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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
間章 インタールード
37/50

微笑


午後三時。

夢界は、街の外れにある古い商店街を歩いていた。


シャッターの閉まった店が並ぶ通り。

風が吹くたびに、どこかの風鈴が鳴る。

人の気配は少ないけれど、

この場所には、**記憶の残り香**がたくさん漂っていた。


夢界は、ノートを開いた。

『記録守:継続中』

そのページには、今日の観察が書き込まれていく。


**『午後3時12分。

 商店街の角、花屋の前。

 誰もいないのに、花の香りが強く残っている。

 記憶の残響か。

 “誰かがここで待っていた”気配。』**


夢界は立ち止まり、花屋の前にしゃがみ込んだ。

ショーウィンドウの中には、枯れかけたカスミソウの花束。

その前に、小さな紙切れが落ちていた。


拾い上げると、そこにはこう書かれていた。


**「また、来年もここで」**


「……なるほど。

 約束の記憶か」


夢界は、ノートにその言葉を写し取った。

そして、そっと紙を元の場所に戻した。


(誰の記憶かは、わからない)

(でも、たしかに“あった”ものだ)


彼は、記憶を“解決”しようとは思っていない。

ただ、**残すこと**が大事だと思っている。


忘れられたもの。

気づかれなかった想い。

名前のない感情。

そういうものを、ただ静かに記録していく。


それが、自分の役目だと思っている。


---


商店街を抜けた先に、小さな公園があった。

ブランコがひとつ、風に揺れている。


夢界はベンチに腰を下ろし、

ノートを膝に置いたまま、空を見上げた。


塔が、遠くに見える。

今日も変わらず、黙ってそびえている。


「……なあ、塔。

 お前は、全部見てるんだろ?」


風が、ページをめくる。

ノートの中の文字が、かすかに揺れた。


「俺は、誰かの記憶を守るためにここにいる。

 でも、たまに思うんだ。

 俺自身の記憶は、誰が守ってくれるんだろうって」


塔は、何も答えない。

ただ、影を落とすだけ。


夢界は、ふっと笑った。


「……まあ、いいか。

 俺が覚えてるなら、それで十分だよな」


彼はノートを閉じ、立ち上がった。


「さて、そろそろ戻るか。

 ふたりに、今日の“発見”を話してやらないとな」


風が、彼の背中を押した。

夢界は、ゆっくりと歩き出す。


その背中は、

誰かの記憶を背負いながらも、

どこか軽やかだった。


(終わり)

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