第5話 双子の素性
今回は第三者視点です。
「姉上ぇ!!」
キールは思わずカーナの胸に飛び込む。そして周りの目も気にせずに、大泣きし始めてしまった。
「姉上!もう会えないと思ってた!」
「おー、よしよし。寂しかったね。もう大丈夫だよ!」
そう言ってキールを慰めるカーナも、大粒の涙を溢れさせている。
双子の姉弟はお互いに抱き会い、子供のようにワンワンと泣き出す。その結果カーナの集中が切れ、止まっていた時が動き出した。
「『そういう人』って―――あれ、キール君?」
「うおっ!? キール、お前いつそこに!?」
「それに、何か増えてる!?」
「これはまた、随分と可愛らしいお嬢さんですな」
『大いなる鷹』の面々とマシュロフは、時が止まった世界を認識できていない。そのため彼らには、キールが瞬間移動して、さらにもう1人少女が現れたように見えているのだ。
「誰だあいつ?」
「抱き合って大泣きしてるってことは、キール君とすっごく親しい人だよね? もしかしてさっき言ってたお姉さん―――カーナちゃんってあの子、じゃなくてあの人のこと?」
「・・・流石双子。顔も、身長も、そっくり」
アスナの言う通り、カーナの容姿はキールによく似ていた。身長は150cmくらい。髪は白のショートで、瞳は緑色。キールにそっくりの童顔で、ゴーグルや服装など条件を揃えれば、キールと見分けがつかなかったかもしれない。
―――胸に立派な双丘がなければだが。
「しっかし2人共すげー泣くな。いくら離れてたって言っても、長くてせいぜい1か月くらいだろ?」
「それだけあの2人が、お互いを大切に思っているということです」
「ってか、そういうザックももらい泣きしてんじゃん」
「ち、違ぇよ!これは―――」
「あ、皆さんごめんなさい。すっかり取り乱してしまって」
さんざん泣いて満足したのか、少し目の下を赤らめたキールが声をかける。
「紹介します。こちらが先程お話しした、僕の姉上のカーナです」
「初めまして!弟がお世話になったみたいで、ありがとうございます!キールの姉のカーナです。よろしくお願いします!」
「おう!よろしくな!」
「よろしくね、カーナちゃん!」
「よろしくお願いします」
『大いなる鷹』とマシュロフは代わる代わる挨拶をする。
「姉上、こちらは商人のマシュロフさんと、冒険者パーティー『大いなる鷹』の皆さんだよ」
「え、『大いなる鷹』って、あの!?」
「知ってんのか?」
「もちろんですよ!3年前にプレール王国を救った英雄でしょ? まさか本物に会えるなんて!!」
Sランクパーティーである『大いなる鷹』は、大陸でも有数の冒険者パーティーであり、ファンクラブができる程の人気がある。
ゴルト王は「庶民だから」という理由で冒険者そのものを毛嫌いしているが、カーナは冒険者が大好きで、特に名を馳せる冒険者のことは隅々まで把握している。
「私、大ファンなんです!後でサイン良いですか?」
「まあ、リーダーが良ければ・・・」
「別に構わん」
「やったー!ありがとうございます!」
「う、うむ」
「良かったね!姉上!」
『イェイ!』
双子は、自然な動作でハイタッチをきめる。
「カーナちゃんは、キール君と違って凄いグイグイ来るね」
「キールはそういうの苦手ですから。なので私がグイグイ担当、キールが冷静担当です」
「漫才のコンビみてぇだな」
「あはは、良く言われます。それと、マシュロフさんのことも知ってますよ。確かSランクパーティー御用達の商人で、人の本質を見抜く『心眼の商人』だとか」
「滅相もございません。ですが、私の名前があなたのお耳に入っていたのは光栄でございます。カーナ大将閣下」
『っ!?』
「・・・え? 大将!?」
「どういうことだ!?」
「・・・説明要求」
マシュロフの突然の言葉に、『大いなる鷹』のザック・アドレナ・アスナは大いに混乱する。
キール、そして当のカーナも酷く驚いていた。
「ど、どうしてそれを!?」
「秘密にしてたのに・・・僕、何かおやっさんに言っちゃってました!?」
「いえ、そうではありません。お姉さんの名前がカーナだと聞いた時点でもしやとは思っておりましたが、カーナさんのお姿を見て確信しました」
