第3話 元王子様と自己紹介 / 王女様の反抗
僕は商人さんの馬車に乗せてもらって、冒険者さん達に同行することになった。
「さて、まずは我々の自己紹介といこう。まず、俺がこのパーティー「大いなる鷹」のリーダー、ガイだ。職業は『剣聖』で、レベルは5000になる」
「よろしくお願いします。剣聖ってことは、ガイさんは『進化職業』なんですか?」
「うむ、確かに俺は『進化職業』だ。ただひたすらに魔物を斬りまくっていたら、いつの間にかそうなっていただけだが」
職業は、極めることで進化する。進化した職業及びそれを持つ人達は『進化職業』と呼ばれ尊敬される。ちなみに僕のように、読み方だけが変わった場合は『変異進化職業』と呼ばれ、こちらはあまり尊敬されない。
「凄い!僕も頑張ればその域までいけるでしょうか?」
「弛まぬ努力を続ければ、必ずな」
「が、頑張ります!!」
(正直、進化などしないで欲しいが)
「次は俺だな。俺はザック。職業は『戦士』で、レベル4000。見てわかる通り、得意武器は斧だ。よろしくな!」
「よろしくお願いします!」
ザックさんは背中に斧を背負っている。ザックさんは180センチを超えてそうなのに、斧の長さはザックさんの身の丈を超えている。
「それにしてもでっかい斧ですね!それに何か強い力を感じます」
「お、見る目あるじゃねぇか。あぁそうさ。コイツはただデカいだけの斧じゃねぇ。ドラゴンの鱗も切れちまう程に切れ味を増すことができるんだ!」
「へぇ、凄い斧なんですね!」
(まあ、お前は素手でドラゴンの首を落とせそうだけどな)
「どうかしましたか?」
「あぁ、何でもねぇ。それで、次は誰がいく?」
「はぁーい!次は私!私はアドレナ。職業は『聖騎士』でレベルは3500だよ!よろしくね!」
「よろしくお願いします、アドレナさん!アドレナさんの鎧からも力を感じますね」
「そうでしょ? この鎧はね、装着者を回復する光魔法が宿ってるんだ!だから重い鎧を着たままでも、長時間戦えるんだよ!」
「後で僕も着てみたいです!」
「あぁ、言いにくいんだけど、多分サイズが合わないと思う」
「・・・そうですね」
僕の身長は150センチ。対してアドレナさんは170センチくらい。
・・・あぁ恨めしや、僕の低身長。
「じ、じゃあ次の人に移ろうか!」
「っそうだな。次はフィオ、頼む」
「了解っす。改めまして、俺の名前はフィオ。知っての通り職業は『魔盗賊』で、レベルは3500に至ってるっす。よろしくっす」
「よろしくお願いします。駆け出しの頃はレベル200って言ってましたよね? どうやってそこまでいったんですか」
見たところフィオさんは20歳前後。仮に15歳から冒険者を始めたとしても、5年でレベルを3300上げるには、自分以上のレベルの強敵とほぼ毎日戦う必要がある。僕達みたいに森で修行したならわかるけど、フィオさんはどうやって?
「あぁ、それはリーダーのお陰っす」
「ガイさんの?」
「俺はリーダーに助けられた後、リーダーと一緒に行動するようになったっす。当時既にレベル4000になってたリーダーは、レベル3500以上の魔物を相手取ることも日常茶飯事でして、その時後方から討伐の手伝いをさせて貰ってたら、いつの間にかおこぼれでここまできたっす」
なるほど、そういうことか。
敵を倒した時に貰える経験値は、とどめを刺した人だけが貰える訳じゃない。例えば、相手を挑発して注目を浴びたり、ちょっとした傷をつけたり、とにかく相手に何か負の影響を与えていれば貢献度に応じて全員に割り振られる。フィオさんもそうやって少しずつ、レベルを上げていったんだろう。
「何がおこぼれだ。俺が一体どれだけお前に助けられたと思っている。経験値の4割がお前に持っていかれていたのが証明だ。お前の今のレベルは、間違いなくお前の実力で手にした物だ」
「リ、リーダー・・・!!」
フィオさんが泣きそうになっている。この世界で、フィオさんのようなレベルの上げ方は「おこぼれ」と言われ激しく差別される。自分がおこぼれで強くなったと思ってたフィオさんとしては、ガイさんが自分を認めてくれてたことが嬉しいんだ。
「ガイさんは、おこぼれという概念が無いんですね」
「キールは違うのか?」
