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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
一章 旅立ち
6/50

6話

 塔の第二層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


 先ほどの“記憶の間”とは違い、ここはまるで廃墟のようだった。

 崩れかけた石の柱、ひび割れた床、天井からは黒い蔦のようなものが垂れ下がっている。

 空間全体が、まるで“何か”に蝕まれているような、そんな不気味な気配を放っていた。


「……気をつけろ。ここ、何かおかしい」と夢界が低くつぶやく。


 その言葉に、全員が自然と武器に手をかけた。

 唯斗も、腰の短剣をゆっくりと抜く。

 その動きは、どこか機械的で、感情のこもっていないものに見えた。


「唯斗、大丈夫?」とみるいが声をかける。


「……うん。問題ないよ」


 その声は、確かに唯斗のものだった。

 けれど、どこか冷たく、距離があった。


 進むにつれて、空間はさらに歪んでいった。

 壁に映る影が、こちらを見ているような錯覚。

 聞こえるはずのない声が、耳元でささやく。


 そして、突如として現れたのは――


「……え?」


 目の前に立っていたのは、**金子太郎**だった。

 いや、正確には、“金子太郎にそっくりな何か”。


「おいおい、俺が二人いるってどういうことだよ!」と本物の太郎が叫ぶ。


 次の瞬間、偽の太郎が銃を構え、発砲した。

 弾丸は本物の太郎の肩をかすめ、火花を散らす。


「くっ……!」


「分身か!?いや、違う……これは、偽物だ!」と有志が叫ぶ。


 偽の太郎だけじゃなかった。

 次々と現れる“偽の仲間たち”。

 夢界、みるい――全員の“コピー”が現れ、こちらに襲いかかってくる。


「な、なんだよこれ……!」と夢界が叫ぶ。


「この層は、“絆”を試す場所なんだ」と夢界が言った。「本物と偽物を見分けられなければ、仲間を傷つけることになる」


 その言葉に、全員が一瞬、動きを止めた。

 誰が本物で、誰が偽物か――判断を誤れば、取り返しのつかないことになる。


 そのとき、唯斗が動いた。


「……無駄だよ。全部、斬ればいい」


 そう言って、目の前の“偽・みるい”に向かって短剣を突き出した。

 刃は迷いなく、喉元を貫いた。


 ――が、倒れたのは、“本物の”みるいだった。


「……っ!!」


 血が、床に広がる。

 みるいは、苦しそうに息を吐きながら、唯斗を見上げた。


「……ど、どうして……?」


 唯斗は、無表情のまま立ち尽くしていた。

 その目は、どこか遠くを見ているようで――まるで、現実を見ていないかのようだった。


「唯斗!!」と有志が叫び、彼を突き飛ばした。


「なにやってんだよ!お前、何考えて――!」


 そのとき、みるいの体が光に包まれ、ふっと消えた。

 どうやら、この層での“死”は現実の死ではないらしい。

 けれど、全員の心に、深い傷を残した。


「……ごめん」と唯斗がつぶやいた。


 その声は、どこか他人事のようだった。


---


 戦いの末、なんとか偽物たちを倒し、第二層を突破した。

 けれど、空気は重く、誰も口を開こうとしなかった。


 みるいは、復活していた。けれど、唯斗の顔を見ようとしなかった。

 夢界は、ずっと黙ったまま、何かを考えているようだった。


 その夜、塔の中の休憩所で、夢界が唯斗に話しかけた。


「……お前、何か、変だぞ」


「何が?」


「さっきの戦い。お前、みるいを斬ったとき、迷いがなかった。……あれは、唯斗じゃない」


 唯斗は、しばらく黙っていた。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「……僕は、僕だよ。何も変わってない」


 その言葉には、確かに“唯斗の声”があった。

 けれど、夢界は目を細めて言った。


「……俺の能力、“記憶の重なり”を視ることができるんだ。お前の中に、もう一人いる。……“アキモト様”が」


 その瞬間、唯斗の目が一瞬だけ、紫に光った。


「……そうか。君には、見えるんだね」


 その声は、確かに唯斗の声だった。

 けれど、そこに宿っていたのは――別の誰かの意志だった。


(続く)

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