表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
間章 インタールード
35/50

日常


春の午後。

校舎の裏手にある、誰も来ない小さな中庭。

桜の花びらが、風に乗って舞っていた。


夢界は、ベンチに寝転がって空を見ていた。

制服の上着を枕にして、ノートを胸に乗せて。

その横に、唯斗と瑠衣が並んで座っている。


「……なあ、最近、塔の夢見た?」


唯斗がぽつりと聞いた。


「いや、見てないな。

 あれ以来、ずっと静かだ。

 まるで、眠ってるみたいに」


夢界が目を細めて、空を見上げた。

雲がゆっくりと流れていく。

その向こうに、塔の先端が、かすかに覗いていた。


「でも、あれがあるだけで、

 なんか、世界が“仮”みたいに感じるよな」


「うん……。

 いつまた、何かが起きてもおかしくないって思っちゃう」


瑠衣が、スカートの裾を押さえながら、

舞い落ちる花びらを見つめていた。


「でも、今は静かだ。

 それって、すごく貴重なことだと思う」


夢界が、ノートを開いた。

そこには、今日の記録が書かれていた。


**『2026年4月12日。

 昼下がりの中庭。

 風は穏やかで、桜はまだ散りきらない。

 唯斗はあくびをして、瑠衣は花びらを追っている。

 俺は、空を見ている。

 塔は、今日も黙っている。』**


「……なんか、詩人みたいだな」


唯斗が笑うと、夢界は肩をすくめた。


「詩人じゃないさ。

 ただの“記録守”だよ。

 でも、こうして書いておかないと、

 また何かに飲まれて、忘れちまいそうでさ」


「忘れたくないんだね」


「うん。

 忘れたくない。

 この時間も、

 この空気も、

 この距離感も」


瑠衣が、そっと目を閉じた。


「……私も。

 今が、すごく大事だって思う。

 だから、ちゃんと覚えていたい」


唯斗は、ふたりの顔を見て、

少しだけ照れたように笑った。


「じゃあ、俺も書こうかな。

 記録、ってやつ」


「お、いいね。

 じゃあ、ページを分けてやるよ。

 “唯斗のページ”ってタイトルつけとく」


「やめろ、恥ずかしいだろ」


「“唯斗の観察記録”でもいいけど?」


「もっとやめろ!」


三人の笑い声が、風に乗って広がっていく。


塔は、遠くにそびえていた。

その影は、まだ世界に落ちている。

でも、今日の空は、どこまでも青かった。


(終わり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