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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
二章 ムカイヒュージョン
31/50

17話


霧が、静かに夢界を包み込んでいく。

唯斗と瑠衣の姿が、遠ざかっていく。

音が消え、色が薄れ、

世界が、灰色の静寂に沈んでいく。


夢界は、ひとりになった。


「……さてと」


彼は、ポケットからノートを取り出した。

『残響記録』――

自分が見てきた記憶の断片を、

誰にも見せずに書き留めてきたもの。


そのページが、勝手にめくれ始める。

風もないのに、まるで誰かの手が触れているように。


そして、止まった。


そこには、こう書かれていた。


**『支えることしかできなかった自分』**


「……やっぱ、来るよな」


夢界は、ゆっくりと顔を上げた。


霧の奥から、もうひとりの“夢界”が現れた。


けれど、その姿は――

あまりにも静かだった。


制服のまま、手ぶらで立っている。

表情は、何もない。

目は、どこも見ていない。


「……お前、誰だよ」


夢界が問う。

影の夢界は、答えない。

ただ、ぽつりと呟いた。


「……俺は、誰でもない。

 誰にも見られなかった、

 誰にも気づかれなかった、

 “お前のままの俺”だ」


「……は?」


「唯斗の隣で、

 瑠衣の背中を見て、

 いつも笑って、

 いつも軽くて、

 でも、何も言えなかった。

 何も、届かなかった。

 それが、俺だ」


夢界は、言葉を失った。


影の夢界は、ゆっくりと歩き出す。

その足音は、まるで心臓の鼓動のように響いた。


「お前は、支えることしかできなかった。

 ふたりの間に立って、

 空気を読んで、

 気配を消して、

 それで満足したふりをしてた」


「……違う。

 俺は、ふたりのことが――」


「好きだった。

 でも、言えなかった。

 言ったら、壊れる気がした。

 だから、黙ってた。

 だから、何も変えられなかった」


夢界は、拳を握った。


「……それが、悪いのかよ」


「悪くない。

 でも、それは“選ばなかった”ってことだ。

 お前は、選ばなかった。

 だから、今も“脇役”のままだ」


影の夢界が、手を伸ばす。

その指先が、夢界の胸に触れた瞬間――


記憶が、溢れた。


---


放課後の教室。

唯斗と瑠衣が、窓際で話している。

夢界は、少し離れた席で、

笑いながらそれを見ている。


でも、心の奥では――

何かが、静かに崩れていた。


(……俺は、ここでいい)

(ふたりが笑ってるなら、それでいい)

(俺は、支える側でいい)


そう思い込もうとしていた。

でも、本当は――


(俺も、誰かに見てほしかった)

(俺も、誰かに必要とされたかった)

(俺も――選ばれたかった)


---


「……それが、俺の本音か」


夢界は、ゆっくりと目を開けた。

影の夢界が、目の前に立っていた。

その目には、何の色もなかった。


「……お前の言う通りだよ。

 俺は、選ばなかった。

 怖かったから。

 壊れるのが、怖かったから。

 だから、支えることしかできなかった」


影は、何も言わない。

ただ、じっと見つめている。


「でもな――

 それでも、俺はここにいる。

 ふたりの隣に、今も立ってる。

 それは、俺が“選ばなかった”ままじゃないってことだ」


夢界は、ノートを閉じた。

その手に、光が集まる。


「俺は、もう“支えるだけの存在”じゃない。

 俺は、ふたりと一緒に、

 この世界を守るために戦う。

 それが、俺の選んだ道だ!」


光が、夢界の体を包む。

その目に浮かぶ紋章が、深く輝いた。


影の夢界が、初めて表情を変えた。

その目に、わずかに色が戻る。


「……なら、託すよ。

 “俺”のすべてを」


影が、光に変わって消えていく。

その光が、夢界の胸に吸い込まれていく。


「……ありがとう。

 俺の中にいてくれて」


夢界は、静かに呟いた。


---


霧が晴れていく。

唯斗と瑠衣の姿が、戻ってくる。


「夢界……!」


「大丈夫?」


夢界は、ふたりに笑いかけた。

それは、いつもの軽い笑顔じゃなかった。

ちゃんと、心からの笑顔だった。


「……お待たせ。

 俺も、ちゃんと戻ってきたよ」


唯斗と瑠衣が、頷く。


「これで、三人そろったね」


「うん。

 ここからが、本当の戦いだ」


三人は、並んで立った。

塔の奥から、黒い風が吹いてくる。

“奴等”の本体が、目を覚まそうとしていた。


でも、もう迷いはない。


唯斗は、剣を構えた。

瑠衣は、羽衣を広げた。

夢界は、ノートを開いた。


「行こう。

 この世界を、

 そして、俺たち自身を――守るために」


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