14話
塔の中に足を踏み入れた瞬間、
世界が、音を立てて軋んだ。
「……っ、なに……?」
瑠衣が、思わず足を止める。
空気が、変わった。
塔の内部だけではない。
**外の世界そのものが、変わり始めていた。**
唯斗が振り返る。
塔の入り口――
そこにあったはずの街の風景が、
まるで水に溶ける絵の具のように、
ゆっくりと滲み、崩れていく。
「……現実が……書き換えられてる……」
夢界の声が震えていた。
彼の“残響視”が、塔の内部だけでなく、
外の空間にも異常な反応を示していた。
「見える……
街の上に、もうひとつの世界が重なってる。
塔を中心に、記憶の地層が現実を侵食してる……!」
唯斗と瑠衣も、感じていた。
足元の感触が変わっていく。
アスファルトのはずの地面が、
いつの間にか、あの世界の“記憶石”に変わっていた。
「……もう、戻れないんだね」
瑠衣が、静かに言った。
その声には、悲しみも、決意も、すべてが混ざっていた。
「うん。でも、俺たちはここにいる。
今の名前で、今の姿で。
だから、進もう。
この世界を、守るために」
唯斗の言葉に、夢界が頷いた。
「塔に入った瞬間、
この世界は“記憶の世界”と完全に融合した。
もう、夢でも記憶でもない。
ここが、現実だ」
三人は、塔の奥へと進んだ。
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そのとき、外の空が、音もなく割れた。
空の裂け目から、黒い光が降り注ぐ。
“奴等”が、現れた。
人の形をしている。
でも、顔がない。
輪郭が、ぼやけている。
まるで、誰かの記憶から抜け落ちた“存在”。
「……来たな」
唯斗が、剣を構える。
その刃が、淡く光る。
「この世界を、
俺たちの記憶ごと、
“なかったこと”にしようとしてる」
「でも、させない。
だって、ここには――
私たちの“今”があるから」
瑠衣の羽衣が、風を巻き起こす。
その光は、記憶の断片を守るように、
三人の周囲を包み込んだ。
夢界が、目を閉じる。
“残響視”が、奴等の核を捉える。
「……あいつらの中心にあるのは、
“忘却”だ。
思い出せなくなったもの、
言葉にできなかった想い、
そういう“空白”が、奴等を形作ってる」
「だったら、俺たちは――
“思い出す”ことで、戦える」
唯斗の言葉に、ふたりが頷いた。
「記憶を、
想いを、
この世界を――
守るために」
三人は、塔の奥へと進んだ。
その背後で、
現実と記憶が、完全に重なり合っていく。
街のビルは、記憶の塔に変わり、
道路は、記録の回廊に姿を変える。
空は、あの世界の蒼に染まり、
風は、かつての戦場の匂いを運んでくる。
もう、戻れない。
でも、それでいい。
唯斗も、瑠衣も、夢界も、
“今の名前”のまま、
“今の想い”で、
この世界を守るために戦う。