「いえ、僕も同じです。おこぼれだろうが何だろうが、経験値を貰えるってことは世界がその人の貢献を評価してるってことですから。ズルいだ何だと言う人達は、きっと自分の力を過大評価してて、その人の力をわかってないだけですよ」
「正しくその通りだな」
「仲間以外の人にそんな風に言って貰えたのは初めてっす!感謝するっすよ、キールの旦那!」
「いえ、僕は持論を述べただけですよ。フィオさんの力、頼りにしてますからね!」
「お任せっす!」
「・・・次、私良いか?」
ここで、和服のお姉さん―――アスナさんが会話に入ってきた。
「おっと、待たせて悪かったっす。ほんじゃ次はアスナさん、頼むっす」
「・・・アスナだ。職業は『侍』、レベルは4000だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします。アスナさんの腰のそれは、刀ですか?」
「っ、その通り。ほとんどの人が剣って言うのに、君、良く知ってる。知り合いに侍でもいたかの?」
「いえ、昔本で読んだんです。東洋の国には侍というそれはそれは強い剣士達がいて、彼らの使う武器は片刃の剣、刀だって」
「なるほど、それなら納得」
「でもアスナさんの刀は、他の皆さんの武器と違ってそれほど強い力が宿ってる感じじゃないですね」
「・・・他の人がどうするかは勝手だが、私は武器の力に頼った戦いはしたくない。だから何の変哲もない、普通の刀を使ってる」
「か、かっこいい!」
「え?」
「武器の性能に頼らず、己の力だけで敵と戦うなんて、かっこいいです!」
「・・・ありがとう」
アスナさんはちょっと照れくさそうに笑った。
「ちょっとキール君!あんまりアスナを甘やかさないでね? アスナが拘ってずっと鉄の刀を使い続けるせいで、しょっちゅう刀の研ぎ師の所に行かなくちゃなんないんだから!」
「研ぎの費用だってばかにならないっすからね。せめて自動で治る刀にして欲しいっすよ」
「それじゃ刀が折れた時の反応が鈍る」
「もう!」
少々揉めているようだが、それでも雰囲気は明るい。他のメンバーも「まぁた始まったよ」ぐらいの感じで眺めてる。
・・・この雰囲気、好きだな。
「あ、あの。わ、私、いかせて貰っていいですか?」
「あぁ、よろしく頼むぞ、ソロナ」
「は、はい。私は、ソロナって言います。職業は『賢者』。リーダーと同じ『進化職業』です。レベルは4500になります。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。・・・ソロナさんって、レベルではナンバー2だったんですね」
「へ? どういうことですか?」
「まずソロナさん、あなたエルフですよね? そして強さでいえば、このパーティーで最強ですよね?」
『!!?』
「大いなる鷹」のメンバー全員が驚愕している。
エルフとは、言葉を交わし他と交流を持つことができる種族群「ヒト族」の一種だ。見た目は人間と然程変わらないけど、耳が人間より長く尖っていて、寿命が
1000年もあるらしい。
「ど、どうしてわかったんですか!?」
「ソロナさんの立ち居振舞い。それは歴戦の猛者のものです。それも恐らく100年を超える戦闘経験からくるもの。そして僕が知る限り、100年以上生きてもその若さを保てるのは、エルフだけです」
「・・・凄ぇな。立ち居振舞いだけで年齢までわかるなんて」
「・・・キールさんの言う通り、私はエルフです。今年で150歳になります」
そう言って、ソロナさんはフードを脱ぎ、耳に魔法をかける。するとソロナさんの長く尖った耳が露わになった。
「でも、どうしてエルフだってことを隠してるんですか?」
「君は知らないかもしれないが、人間の権力者には人間以外のヒト族を亜人と呼び、差別している者が大勢いる」
「奴ら、人間至上主義とかいう訳わからんもんを掲げて、ヒト族を人間だけにしようとしてやがるんだ」
「ま、ヒト族って概念は神殿が定めたものだから、人間至上主義は実現しないと思うけどねぇ。あそこには使徒共がいるから、下手に逆らえないし」
人間至上主義。噂には聞いたことがある。主義を掲げる人間の他種族への対応は、まるで奴隷を扱うかのようだって。そういえば、ラスタル王国に他種族は奴隷しかいなかったけど、それも父上が人間至上主義だったからかな?
