12話
校舎の裏門を抜けたとき、
三人は立ち止まった。
そこから見える街並みは、
まるでジオラマのように静まり返っていた。
信号は点滅し、コンビニの看板は光っている。
けれど、車は動かず、人影もない。
音も、匂いも、風さえも――
すべてが、どこか“作り物”のようだった。
「……このまま、どうなるんだろうな」
夢界が呟いた。
その声は、やけに大きく響いた。
それだけ、周囲が静かだった。
「わからない。
でも、何もしなければ、
このまま世界が“空っぽ”になっていく気がする」
唯斗の言葉に、瑠衣が頷いた。
「塔に行こう。
あそこが、すべての中心。
きっと、何かがある」
「賛成。
どうせ、ここにいても何も変わらない。
だったら、動いたほうがマシだ」
夢界が肩をすくめながらも、
その目は真剣だった。
三人は、坂を下り、街へと足を踏み入れた。
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道は、あまりにも整然としていた。
倒れた自転車。
開け放たれたままのコンビニのドア。
途中で止まったままのバス。
どれも、ついさっきまで人がいたことを示しているのに、
今は、まるで“誰も存在しなかった”かのような空気が支配していた。
「……まるで、誰かが“世界を上書き”してるみたいだな」
夢界が、周囲を見渡しながら言った。
「上書き……?」
「うん。
現実の上に、別の現実を重ねて、
元のものを塗りつぶしていく。
そんな感じがする」
唯斗は、胸の奥がざわつくのを感じた。
夢の中で見た、あの塔の風景。
瑠衣と手をつないで立った、あの場所。
あれは、ただの夢じゃなかった。
記憶だった。
そして今、現実がその記憶に“侵食”されている。
「……俺たちが、思い出したから……?」
「たぶん、そう。
でも、それだけじゃない。
“誰か”が、意図的にこの世界を壊そうとしてる。
記憶を喰らって、存在を消して、
最後には、すべてを“なかったこと”にするつもりなんだ」
瑠衣の声は、静かだった。
でも、その奥には、確かな怒りがあった。
「……許せない。
私たちが積み重ねてきたものを、
勝手に消されるなんて」
唯斗は、瑠衣の横顔を見た。
その瞳は、まっすぐに前を見据えていた。
“みるい”としての記憶を持ちながら、
“瑠衣”として今を生きる彼女。
その存在そのものが、
この世界の“継ぎ目”になっている。
(……俺が、守らなきゃ)
そう思った。
理由なんて、いらなかった。
ただ、彼女の隣にいたい。
それだけだった。
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やがて、三人は、
塔のふもとにたどり着いた。
そこは、かつて公園だった場所だった。
ブランコも、ベンチも、遊具も、
すべてが黒い靄に包まれ、
まるで炭のように変質していた。
塔は、静かにそびえていた。
近くで見ると、その異様さはさらに際立っていた。
表面は、まるで液体のようにゆらめき、
ところどころに“記憶の断片”のような映像が浮かんでは消えていた。
唯斗は、塔の根元に近づき、
そっと手を伸ばした。
その瞬間――
塔の表面が、波紋のように揺れた。
「……反応した……?」
「唯斗……」
「たぶん、俺たちを“知ってる”んだ。
この塔は、俺たちの記憶から生まれた。
だから、俺たちを“迎え入れる”準備ができてる」
夢界が、ノートを開いた。
ページの端に、いつの間にか新しい文字が浮かんでいた。
『塔の内部は、記憶の層で構成されている』
『進むごとに、過去と現在が交錯する』
『最深部に、“奴等”の核がある』
「……行くしかねぇな」
夢界が、ノートを閉じた。
「準備はいいか?」
唯斗と瑠衣は、頷いた。
「うん。
ここで止まったら、
きっと、全部が消えてしまう」
「だったら、進もう。
この記憶が、消される前に」
三人は、塔の中へと足を踏み入れた。