「私の姿?」
「何の変哲もないように見えますけど・・・?」
「カーナさん、あなたが着ているそれは、軍服ですよね?」
「は、はい。服がこれしか無かったので」
「では、軍服の色の意味はご存じですかな?」
『色に意味があるんですか!?』
キールとカーナは揃って驚く。「『大将』が軍服の色の意味を知らないのはどうなんだ」というツッコミを抑えて、フィオが言葉を引き継ぐ。
「いいっすか? ラスタル王国では軍服の色で軍人の身分が決められるっす。三等兵から一等兵までは黒、少佐が黄色、中佐がオレンジ、大佐が緑、少将が青、中将が赤、そして大将が白っす」
「ってことは・・・」
「その軍服を着てる時点で、意味を知ってる人からはバレバレっす」
「や、やっちまったぁーーーー!!」
自分のミスに気付いたカーナは、その場でしょぼくれる。姉弟揃って、感情が非常にわかりやすい。
「あ、姉上、しっかりして!」
「あぁ、可愛い弟が慰めてくれると、すっごく癒される・・・」
「も、もう!姉上ってば、僕を可愛いだなんて!誉めても何も出ないよぉ!」
「あー・・・ちょっと良いか?」
突然イチャつき始めた双子に呆れつつ、ガイは大事なことを聞く。
「そもそも1国の軍の大将が、何故こんなところに?」
「それは・・・脱走して来たんです」
「脱走? 今一話が見えないな」
「実は、キールが、その・・・」
「姉上。僕なら大丈夫だよ」
「っ!」
「やっぱり、それで急いで追いかけて来てくれたんだね。僕のことは気にしないで、話して良いよ。僕達の素性も含めて」
「・・・わかった。私がここまで来たのは、キールが追放されたって聞いたからです」
『追放!?』
「それと、僕からも1つ。僕の元の名前はキール=フォン=ラスタル。つまり僕達は、ラスタル王国の王の子なんです」
双子を除くその場にいた全員が驚愕する。
「・・・は? え、ちょっと待って。頭が追い付かないんですけど?」
「じ、じゃあ何か? キールとカーナは、ラスタルの王子様と王女様なのか?」
「僕は元ですけどね」
「あ、私も元だよ!」
「そんな満面の笑みで言うことじゃねぇだろ!? 王子様と王女様の地位を失くしちまったんだぞ!?」
「いやいや、あのクズ親父の国なんかこっちから願い下げですよ」
「ク、クズ親父って・・・」
「だってあいつ、キールが兵士として使えないってだけの理由で、キールを追放したんですよ? クズ以外の何者でもないでしょう?」
「―――その通りだな」
「リーダー?」
「カーナ殿」
「あ、カーナで良いですよ」
「では、カーナ。君が兵士になったのは幾つの時だ?」
「10歳くらいですね」
「やはりそうか。下らない理由で実の息子を追放し、さらには齢10歳の子供を、それも実の娘を兵士にするとは・・・許しておけぬ非道だ!」
「あ、兵士は志願です」
「何?」
「あの国では実力さえあれば、地位だけはもらえたので。私達は庶子で頼れる人もいないから、いざって時にキールを政治的に守れるよう、兵士として地位を確率しようと思ったんです。まあ、あの親父は私を使える兵器としか思ってなかったみたいですけどね」
「兵器だと?」
「そんな・・・!」
「ふざけやがって・・・!」
『大いなる鷹』の面々は怒りを滲ませる。
「ラスタル王国は元々、黒い噂の多い国でした。一度だけゴルト王とお会いしましたが、あの目の奥に宿る黒々とした闇は、今尚忘れられぬ程の衝撃です。実の子供すらこうして手にかけているとなると、噂も真実味を帯びてきます。今後、ラスタル王国との取引は、一切停止させていただくことにしましょう」
マシュロフははっきりとそう言った。
「まあでも、全部過ぎたことです。こうしてキールと再会できましたし、もう気にしないことにしました。キールもそうでしょ?」
「うん、あの人のことばかり気にしててもしょうがないし。それよりもこれから先の、僕達の新しい未来のことを考えたいです!」
「つ、強い!2人共、なんて強いの・・・!」
アドレナは前向きな双子の姿勢に胸を打たれる。
