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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
間章 インタールード
43/50

月の見える夜に⑥ 夢のかけら


「……眠くなってきたね」


瑠衣が、草の上で目をこすりながら言った。

塔のふもとは、夜の静けさに包まれていて、

風の音と草のささやきが、子守唄のように耳に届いていた。


「ここで寝たら、風邪ひくかな」


「……でも、ちょっとだけなら」


「うん。

 ちょっとだけ、目を閉じようか」


ふたりは、手をつないだまま、

草の上に身を預けた。


月明かりが、まぶたの裏にやさしく差し込んでくる。

その光に導かれるように、

ふたりは、静かに夢の中へと沈んでいった。


---


夢の中で、唯斗はひとり、見知らぬ場所に立っていた。

そこは、塔の中のようでいて、塔ではなかった。

壁も床も、どこか曖昧で、

空気は水のように重たかった。


「……ここは……?」


声が、響かない。

でも、自分の声は確かに出ていた。


足元には、無数の“かけら”が散らばっていた。

それは、ガラスのように透き通っていて、

ひとつひとつに、微かな光が宿っていた。


唯斗は、ひとつのかけらを拾い上げた。

すると、目の前に、映像が浮かび上がった。


――瑠衣が、笑っている。

  校庭の隅で、風に髪を揺らしながら、

  こちらに手を振っている。


「……これ、記憶?」


唯斗は、別のかけらを拾った。

今度は、自分が泣いている映像だった。

誰かの名前を呼んでいる。

でも、その声は、途中でかき消されてしまった。


「……なんだよ、これ……」


そのとき、背後から足音が聞こえた。


振り返ると、そこに瑠衣が立っていた。

夢の中でも、彼女は彼女のままだった。


「……唯斗?」


「瑠衣……? 君も、ここに?」


「うん。

 気づいたら、ここにいた。

 あなたの声が聞こえた気がして」


ふたりは、顔を見合わせた。

夢の中なのに、手を伸ばせば触れられそうだった。


「……ここ、どこだろうね」


「わからない。

 でも、たぶん――

 塔の中、じゃない気がする」


「うん。

 なんか、もっと……

 “外側”って感じがする」


ふたりは、足元のかけらを見つめた。

それは、まるで記憶の断片のように、

静かに光を放っていた。


「……これ、誰の記憶なんだろう」


「私たちの、じゃないよね。

 見たことない風景ばっかり」


「でも、どこか懐かしい気がする。

 ……なんでだろう」


ふたりは、ひとつのかけらを同時に拾い上げた。

その瞬間、景色が変わった。


---


そこは、見知らぬ教室だった。

窓の外には、塔が見えなかった。

代わりに、広い海が広がっていた。


教室の中には、誰もいなかった。

でも、机の上に、開かれたノートが置かれていた。


唯斗が近づいて、ページをめくる。

そこには、見覚えのない文字が並んでいた。


**『記録守:第二綴』**


「……第二?」


「夢界のノートは、“継続中”だったよね」


「うん。

 じゃあ、これは……別の記録守の?」


そのとき、教室の奥から、

誰かの気配がした。


ふたりは、そっと振り返った。

でも、そこには誰もいなかった。


ただ、風が吹き抜けて、

ノートのページが一枚、めくられた。


そこには、たったひとことだけ、こう書かれていた。


**『まだ、終わっていない』**


---


ふたりは、同時に目を覚ました。


夜はまだ深く、

塔は変わらず、静かにそびえていた。


「……夢、見た?」


「うん。

 君と、同じ夢だった気がする」


「教室にいたよね。

 海が見える場所で、

 ノートがあって……」


「“第二綴”って書いてあった」


「……やっぱり、同じだ」


ふたりは、顔を見合わせた。

その目には、驚きと、少しの不安、

そして、確かな“気配”が宿っていた。


「……塔、やっぱり、

 まだ眠ってないのかも」


「うん。

 それに、あの言葉……

 “まだ、終わっていない”って」


「……でも、今はまだ、

 この夜を忘れたくない」


「うん。

 しずく花の夜を、ちゃんと覚えていたい」


ふたりは、もう一度手をつないだ。

その手のぬくもりが、

夢の中の不確かさを、少しだけ遠ざけてくれた。


塔は、静かにそびえていた。

でも、その先端が、

ほんのわずかに、光を帯びているように見えた。



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