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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
二章 ムカイヒュージョン
22/50

8話

夜。

唯斗は、布団の中で目を閉じていた。

眠気はあるのに、心が落ち着かない。

瑠衣と手をつないで帰った帰り道のこと。

彼女の笑顔。

そのぬくもり。

全部が、まだ胸の奥で静かに熱を持っていた。


(……なんか、変な感じだな)


“付き合ってる”って、こういうことなんだろうか。

まだよくわからない。

でも、悪くない。

むしろ、心が静かに満たされていくような感覚がある。


まぶたの裏に、夕焼けの色が浮かぶ。

風の音。

みるいの声。

そのすべてが、やさしく混ざり合って――


やがて、意識が、静かに沈んでいった。


---


気がつくと、唯斗は、あの場所に立っていた。


見覚えのある、塔の上。

風が吹いている。

空が、どこまでも広くて、青くて、

でも、どこか現実とは違う色をしていた。


(……ここ、また……)


夢だとわかっている。

でも、足元の感触も、風の冷たさも、

すべてがあまりにも“本物”だった。


そして――

その先に、彼女がいた。


長い髪。

白いワンピース。

振り返ったその顔は、

まぎれもなく、みるいーもとい瑞希瑠衣だった。


けれど、どこか違う。

目の奥に、深い静けさと、懐かしさを湛えている。


「……来てくれたんだね」


「……君は、“みるい”? それとも……」


「どっちでもあって、どっちでもないよ。

 でも、今は“みるい”として、ここにいる」


唯斗は、彼女に近づいた。

風が、ふたりの間を吹き抜ける。

でも、寒くはなかった。

むしろ、あたたかかった。


「……夢の中で、君に会うのは、久しぶりだ」


「うん。私も、ずっと待ってた」


「どうして、今なんだろう」


「きっと、心が重なったから。

 唯斗くんが、私を思い出してくれたから。

 “今の私”を、ちゃんと見てくれたから」


唯斗は、彼女の目を見つめた。

その奥に、確かに“瑞希”がいた。

でも同時に、“みるい”の面影も、そこにあった。


「……君は、今も、瑞希の中にいるの?」


「ううん。私はもう、ここにしかいない。

 でも、記憶は、ちゃんと残ってる。

 瑞希の中に、私の想いが、ちゃんと生きてる」


「……ありがとう。

 君がいたから、俺は……今、ここにいられる」


「それは、私のほうこそ。

 唯斗くんが、私を忘れなかったから。

 “みるい”としての私も、“瑞希”としての私も――

 どっちも、あなたに出会えてよかった」


風が、ふたりの髪を揺らす。

空が、ゆっくりと色を変えていく。

夢の世界が、少しずつ、終わりに近づいていた。


「……そろそろ、目が覚めるよ」


「……うん」


「でも、忘れないで。

 これは夢じゃない。

 “記憶”だよ。

 ふたりで見てきた、ちゃんとした時間」


唯斗は、そっと手を伸ばした。

彼女の手に触れる。

そのぬくもりは、現実と変わらなかった。


「……また、会える?」


「きっとね。

 だって、私たちは――」


その言葉の続きを聞く前に、

世界が、光に包まれた。


---


朝。

唯斗は、目を覚ました。

天井を見上げながら、しばらく動けなかった。


夢だった。

でも、夢じゃなかった。

あの感触。あの言葉。

全部が、あまりにも“本物”だった。


(……瑞希に、話そう)


そう思った。

これは、伝えなきゃいけない。

夢の中で交わした言葉は、

きっと、現実にも意味がある。


---


学校。

朝の教室。

瑠依は、いつも通りの笑顔で「おはよう」と言った。


唯斗は、少し迷ってから、

そっと声をかけた。


「……変なこと、言っていい?」


「うん。なに?」


「昨日の夜、夢を見たんだ。

 あの塔の上で、君と話した。

 “みるい”の姿をした君と。

 ……夢の中で、君が言ったんだ。

 “これは夢じゃなくて、記憶だ”って」


瑠衣は、目を見開いた。

そして、ほんの一瞬だけ、息を呑んだ。


それから、静かに、でも確かに言った。


「……私も、見たよ」


唯斗の心臓が、跳ねた。


「え……?」


「同じ夢。

 同じ場所。

 同じ言葉。

 唯斗くんが、私の手を握ってくれたときの、あの感触まで――

 全部、私も覚えてる」


ふたりは、見つめ合った。

教室のざわめきが、遠くに感じられる。

ふたりの間だけ、時間が止まっていた。


「……じゃあ、あれは……」


「うん。

 ふたりで見た、同じ記憶。

 同じ夢。

 同じ“想い”」


唯斗は、そっと瑞希の手を取った。

その手は、夢の中と同じように、あたたかかった。

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