9話
塔の最上階――そこは、空に浮かぶ展望台だった。
雲を突き抜けたその場所は、まるで世界の果てのようだった。
足元には、これまで歩んできた塔の層が小さく連なり、遥か下には、記憶の海が広がっている。
空は深い藍色に染まり、星々が静かに瞬いていた。
その中心に、アキモト様が立っていた。
黒い装束に身を包み、背を向けたまま、世界を見下ろしている。
---
仲間たちが展望台にたどり着いたとき、最初に声を上げたのは――夢界だった。
「唯斗……!」
その声に、アキモト様がゆっくりと振り返る。
その瞳は、深い紫に染まっていた。
「……来たか。ここが、終点だ」
「違う! 終点なんかじゃねぇよ!」と夢界が叫ぶ。
彼は、仲間たちの制止を振り切って、アキモト様に駆け寄った。
「お前、覚えてるか? 最初の訓練で、俺が的に当てたの、たった一発だったのに、
“すごいじゃん”って笑ってくれたこと。あれ、めっちゃ嬉しかったんだぞ」
アキモト様の瞳が、わずかに揺れる。
「……夢界……?」
「そうだよ。お前は唯斗だ。アキモト様なんかじゃない。
お前は、俺たちの仲間だろ……!」
夢界が手を伸ばす。
その手が、唯斗の胸に触れた瞬間――
光があふれた。
---
唯斗の中で、何かが崩れた。
記憶の海の底から、声が聞こえる。
笑い声。怒鳴り声。泣き声。
仲間たちと過ごした、あの時間。
――夢界のドジ。
――太郎の無茶。
――有志のまっすぐさ。
――そして、みるいの笑顔。
「……僕は……」
紫の瞳が、ゆっくりと色を失っていく。
黒い装束が、少しずつほつれ、元の制服が覗き始める。
「……僕は、唯斗だ……!」
---
その瞬間だった。
みるいが、そっと夢界の手を取った。
「……ありがとう、夢界くん。でも、それは――してはいけないことなの」
「え……?」
みるいの瞳が、淡く光る。
その手から放たれた魔力が、夢界を弾き飛ばした。
「うわっ――!」
夢界が地面に転がる。仲間たちが駆け寄る。
「みるい……お前、何を……!」と有志が叫ぶ。
みるいは、静かに唯斗の手を取った。
「あなたは、“王”でいなければならないの。
この世界を守れるのは、あなただけだから」
「みるい……やめろ……僕は……!」
「ごめんね。私、あなたを守りたかった。
でも、あなたが“唯斗”でいる限り、この世界は壊れてしまうの」
みるいの魔法陣が展望台を包む。
光が弾け、唯斗の姿が再び黒い装束に包まれていく。
「やめろおおおおおおおおお!!」と夢界が叫ぶ。
だが、間に合わなかった。
アキモト様が、完全に目を覚ました。
「……ありがとう、みるい。君のおかげで、僕は戻れた」
みるいは、微笑んだ。
その目には、涙が浮かんでいた。
---
空が割れた。
塔の外に広がる世界が、ゆっくりと崩れ始める。
「さあ、始めよう。君たちがこの世界を壊すというのなら――
僕は、全力でそれを拒絶する」
アキモト様が剣を抜く。
みるいもまた、杖を構える。
仲間たちは、武器を手に取った。
これは、ただの戦いじゃない。
**信じていた者との、決別の戦い。**
そして、唯斗を取り戻すための――
**最後の戦いだった。**
(続く)