「カーナ。キールを追って脱走したってことは、もう国には戻らないんだろ? この後はどうするんだ?」
「このままキールと一緒に、冒険者になります!」
「え、姉上も一緒になってくれるの?」
「あったりまえじゃん!相棒を1人にするわけ無いでしょ?」
「あ、ありがとう姉上!正直、ソロは心細かったんだ!」
「おいおい、俺達のパーティーメンバーになるんじゃダメなのかよ?」
「無理だ。『いきなりSランクパーティーに入ると、実力を過信するなどの悪影響が出るから』と、新人がSランクパーティーに入ることはギルドの規定で禁止されているし、何より我々では、レベル10000のこの2人と共闘するには圧倒的に力不足だ」
「そ、それは、そうだな・・・」
キールとカーナはどちらも、1人で『大いなる鷹』を真正面から叩き潰せる力を持っている。つまり、力の差がありすぎるのだ。キール自身もそのことに気付いているため、規則云々は関係なしに『大いなる鷹』とは組まず、ソロで行くつもりだった。もちろん、『大いなる鷹』が尊敬する先輩であることには変わらないが。
「そういうわけで、マシュロフさんに『大いなる鷹』の皆さん。私も弟と一緒に連れて行ってもらえないでしょうか? 今は手持ちは無いですけど、いずれ必ず代金は支払いますので、どうかお願いします」
「お、お願いします!」
突然改まってお願いする姉の姿に、キールも思わず一緒に頭を下げる。
「安心しろ。金なんか取る気は無いし、最初から一緒に連れていくつもりだ」
『ありがとうございます!』
一行はキールの姉カーナをメンバーに加え、さらに街道を進む。街までの距離は、あと2日程となっていた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
馬車に揺られる旅路で、一行は改めてカーナに自己紹介を行う。カーナもそれに応えて、改めて自己紹介をした。
「く、『時空格闘家』って・・・」
「なるほど。時が止められていたならば、先程の時間が飛んだような感覚も納得だ」
「文字通り、時間が飛んでいたんですからね」
「あのレベルに加えて最強職って、これで2人目じゃねぇか!」
「キールも最強職だったの?」
「うん。僕は『魔法鍵士』だったよ。と言っても、使うのは剣じゃなくて鍵だけど」
「え、何それ。面白そうじゃん」
「姉上こそ、まさか時間停止まで使えるなんて、凄いじゃん!」
「いやぁ~それほどでも~。でも、キールには効かなかったよね? どうして?」
「え? 姉上が対象から外したんじゃないの?」
「最初はそのつもりだったよ。姉弟水入らずで再開したかったし。でも使おうとした瞬間感覚でわかったんだ。キールには効かないって」
それを聞いて、キールは一瞬考える。
(『魔法鍵士』じゃ無理だし、時間停止無効の魔道具も持ってないし・・・まさか)
「思い当たる節があるの?」
「う、うん・・・」
キールの「思い当たるふし」とは、もちろんギフトのことだ。ギフトも職業も、神によって与えられる神の力の一部だが、力はギフトの方が圧倒的に強い。ギフトの力を疑うのは必然だった。
(でも、ここだと言いづらいな・・・)
キールは自身のギフトについて話すことを躊躇う。理由は『大いなる鷹』とマシュロフがいるからだ。そもそも、本来であればギフテッドは、例え王族であろうと判明次第神殿に所属するよう、国際法で定められている。理由としては「大いなる神からの贈り物を正しいことに使わせるため」となっている。・・・当然「ギフテッドを集めて神殿の力を強めようとしている」と疑っている者も多いが。ともかく、国際法に従うならば、キールとカーナは即座に神殿に所属しなければならない。だがゴルト王は、ギフトの力をも兵器利用するため、自身の子がギフテッドと判明しても隠しているのだ。そしてキールも、神殿でガチガチに縛られながらの生活には断固拒否の姿勢を貫いている。
(でも、もしも『大いなる鷹』やおやっさんが正統派の神殿派閥だとしたら・・・僕がギフテッドと知ったら、神殿に報告するかもしれない。そしたら、僕を捕まえるために、使徒達がやってくる!)