「・・・種族が違うだけで、何で差別なんかするんだろう? 何で人間が一番だなんて思うんだろう?」
「理由は様々ですが、一番の理由は「人間の弱さ」にあります」
ここで商人さんが話に入ってきた。
「えっと・・・?」
「あぁ失礼。私は商人のマシュロフと申します」
「よろしくお願いします、マシュロフさん。それで「人間の弱さ」って?」
「その前にまず1つ。あなたはどうしても勝てない強敵に出くわした時、どうなさいますか?」
「そいつに勝てるまで力を蓄えて、自分を磨いて、勝てるまで挑みます!」
「やはりそうですか。では、他のヒト族ならどうするでしょうか?」
「え? 同じじゃないんですか?」
「もちろんそういう人もいますが、多くのヒト族は戦いから逃げます」
「え!?」
「あなたのように天賦の努力の才を持つ者は、ヒト族全体で見てもごく少数です。ヒト族で戦闘能力が最も低い人間の場合、他種族より早い段階で壁にぶつかり、投げ出してしまう者が多いのです」
「そう、だったんですか。でも、それと差別に何の関係が?」
「人間には、他種族より突出している点が3つあります。それは数、知恵、そして・・・いざとなったら同族を笑顔で切り捨てる非情です」
「非情・・・」
それは否定できない。盗賊とはいえ、僕も同じ人間を怒りに任せてぶっ飛ばした。まして父上に至っては実の息子を追放してる。
「どうやら、心当たりがあるようですね。それも、あなた自身に」
「・・・はい」
「その非情と知恵が混ざった結果、他種族を差別し、貶すことで、自分達は他種族よりも上だと感じようとする者達が現れました」
「なっ!?」
「現在、人間の権力者の間でその思想は広まりつつあります。人間は数だけは多いですからね。最初は一部の人間の戯言と思っていた他種族も、今では常に人間至上主義を警戒しなければならない状態です。国によっては、既に国として人間至上主義を掲げ、他種族を全員奴隷化してしまったところもあります」
「そんな・・・!!」
「権力は、時に人の心を肥大化させます。心が肥大化した人間はプライドが高くなり、プライドを守る為に非情なことも平気でやるようになるのです」
・・・許せない!力で勝てないからって、権力で不当に貶めて優越感に浸ろうとするなんて・・・!!!
「あ、あの、少々怒りを抑えてもらってもよろしいでしょうか?」
「っ、ごめんなさい!また怒気が漏れてしまって・・・」
感情に任せて、怒気を発してしまっていたようだ。ダメだな。こんな簡単に感情に流されてしまっていたら、いずれ権力者達と同じことをしてしまう。
「キールさん。怒りの感情を持つことは決して悪ではありませんよ。大事なのは如何に感情を制御するか、そして自分の信念を見失わないことです」
マシュロフさんは、まるで僕の心を読んだかのように、僕が欲しかったアドバイスをくれた。
「ありがとうございます、おや―――マシュロフさん」
「遠慮なさらず、おやっさんと呼んで頂いてよろしいですよ」
「大人になったとはいえまだまだ未熟な僕ですが、改めてよろしくお願いします、おやっさん!」
「ハッハッハ。若者を導くことは、年配の務めでございます」
そういって、おやっさんは笑う。まるで本当の父親のようなおやっさんの雰囲気に、僕は心地よさを覚えた。
「そうだ、改めて僕も自己紹介させていただきますね。僕はキールと言います。職業は『魔法鍵士』で、レベルは10000です」
「え?」
「は?」
「・・・あ」
『はぁぁ!? い、10000!?』
しまった。また驚かせてしまった・・・(-_-;)
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
一方その頃、キールがいなくなったラスタル王国で騒動が起きていた。
「お待ちください、カーナ様!」
「待てるか!!キールにあんな仕打ちされて!!」
ラスタル王国の第4王女―――キールの双子の姉であり相棒の、カーナ=フォン=ラスタルが、事前の連絡も無しに王城へ乗り込んできたのだ。
「父上!!」
カーナは謁見の間の扉まで辿り着くと、ノックも無しに思い切り扉を開け放つ。
「なんだ騒々しい。ノックぐらいしたらどうだ」
「ええ、父上の頭になら幾らでも」
「・・・ふんっ」
普通ならば即刻極刑となる暴言だが、王―――ゴルト=フォン=ラスタルは涼しい顔で流した。
「申し訳ありません、陛下!止めたのですが―――」
「良い。それより、カーナ以外の者は皆部屋を出よ」
「はっ!!」
人払いが成され、謁見の間にはカーナとゴルトのみが残された。
「それで、要件はなんだ?」
「決まっているでしょう!? 私の弟、キールを追放したことです!何故弟を国外追放処分にしたのですか!? それも、私のいない間に!」
カーナはキールと同じレベル10000に至っており、キールと同等以上の実力を持っている。そしてカーナはキールと違い、その力の一部を父王に明かしていた。万が一の時に、自身の利用価値を盾にして弟を庇えるように。
(キールを守るためにわざわざ力を明かしたのに、まさか私のいない隙に追放するなんて!)
