7話
第三層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
そこは、まるで音を吸い込むような静寂に包まれていた。
壁も床も天井も、すべてが黒い石でできていて、光を反射しない。
足音さえも吸い込まれていくようで、誰もが無意識に息を潜めていた。
「……ここ、やばいな」と太郎がつぶやく。
彼の手には、いつもの三八式歩兵銃。
けれど、その指先が、わずかに震えていた。
「太郎、どうしたの?」とみるいが声をかける。
「いや……なんでもない。ちょっと、昔を思い出しただけ」
その言葉の裏に、何かがあることは明らかだった。
けれど、誰もそれを深く追及しなかった。今は、前に進むしかない。
---
迷宮は、まるで生きているかのようだった。
進むたびに道が変わり、同じ場所に戻ってきたかと思えば、見たことのない扉が現れる。
そして、ついに――敵が現れた。
それは、黒い鎧に身を包んだ騎士だった。
顔は見えず、ただ無言で剣を構えている。
「よし、俺に任せろ!」と太郎が前に出る。
銃を構え、引き金を引く。
――パンッ!
銃声が迷宮に響く。けれど、騎士は微動だにしなかった。
弾は、鎧に当たった瞬間、まるで霧のように消えてしまった。
「なっ……!?」
「効いてない……!?」と有志が叫ぶ。
騎士が動いた。太郎に向かって一直線に突進してくる。
太郎は咄嗟に後退しながら、連続で発砲する。
けれど、すべての弾が霧のように消えていく。
「くそっ……なんでだよ……!」
そのとき。
「【大地よ。我らを育みしこの大地よ。我に力を貸したまえ。我が名は唯斗。我が力に見とれるがよい。闇より暗い漆黒に、我が爆裂魔法の閃光輝給え……】」
「ちょ、ちょっと待って唯斗!?まだ太郎が――!」
みるいの叫びも虚しく、唯斗の手のひらに巨大な火球が生まれる。
それは瞬く間に成長し、空間を赤く染めた。
「【エクスプローディング・ディスチャージ!】」
火球が放たれた。
轟音とともに、爆炎が迷宮を包み込む。
敵も味方も、すべてを巻き込むような、無慈悲な閃光。
---
しばらくして、煙が晴れた。
黒い騎士は、完全に消滅していた。
だが、仲間たちもまた、地面に倒れ込んでいた。
「げほっ……な、なんだよ、今の……!」と夢界が咳き込みながら立ち上がる。
「爆裂魔法って、あんな範囲広いの!?死ぬかと思った……!」と有志。
みるいは、肩を押さえながら唯斗を見つめていた。
その目には、怒りと困惑が入り混じっていた。
「唯斗くん……どうして、あんな……」
唯斗は、無表情のまま答えた。
「銃が効かないなら、他の手段を使うしかない。合理的な判断だろ?」
「でも、私たちが巻き込まれるかもしれなかったんだよ!?」とみるいが声を荒げる。
「結果的に無事だった。問題ない」
その冷たい言葉に、誰もが言葉を失った。
---
その夜、太郎は一人、銃を手入れしていた。
銃身には、爆風でできた焦げ跡が残っていた。
「……唯斗、お前、何を考えてるんだよ」
その問いに、答える者はいなかった。
ただ、遠くで雷が鳴ったような気がした。
(続く)