神殿の最高戦力、使徒。正確なレベルはわからないが非常に戦闘能力が高く、全員がギフテッドであることは明かされている。多勢に無勢で来られたら、敗北して、一生神殿に縛られる可能性はゼロではない。下手をすればカーナにも危害が及びかねない。カーナがギフテッドと知らないキールはそれを嫌がって、ギフトのことについて口を噤んでいるのだ。
「・・・・・・」
キールが黙りこくっていると、再び時間が停止する。
「姉上?」
「この方が話しやすいんでしょ?」
「・・・流石だね。父上にも話しちゃったけど、姉上にもちゃんと話すよ。実は僕、ギフトを持ってるんだ。僕に姉上の時間停止が効かないのは、僕のギフトの力だと思うよ」
「親父に聞いたよ。ダブルギフテッドなんだってね」
「知ってたんだ」
「言い出せなくてごめん。ちなみに、私もギフテッドだよ」
「姉上も!?」
「このことは親父も知らないけどね」
「じゃあこれは、僕達だけの秘密だね」
「うん!私達が自由な生活を謳歌するための、2人の秘密だ!」
2人は秘密の誓いを立て、指切りをする。2人共、相手が秘密を漏らすとは微塵も疑っていない。これはあくまで、願掛けのようなものだ。
『♪~ 指切ーりげーんまん
嘘付いたら針1000本飲ーます
指切った! ~♪』
歌が終わると同時に、世界の時が動き出す。それと同時に、ガイが話の続きを聞き始めた。
「キール、思い当たる節ってなんだ?」
「あ、えっと・・・実は『魔法鍵士』になってから、時間を操る魔法を少しだけ使えるようになって、もしかしたらそのせいかなって」
キールはそう誤魔化した。
「た、確かに、魔法の中には時を操る物もあります。それなら、周りの時間の流れに影響を受けずにいることも可能です」
「姉弟揃って時を操るとか、マジでどうなってんだよ・・・」
「あはは、本当ですよね」
『お前が言うな!!』
盛大にツッコまれてしまったが、ギフトのことはどうにか誤魔化せたようだ。
「はあ、まあ良い。てっきりギフテッドかと疑ったが、どうやら違ったようだな」
「・・・ギフテッドだったら、どうする気だったんですか?」
「そりゃもちろん、神殿に通報していたさ。成人したばかりの若者には酷だが決まりは決まり。神殿の一員として、その身を世界に捧げてもらわなくては」
『・・・・・・』
「2人共ごめんね。驚かせちゃったよね? 私達もあまりそういうことはしたくないんだけど、リーダーってば、神殿のこととなるとすっごく頭が固くてさ。ちっとも融通が利かないんだよ」
「当然だろう!我らが神の代弁者たる、神殿が決めたことだぞ? 従うのは当然のことだ!」
「ほらね?」
『そ、そうですねぇ・・・』
ガイにだけは絶対にバレないようにしようと、改めて誓った双子であった。




