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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
一章 旅立ち
4/50

4話


 洞窟を抜けた瞬間、僕たちは言葉を失った。


 そこには、まるで別世界のような風景が広がっていた。

 夕陽が地平線に沈みかけ、空は茜と紫のグラデーションに染まっている。風に揺れる草原は金色に輝き、遠くには一本の白銀の塔が、空を貫くようにそびえ立っていた。


 塔の周囲には、ふわふわと浮かぶ小島のようなものがいくつも漂っていて、まるで空そのものが海になったかのようだった。

 その幻想的な光景に、誰もがしばらく言葉を失っていた。


「……すごい」

 ぽつりと漏れた声は、風に溶けていった。たぶん、僕の声だった。


「ここ、どこなんだろうな……」と有志がつぶやく。


「セカナチアの北にある“浮遊原野”かも」と夢界が答える。「でも、こんなに綺麗だったっけ……?」


 そのとき、隣にいた魅琉生が、静かに言った。


「……やっぱり、似てる」


「え?」


「アキモト様に……やっぱり、似てる。声も、目も、雰囲気も……でも、違う。あなたは“唯斗”なんですよね?」


 僕は頷いた。けれど、心の奥に、何かが引っかかっていた。

 みるいの言葉が、頭の中で何度も反響する。


 “アキモト様”――それは、僕の“別の姿”なのか?

 それとも、まったく別の誰かで、たまたま似ているだけなのか?


「その“アキモト様”って、どんな人だったの?」と僕は聞いた。


 みるいは少し考えてから、ぽつぽつと話し始めた。


「……優しくて、でも、どこか寂しそうな人でした。いつも仲間のことを一番に考えて、自分のことは後回しにして……。でも、最後の戦いで、私をかばって……」


 そこまで言うと、みるいは言葉を詰まらせた。

 僕は何も言えず、ただ風に揺れる草の音を聞いていた。


 そのときだった。


 ――ゴォォォォン……


 空気を震わせるような、重く低い鐘の音が響いた。

 塔の方角からだ。


「……あれ、聞こえた?」と太郎が言う。


「うん……なんか、呼ばれてるみたいだ」と夢界。


 僕たちは、無言で顔を見合わせた。

 そして、自然と足が塔の方へ向かっていた。


 草原を歩くたびに、足元の草がさわさわと音を立てる。

 空は次第に夜の帳を下ろし、星がひとつ、またひとつと瞬き始める。


 途中、小さな池のほとりで休憩を取った。水面には、空の星々が映り込んでいて、まるで空と地上がつながっているようだった。


「ねえ、唯斗」と有志が言った。「さっきの爆裂魔法、すごかったな」


「え、ああ……ありがとう」


「でもさ、あれ、どこで覚えたの?」


「……わからない。気づいたら、頭の中に浮かんでた。詠唱も、構えも、全部……」


 自分でも不思議だった。まるで、誰かの記憶が流れ込んできたような感覚。

 それが“アキモト様”のものなのか、それとも別の何かなのかは、まだわからない。


 再び歩き出すと、塔がどんどん近づいてくる。

 その姿は、近づくほどに異様だった。塔の表面には、無数の文字のようなものが刻まれていて、それが淡く光っている。まるで、塔そのものが“生きている”かのようだった。


 そして、塔の前に立ったとき――


 塔の扉が、音もなく、ゆっくりと開いた。


 中からは、冷たい風が吹き出してきた。

 その風には、どこか懐かしい匂いが混じっていた。

 それは、僕がまだ“唯斗”になる前――“アキモト様”だった頃の記憶を、そっと呼び起こすような匂いだった。


「……行こう」


 僕は、短くそう言って、塔の中へと足を踏み入れた。


(続く)

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