守ったことすらあったな」
「では、子供を幾人か誘拐して、『従わなければ殺す』と脅迫するのはどうでしょうか?」
一般人が聞けば、己の耳を疑うような話である。しかし、イベルは一切躊躇うことなく、僅かに笑みすら浮かべて提案してきた。
「敵国の子供すら助けるカーナならば、この脅迫で必ず戻ってくるでしょう。そして、カーナがキールに執着しているように、キールもカーナに執着していますから、芋づる式にキールも連れ戻せるはずです」
イベルの提案に、その場にいた誰1人として、反対の声を挙げる者はいなかった。特にゴルトは、目から鱗とでも言うかのように感心していた。
「成程!奴らの甘さなら、充分ありえる話だ!我々がやることは、適当に子供を攫うだけ。たったそれだけで強力な兵器を2つ取り戻し、完全に制御できるようになる!有り余るおつりが来るな!」
「ええ。街道に特殊部隊を配置しておけば、子供は幾らでも手に入りますからね。まったく、見ず知らずの子供など、放っておけば良いものを。我が弟妹ながら、あまりの愚かさに頭を痛めるばかりです」
「だが今回は、愚かであることは都合が良い!特殊部隊よ!」
『は!』
まるで最初からそこにいたかのように、特殊部隊が突然姿を表す。
「話は聞いていたな?」
「は!既に街道には、私の部下達を配置しております」
「よろしい。手当たり次第子供を拐え!キールとカーナの仕業に偽装するのも忘れるなよ!」
『はっ!』
特殊部隊が音も無くその場から消える。
(奴らに罪を擦り付ければ、奴らは国外で居場所を失う。そうなれば、2度とラスタルから脱走することはできない。あの兵器共は一生余の物だ!そうだ、この際各国の要人の子供も捕らえてしまえば・・・クククク、世界征服の夢も一気に近づく!)
ゴルトは邪悪な笑みを浮かべ、これからのことに思いを馳せる。その時だった。
『―――っ!!!!』
森のある方向から、途徹もなく強大な気配が発せられる。あまりにも巨大な気配に、部屋にいた者達は戦慄する。・・・しかし。
「やれやれ、また魔神獣か・・・」
なんと、全員すぐに気を取り直してしまう。
実はラスタル王国は、時折森に出現する魔神獣の存在を認知していた。魔神獣が現れ始めたばかりの頃は、出現する度に国中大騒ぎとなっていた。しかし、魔神獣は悉くキールとカーナに倒され、ラスタルが危機に見舞われることは無かった。勿論今のラスタル王国に、その事実を知る者はいない。そして、魔神獣が現れては消えるという、同じことが10年繰り返される内に、ラスタル王国では「魔神獣は森の魔物を餌として食べに来ているだけで、侵略の意思は無い」と楽観的な考えが広まってしまった。
本当は、自分達が見下している者達に守られているだけなのに・・・
「やれやれ、またしばらく森を閉鎖せねばならんな」
現在のラスタルでは、森に魔神獣が出現した際、森を閉鎖するという対策しか取られていない。今回もゴルトは、ただ森を閉鎖するのみに留めてしまった。
―――キールもカーナもいない今、それが大きな過ちであるとも知らずに。




