4話
洞窟を抜けた瞬間、僕たちは言葉を失った。
そこには、まるで別世界のような風景が広がっていた。
夕陽が地平線に沈みかけ、空は茜と紫のグラデーションに染まっている。風に揺れる草原は金色に輝き、遠くには一本の白銀の塔が、空を貫くようにそびえ立っていた。
塔の周囲には、ふわふわと浮かぶ小島のようなものがいくつも漂っていて、まるで空そのものが海になったかのようだった。
その幻想的な光景に、誰もがしばらく言葉を失っていた。
「……すごい」
ぽつりと漏れた声は、風に溶けていった。たぶん、僕の声だった。
「ここ、どこなんだろうな……」と有志がつぶやく。
「セカナチアの北にある“浮遊原野”かも」と夢界が答える。「でも、こんなに綺麗だったっけ……?」
そのとき、隣にいた魅琉生が、静かに言った。
「……やっぱり、似てる」
「え?」
「アキモト様に……やっぱり、似てる。声も、目も、雰囲気も……でも、違う。あなたは“唯斗”なんですよね?」
僕は頷いた。けれど、心の奥に、何かが引っかかっていた。
みるいの言葉が、頭の中で何度も反響する。
“アキモト様”――それは、僕の“別の姿”なのか?
それとも、まったく別の誰かで、たまたま似ているだけなのか?
「その“アキモト様”って、どんな人だったの?」と僕は聞いた。
みるいは少し考えてから、ぽつぽつと話し始めた。
「……優しくて、でも、どこか寂しそうな人でした。いつも仲間のことを一番に考えて、自分のことは後回しにして……。でも、最後の戦いで、私をかばって……」
そこまで言うと、みるいは言葉を詰まらせた。
僕は何も言えず、ただ風に揺れる草の音を聞いていた。
そのときだった。
――ゴォォォォン……
空気を震わせるような、重く低い鐘の音が響いた。
塔の方角からだ。
「……あれ、聞こえた?」と太郎が言う。
「うん……なんか、呼ばれてるみたいだ」と夢界。
僕たちは、無言で顔を見合わせた。
そして、自然と足が塔の方へ向かっていた。
草原を歩くたびに、足元の草がさわさわと音を立てる。
空は次第に夜の帳を下ろし、星がひとつ、またひとつと瞬き始める。
途中、小さな池のほとりで休憩を取った。水面には、空の星々が映り込んでいて、まるで空と地上がつながっているようだった。
「ねえ、唯斗」と有志が言った。「さっきの爆裂魔法、すごかったな」
「え、ああ……ありがとう」
「でもさ、あれ、どこで覚えたの?」
「……わからない。気づいたら、頭の中に浮かんでた。詠唱も、構えも、全部……」
自分でも不思議だった。まるで、誰かの記憶が流れ込んできたような感覚。
それが“アキモト様”のものなのか、それとも別の何かなのかは、まだわからない。
再び歩き出すと、塔がどんどん近づいてくる。
その姿は、近づくほどに異様だった。塔の表面には、無数の文字のようなものが刻まれていて、それが淡く光っている。まるで、塔そのものが“生きている”かのようだった。
そして、塔の前に立ったとき――
塔の扉が、音もなく、ゆっくりと開いた。
中からは、冷たい風が吹き出してきた。
その風には、どこか懐かしい匂いが混じっていた。
それは、僕がまだ“唯斗”になる前――“アキモト様”だった頃の記憶を、そっと呼び起こすような匂いだった。
「……行こう」
僕は、短くそう言って、塔の中へと足を踏み入れた。
(続く)




