月の見える夜に⑤ しずく花の夜
塔のふもとに、ふたりは並んで座っていた。
草の上に寝転がると、夜空がぐっと近づいてくる。
星が、まるで息をしているみたいに瞬いていた。
「……ねえ、唯斗」
「ん?」
「こうしてると、
なんか、夢みたいだね」
「夢……か。
でも、これは現実だよ。
ちゃんと、君の声が聞こえるし、
草の匂いもするし」
「うん、そうだね。
でも、夢みたいに静かで、
ふわふわしてる」
瑠衣は、寝転がったまま、
しずく花にそっと指を伸ばした。
触れないように、でも近くにいたいように。
「……この花、咲いててよかったな」
「うん。
なんか、君みたいだな」
「え?」
「静かで、でもちゃんと光ってて、
そばにいると、落ち着くっていうか……」
瑠衣は、ふっと笑った。
その笑みは、どこか照れくさそうで、でもうれしそうだった。
「……付き合ってるのに、
そういうこと言われると、
なんか、ドキドキするね」
「俺も。
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった」
「でも、うれしいよ。
ありがとう」
ふたりは、草の上で手をつないだ。
その手は、もう何度も重ねたはずなのに、
今夜はなぜか、少しだけ新鮮だった。
「……ねえ、唯斗」
「うん?」
「私たちって、
ちゃんと“恋人”っぽく見えてるのかな」
「え?」
「いや、なんかさ、
私たちって、あんまり人前でベタベタしないし、
ふたりでいても、静かにしてること多いし……
“本当に付き合ってるの?”って思われてそうだなって」
唯斗は、少し考えてから言った。
「……でも、それでいいんじゃない?
俺たちがちゃんとわかってれば」
「……そっか。
うん、そうだね」
「それに、俺は好きだよ。
君といると、静かで、落ち着くし。
言葉がなくても、ちゃんと伝わる感じがする」
「……私も。
でも、たまには、
ちゃんと“好き”って言ってほしいな」
唯斗は、少しだけ驚いた顔をして、
それから、ゆっくりと瑠衣の手を握り直した。
「……好きだよ、瑠衣」
「……うん。
私も、好きだよ」
ふたりは、草の上で手をつないだまま、
しずく花の白さを見つめていた。
塔は、静かにそびえていた。
でも、その足元には、
確かに“今”が咲いていた。




