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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
二章 ムカイヒュージョン
32/50

18話


塔の最深部は、静かだった。


音がない。

色もない。

ただ、灰色の空間が広がっていた。


唯斗、瑠衣、夢界の三人は、

その中心に立っていた。


「……ここが、“奴等”の核……」


夢界が呟く。

“残響視”が、空間全体に反応していた。

まるで、ここそのものが“記憶の空白”でできているかのように。


「……何もないのに、

 全部が吸い込まれそうな感じがする」


瑠衣が、羽衣を握りしめる。

その光が、かすかに揺れていた。


「気をつけろ。

 ここは、“思い出せないもの”が集まる場所だ。

 名前も、顔も、想いも――

 すべてが、ここで消えていく」


夢界の言葉に、唯斗が剣を構える。


「でも、俺たちは思い出した。

 だから、負けない」


そのときだった。


空間の中心に、**“それ”**が現れた。


黒い球体。

まるで、光を吸い込むような闇。

その表面には、無数の“記憶の断片”が浮かんでは消えていた。


笑顔。

涙。

名前。

声。

手のぬくもり。

交わした約束。

言えなかった言葉。


それらが、次々と現れては、

黒い闇に飲み込まれていく。


「……あれが、“忘却の核”」


夢界が、ノートを開く。

ページが、勝手にめくれた。


**『忘却の核:記憶の最終処理装置。

 存在の輪郭を消し、世界から“なかったこと”にする力を持つ。

 記憶を取り戻した者にのみ、対抗手段がある』**


「……つまり、今の俺たちなら、戦えるってことだな」


唯斗が、剣を構え直す。

その刃が、蒼く光る。


「でも、油断はできない。

 あれは、“思い出せないもの”の集合体。

 近づくだけで、記憶が削られる」


「だったら、私たちの記憶で、

 あれを上書きするしかない」


瑠衣が、羽衣を広げた。

その光が、空間に広がっていく。


「行こう。

 私たちの記憶で、

 この世界を取り戻す!」


三人は、同時に駆け出した。


---


忘却の核が、反応する。

黒い触手のような影が、空間を裂いて襲いかかる。


唯斗が、剣でそれを斬る。

刃が、記憶の光を放ちながら、影を断ち切る。


「瑠衣、右から来る!」


「任せて!」


瑠衣が、羽衣を振るう。

その光が、影を浄化するように包み込む。


夢界が、ノートを開く。

ページが光り、空間に“記憶の陣”が展開される。


「今だ、唯斗!」


「うおおおおっ!」


唯斗が、核に向かって突き進む。

剣を振り上げ、渾身の一撃を放つ。


だが――


刃が、止まった。


「……っ、動かない……!」


核が、唯斗の記憶を逆流させていた。

頭の中に、過去の後悔が流れ込んでくる。


(守れなかった)

(言えなかった)

(選べなかった)


「唯斗!」


瑠衣が、彼の手を取る。

その瞬間、記憶の光がふたりを包む。


「あなたは、もう迷ってない。

 私は、知ってる。

 だから、進んで!」


唯斗の目に、光が戻る。


「……ありがとう、瑠衣」


再び、剣を振るう。

今度は、刃が核に届いた。


黒い表面が、裂ける。

中から、無数の“声”が溢れ出す。


「……やめて……」

「……忘れないで……」

「……ここにいたのに……」

「……名前を呼んで……」


それは、消された人々の声だった。


「……みんな、まだ……!」


夢界が、ノートを開く。

ページが、ひとりでにめくれる。


**『記憶の再構築:

 失われた記憶を、想いの力で呼び戻す。

 ただし、代償として“自我の一部”を失う可能性あり』**


「……やるしかねぇな」


夢界は、ノートに手をかざす。

その瞬間、彼の記憶が、空間に放たれた。


唯斗と瑠衣との日々。

笑い合った放課後。

すれ違った言葉。

交わした約束。

守れなかった想い。


それらが、光となって空間を満たしていく。


「……夢界……!」


「大丈夫。

 俺は、もう迷わない。

 俺の記憶で、

 この世界を塗り替えてやる!」


核が、悲鳴のような音を上げる。

その表面が、崩れ始める。


唯斗と瑠衣も、記憶を放つ。


「俺は、瑠衣と出会って、

 変われた。

 だから、この記憶は、絶対に消させない!」


「私は、唯斗と夢界と出会って、

 “今”を選べた。

 だから、この想いは、絶対に守る!」


三人の記憶が、ひとつに重なる。


その光が、核を貫いた。


---


静寂が、訪れた。


黒い核は、崩れ、

空間が、ゆっくりと色を取り戻していく。


空が、青くなる。

風が吹く。

遠くで、誰かの笑い声が聞こえる。


唯斗、瑠衣、夢界は、

静かにその場に立っていた。


「……終わったのか?」


「うん。

 でも、これは“始まり”でもある」


「記憶は、消えない。

 でも、忘れることはある。

 だから、思い出し続けるんだ。

 何度でも」


三人は、塔の外へと歩き出した。


そこには、変わってしまった世界があった。

でも、それは――

**三人が選び取った“今”だった。**


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