3話
二学期、三日目の昼休み。
屋上のベンチに、夢界、唯斗、瑠唯の三人が並んでいた。
空は高く、雲は薄く、風は少しだけ秋の匂いを含んでいた。
「……やっぱ、ここ風通しいいな。教室より全然マシ」
夢界がパンをかじりながら、空を見上げる。
「でも、日焼けするよ」
瑠唯が笑う。
「いいのいいの。俺は太陽と仲良しだから」
「それ、皮むけるやつだよ」
唯斗は、手にした紙パックの麦茶を見つめていた。
さっきの会話の続きを、まだ引きずっている。
――“私も、そう呼ばれてみたいな”
あれは、冗談だったのか。
それとも、何かを知っていて言ったのか。
わからない。でも、気になって仕方がなかった。
「なあ、」
夢界が口を開いた。
「昨日さ、唯斗さ、“みるい”って言いかけたじゃん。あれ、マジで誰なん?」
唯斗は答えなかった。
瑠唯が、少しだけ視線を落とした。
「……“みるい”って、どんな子だったの?」
瑠唯の問いに、唯斗はゆっくりと息を吐いた。
「……静かで、優しくて。
でも、芯があって……
なんていうか、言葉にしにくいんだけど……
“そこにいるだけで、安心する”って感じの子だった」
瑠唯は、しばらく黙っていた。
そして、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、私とは違うね」
「……いや、そうでもない。
似てるところ、ある。
声とか、笑い方とか……
でも、違うってわかってる。
だから……ごめん。昨日は、間違えた」
そのとき、瑠唯がふっと笑った。
風が、彼女の髪を揺らす。
「……じゃあ、間違えてもいいよ。
“みるい”って、呼んでくれても」
「え……?」
「だって、唯斗くんがそう呼びたくなるなら、
それは、私の中にも“その子”がいるってことかもしれないでしょ?」
唯斗は言葉を失った。
その笑顔は、どこか懐かしくて、でも確かに“今”のものだった。
夢界が、ぽりぽりとパンの袋をたたんだ。
「……なんか、深い話してんな。俺、置いてかれてない?」
「うるさいよ、夢界」
唯斗が笑った。
「お、久々にツッコミ入った。よし、今日の俺は満足だ」
そのあと、三人で屋上をあとにした。
階段を降りる途中、瑠唯がふいに言った。
「……じゃあ、今日から“みるい”でいいよ。
唯斗くんがそう呼ぶなら、私はそれでいい」
唯斗は、彼女の背中を見つめながら、
胸の奥で何かが静かにほどけていくのを感じていた。
“みるい”は、もういない。
そうわかっていてもなぜか懐かしさをかんじた。
(続く)




