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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
二章 ムカイヒュージョン
29/50

15話


塔の第二層に足を踏み入れた瞬間、

空気が変わった。


重く、粘つくような気配。

まるで、誰かの感情がそのまま空間になったような、

そんな圧迫感が、三人の胸を締めつけた。


「……ここ、嫌な感じがする」


瑠衣が、羽衣を握りしめる。

その光が、わずかに揺れていた。


「記憶の歪みが、近い。

 俺たちの中にある“未整理の想い”が、

 ここで形になる」


夢界の目が、淡く光る。

“残響視”が、空間の奥に潜む気配を捉えていた。


唯斗は、剣を構えた。

その刃が、微かに震えている。


「……来るぞ」


霧が、裂けた。


そこに現れたのは――

**もうひとりの唯斗だった。**


けれど、その顔は、

どこか歪んでいた。

目は虚ろで、口元は引きつり、

手にした剣は、血のような黒に染まっていた。


「……俺……?」


「違う。

 それは、“お前の影”だ。

 過去の記憶が歪んで、

 “奴等”に喰われて、

 お前の姿を借りて現れた」


夢界の声が、低く響く。


「お前は、誰だ」


唯斗が問う。

影の唯斗は、ゆっくりと顔を上げた。


「俺は、お前だよ。

 あのとき、瑠衣を守れなかった、

 弱くて、臆病で、

 何もできなかった、お前だ」


その声は、唯斗自身の声だった。

けれど、そこに込められた感情は、

怒りでも悲しみでもなく――

**絶望**だった。


「お前は、また繰り返す。

 また、大切なものを守れずに、

 ただ立ち尽くすだけだ」


「……違う」


唯斗は、剣を握りしめた。


「たしかに、俺は弱かった。

 あのとき、何もできなかった。

 でも――

 今は違う。

 俺は、あの記憶を忘れない。

 だからこそ、前に進める」


影の唯斗が、剣を構えた。

その刃が、黒い霧をまとう。


「なら、証明してみろよ。

 お前が、“過去”を超えられるってことを!」


次の瞬間、影が襲いかかってきた。


唯斗は、剣を交差させて受け止める。

衝撃が、腕に走る。

だが、踏みとどまった。


「瑠衣、援護を!」


「わかった!」


瑠衣が、羽衣を広げる。

その光が、唯斗の剣に流れ込む。

刃が、淡い蒼に染まる。


「夢界、影の動きは?」


「右足に重心が偏ってる。

 次は、左から斬りかかってくる!」


「了解!」


唯斗は、影の動きを読み、

一瞬の隙を突いて踏み込む。

剣が、影の胸元を貫いた。


「……っ!」


影が、霧のように崩れ始める。

その中から、声が響いた。


「……それでも、

 お前は、また迷う。

 また、失う。

 それでも、進むのか……?」


唯斗は、静かに頷いた。


「進むよ。

 たとえ、また傷ついても。

 俺は、瑠衣と夢界と、

 この世界を守るって決めたから」


影は、微かに笑った。

その笑みは、どこか安らかだった。


「……なら、託すよ。

 “俺”のすべてを」


影が、光に変わって消えていく。

その光が、唯斗の胸に吸い込まれていく。


「……これが、“赦し”か」


唯斗は、そっと目を閉じた。

胸の奥に、確かな温もりが宿っていた。


「……次は、私の番かもね」


瑠衣が、前を見据える。

霧の奥に、もうひとつの気配が現れ始めていた。


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