カーナはその力を買われ、10歳の時点でラスタル王国軍の少佐の1人に任命されていた。今では大将にまで昇格し、ゴルトから勅令を下されることも多い。今回もゴルトからの勅命で、東の国境付近にある魔物の拠点の殲滅に向かっていた。拠点は無事殲滅できたが、それと同じ日に15歳の誕生日を迎えてしまい、急遽近くの神殿にて職業授与の儀式を行う必要に迫られた。1人であったのが幸いして全速力で戻れたものの、結局任務完了から王都への帰還まで1週間も掛かってしまい、戻った時にはキールが追放されていた。
(いざって時に何もできないんじゃ、何のために力を明かしたんだよ!)
カーナは不甲斐なさで一杯だった。
「奴は無能だった。他に理由がいるか?」
「そ、それだけ? 本当にそれだけで!?」
「この国では、戦いに使える才能を持たない者は無能。無能はこの国にいらぬ。ただそれだけのことだ」
「そんな・・・そんな理由で私の弟を追放するなんて!!」
「大体、奴を追放するのに、何故お前ごときを気に掛ける必要がある?」
「―――は?」
カーナは一瞬、ゴルトの言っていることが理解できなかった。
「大将という地位を得て勘違いしているようだが、どこまで行こうともお前はただの庶子。兵器以外の価値などお前には無い」
「・・・!!!」
カーナは絶句する他なかった。
弟と同様、平民の血が混ざっている自分を、父親が疎ましく思っていることは知っていた。それでも実力が評価され、大将という地位を貰い、少しは父親から愛されていると思っていた。だが―――
(所詮私も、父上にとって娘じゃなかった。最初から私には何の力も無かったんだ・・・!私頑張ったのに!大将にまでなったのに!相棒の弟1人守れないなんて・・・!!)
自分の無力さが悔しくて涙が流れそうになるのを必死に堪えているカーナに、ゴルトが再び話しかけてきた。
「ついでにこちらからも1つ聞こう。お前の職業は何だった?」
「私の職業?」
「帰還の途中で神殿に寄ったのだろう? お前はもう職業を持っているはずだ」
(目の前で娘を兵器呼ばわりした直後に、その娘の職業を聞くか普通? どんな神経してんのこの野郎!)
「どうした? 兵器の分際で余の質問に答えないつもりか?」
「・・・『格闘家』です。私が貰った職業は『格闘家』でした」
「普通だな。まあ良い。ギフトはどうだ?」
「ギフトは得られませんでした」
「そうか。キールがダブルギフテッドだった故もしやと思ったが、こればかりは運だからな。わかった、ならば今後は職業の進化を目指せ」
「・・・はい」
「では話は以上だ。下がれ」
「はっ」
そしてカーナは謁見の間を後にし、真っ直ぐ自室を目指す。自室に辿り着いたカーナは独り物思いに更ける。
(前向きに考えよう。父上は私とキールのことを兵器としか見ていない。追放されて正解だった。問題はこの後どうするか。そんなの決まってる!すぐにキールを追いかける!!あいつが向かうとしたら・・・そうだ、あの森だ!あいつなら、とりあえずあの森を目指すはず!その後森を抜けて、それから街を目指そうとして、それから、それから・・・)
カーナは、キールの動きを予測していく。双子で相棒なだけあって、その読みは
100%的中していた。
(・・・よし、見えた!後は今夜中に、この国を脱出するだけ。あ、でも折角だから、あの森でギフトを試してみよう!)
カーナは今夜中に国外へ脱出することを見越して、ギフトを得ていないと嘘をついたのだ。もちろん職業についても、カーナは嘘を付いている。
(父上は兵器として私を必要としてるから、間違いなく追手を放ってくるはず。私の情報はなるべく伏せておくに越したことはない)
カーナは早速荷物を纏めはじめる。といっても、持ち物は必要最低限―――約4日分の飲料を『魔法のポーチ』に詰め込むだけだが。しかしカーナがレベル10000で、キールと違い全速力で移動することを加味すれば、持ち物はこれで十分だ。
(待っててキール!絶対追いつくから!)
カーナはキールへの思いを胸に、国外脱出の準備を進める。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
次の日、ラスタル王国の王城は朝から大騒ぎになっていた。
理由は―――
「申し上げます!!ラスタル王国第4王女にして、王国軍大将の一角、カーナ王女が行方不明になられました!!」
「何だと!?」
カーナが突然行方不明になったからだ。




