8話
第四層――“運命の回廊”。
そこは、無数の分かれ道が入り組んだ迷宮だった。
どの道を選んでも、見た目は同じ。壁も床も、すべて灰色の石でできていて、目印になるものは何一つない。
「うわー、これ絶対迷うやつだ……」と有志が頭を抱える。
「地図もないし、千里眼も通じない……」と夢界も苦い顔をしている。
「つまり、ここは……俺の出番か!」
「え、なんで?」と太郎。
「俺、運ないからさ。逆に考えれば、俺が選ばなかった道が正解ってことじゃね?」
「いやいや、それただの逆張りじゃ――」
「じゃあ、信じてみる?俺の“運のなさ”を」
夢界はニヤリと笑い、三つに分かれた道のうち、真ん中を指差した。
「ここは絶対ハズレ。だから、右行こう」
半信半疑ながら、仲間たちは右の道を選んだ。
すると、数歩進んだ先で、床が光り、次のエリアへの扉が現れた。
「……マジで!?」と有志が目を見開く。
「やっぱり、夢界の“運のなさ”って、逆にすごいのかも……」とみるいが笑った。
「ふふん、俺の直感、なめんなよ〜」
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その後も、夢界の“逆選択”によって、次々と正解ルートを引き当てていった。
罠も敵も回避し、ついには安全な休憩所にたどり着いた。
その夜、焚き火の明かりの中で、久々に穏やかな時間が流れていた。
「……なんか、久しぶりに落ち着いたね」とみるいがつぶやく。
「うん。……ありがとう、夢界」と唯斗が微笑んだ。
その笑顔は、あの“冷たい唯斗”ではなかった。
どこか、懐かしい。優しくて、少し照れくさそうな――あの頃の唯斗だった。
「唯斗くん、なんか……戻ってきたみたい」とみるいが小さく言った。
「……うん。なんかね、頭の中が軽くなった気がするんだ。変な声もしないし、記憶も……落ち着いてる」
「よかった……」と、みるいが微笑む。
その夜、皆は久々に安らかな眠りについた。
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だが、夜半。
夢界は、ふと目を覚ました。
――何かが、おかしい。
静かすぎる。風の音も、焚き火のはぜる音も、仲間の寝息さえも、遠く感じる。
そして、気づいた。
「……唯斗が、いない」
夢界はすぐに立ち上がり、周囲を探し始めた。
だが、どこにもいない。荷物も、短剣も、すべてそのまま。
まるで、唯斗だけが“消えた”ようだった。
「みんな、起きて!唯斗が……!」
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その瞬間、迷宮が揺れた。
壁が裂け、黒い霧が吹き出す。
霧の中から現れたのは、異形の魔物たち――塔の守護者たちだった。
「くそっ、罠かよ!」と太郎が銃を構える。
「唯斗を連れていったのは、こいつらか……!」と有志が叫ぶ。
激しい戦闘が始まった。
だが、敵の数は多く、次々と湧いてくる。
「夢界、また頼む!どっちに逃げればいい!?」
「えーと……こっちが正解っぽいけど、俺の運のなさを信じるなら――左だ!」
「よし、左だ!行くぞ!」
夢界の“逆直感”に従い、仲間たちは左の通路へと駆け出した。
すると、霧が晴れ、光の扉が現れる。
「やっぱり……夢界、すげぇな」と有志が笑う。
「へへっ、まあね!」
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扉の先は、静かな回廊だった。
その奥に、巨大な扉がひとつだけ、ぽつんと立っている。
扉が、ゆっくりと開いた。
中は、まるで玉座の間のようだった。
高い天井、赤い絨毯、そして――玉座。
その玉座に、ひとりの少年が座っていた。
黒い装束に身を包み、目を閉じている。
「……唯斗?」
みるいが、震える声で呼びかけた。
その瞬間、少年が目を開けた。
その瞳は、深い紫に染まっていた。
「ようこそ、僕の世界へ」
その声は、もう“唯斗”ではなかった。
(続く)




