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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
二章 ムカイヒュージョン
33/50

19話


春の風が、教室のカーテンを揺らしていた。

唯斗は、窓際の席から外を見ていた。


遠くの丘の上に、**あの塔**が見える。


黒く、細く、空へと伸びる影。

まるで、空の奥に何かを繋ぎ止めているように、

静かに、そこに立っていた。


「……まだ、あるんだな」


唯斗が呟くと、隣の席の瑠衣が頷いた。


「うん。

 誰も気にしてないみたいだけどね。

 あんなに目立つのに」


「不思議だよな。

 あれが見えてるの、俺たちだけなんじゃないかって思う」


「でも、見えてるよ。

 ちゃんと、ここにある。

 私たちの記憶みたいに」


唯斗は、瑠衣の横顔を見た。

その瞳は、あの夜のままだった。

迷いを越えて、今を選んだ人の目。


「……なあ、あの塔ってさ、

 なんで残ったんだと思う?」


「きっと、記憶って、

 “消す”ものじゃなくて、

 “残す”ものだからじゃないかな」


瑠衣の言葉に、唯斗は静かに頷いた。


---


昼休み。

屋上に上がると、夢界が先に来ていた。

風に吹かれながら、ノートをめくっている。


「よう、来たな。

 今日も、塔は元気にそびえてるぜ」


「……あれがあるだけで、

 世界がちょっと違って見えるよな」


「まあな。

 でも、悪くない。

 “忘れない”って、そういうことだろ?」


夢界が、ノートの表紙を見せる。

そこには、こう書かれていた。


**『記録守:継続中』**


「俺たちの物語は、まだ終わってない。

 塔がある限り、

 記憶は、ここに残り続ける」


「じゃあ、次のページには……」


唯斗が、ペンを手に取る。

そして、ゆっくりと書き始めた。


**『2026年 春。

 塔は崩れなかった。

 記憶は、世界に残った。

 だから、俺たちは今日も、

 この“今”を生きている。』**


「……いいね、それ」


瑠衣が、風に髪をなびかせながら微笑んだ。


「ねえ、また夢で会えるかな」


「会えるさ。

 だって、あれは夢じゃない。

 記憶だろ?」


「うん。

 じゃあ、またあの草原で」


三人は、塔の方角を見た。


黒い塔は、静かに空を貫いていた。

誰も気に留めないその存在が、

三人にとっては、確かな“証”だった。


そのとき、風が変わった。


塔の先端に、わずかに光が灯ったように見えた。

それは、誰にも気づかれないほど小さな変化。

けれど、三人は確かに感じていた。


「……動いてる?」


「いや、まだ……でも、何かが……」


「……また、始まるのかもね」


三人は、言葉を交わさずに頷いた。


塔は、まだそこにある。

記憶は、まだすべて戻ったわけじゃない。

そして、“奴等”が完全に消えたという保証もない。


でも、もう怖くはなかった。


三人は、記憶を抱きしめて、

今を選び、これからを歩いていく。


塔がある限り、

物語は、まだ終わらない。



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