5話①
夢界は、自分の席に座ったまま、窓の外をぼんやりと眺めていた。
空は、青かった。
でも、どこか――**透明すぎる気がした。**
風が吹いているのに、木の葉が揺れていないような。
蝉の声が聞こえるのに、どこか遠くから流れてくるような。
そんな、**感覚のズレ**が、胸の奥にひっかかっていた。
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ガラリ、と教室のドアが開いた。
「……おはよう」
唯斗だった。
夢界は、ちらりと彼を見て、すぐに目をそらした。
「早いな、お前にしては」
「……たまたま、目が覚めた」
「ふーん」
それだけの会話。
でも、夢界にはわかっていた。
**唯斗の声が、少しだけやわらかくなっている。**
それは、昨日の夜から続いている変化。
瑠唯と何かがあったことは、もう確信に近かった。
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数分後、瑠唯が教室に入ってきた。
「おはよう、ふたりとも」
その声は、いつも通りだった。
でも、夢界の目には、**彼女の歩き方が変わって見えた。**
背筋が、少しだけ伸びている。
視線が、少しだけまっすぐになっている。
そして――
唯斗のほうを見たときの、**ほんの一瞬の目の合い方。**
(……やっぱ、そういうことか)
夢界は、心の中で小さく頷いた。
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その日、授業中も、夢界はふたりを観察していた。
瑠唯がノートを取るとき、
唯斗が何気なくそちらを見ている。
瑠唯が笑うと、唯斗の口元も、わずかに緩む。
それは、**誰も気づかないくらいの小さな変化**。
でも、夢界には見えてしまう。
(……付き合ってるって、言わないんだな)
それが、少しだけ引っかかった。
でも、言わないのは、たぶんふたりなりの理由があるのだろう。
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昼休み。
夢界は、屋上に向かった。
いつものように、風が吹いていた。
でも、今日はひとりだった。
ベンチに座り、パンの袋を開ける。
ひとくちかじって、空を見上げた。
(……あの子は、誰なんだろうな)
“瑞希瑠唯”。
転校してきたばかりのはずなのに、
唯斗の隣にいる姿が、**まるで最初からそこにいたみたいに自然**だった。
それが、不思議だった。
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夢界は、ポケットからスマホを取り出し、
何気なくカメラを起動して、空を撮った。
画面に映る空は、やっぱり透明すぎて、
どこか現実味がなかった。
(……俺だけ、取り残されてるのかな)
そんなことを思った瞬間、
スマホの画面が、一瞬だけノイズを走らせた。
「……ん?」
夢界は、画面を見つめた。
ノイズはすぐに消えた。
でも、その一瞬――
**空の色が、ほんのわずかに紫がかっていた気がした。**
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午後の授業。
教室に戻ると、唯斗と瑠唯が並んで座っていた。
ふたりの間には、何もなかった。
でも、**何もないことが、逆に何かを語っていた。**
夢界は、自分の席に戻りながら、
ふたりの背中を見つめた。
(……俺は、どうするべきなんだろうな)
問いの答えは、まだ出なかった。
でも、夢界の中で、何かが静かに動き始めていた。
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放課後。
ふたりが先に帰ると言って、教室を出ていった。
夢界は、ひとりで黒板を消しながら、
ふと、窓の外を見た。
空は、やっぱり青かった。
でも、やっぱり――**透明すぎる気がした。**
(続く)
夢界視点




