3話
二学期、三日目の放課後。
空は高く、風は少しだけ涼しくなっていた。
校門を出たところで、夢界が声を上げた。
「おーい、瑞希ー! 一緒に帰ろーぜ!」
呼ばれた少女は、少し驚いたように振り返った。
そして、ふわりと笑った。
「うん、いいよ」
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唯斗は、少しだけ戸惑っていた。
昨日のあの瞬間が、まだ胸の奥に残っている。
でも、夢界の自然さに引っ張られるように、
気づけば三人で並んで歩いていた。
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「なあ、瑞希ってさ、前はどこ住んでたの?」
夢界が聞く。
「んー、ちょっと山のほう。空気はきれいだったけど、電波が悪くてね」
瑠唯は笑いながら答える。
「なるほどなー。じゃあ、こっち来てから文明に感動してる?」
「うん。自販機がしゃべるの、ちょっとびっくりした」
「それは……まあ、わかる」
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唯斗は、二人のやりとりを聞きながら、
どこか遠くの音を聞いているような気分だった。
声のトーン、歩き方、笑い方――
全部が、**“みるい”に似ているようで、違う。**
でも、違うからこそ、
**似ている部分が、余計に胸に刺さる。**
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「ねえ、唯斗くんは?」
瑠唯がふいに振り向いた。
「夏休み、どこか行った?」
「え……あ、うん。ちょっと、遠くまで」
「へえ。楽しかった?」
「……うん。楽しかったよ。
でも、帰ってきたら、なんか……全部、ちょっとだけ違ってた」
「ふふ、それって“旅の後遺症”ってやつじゃない?」
「……かもな」
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そのときだった。
ふとした拍子に、唯斗が口を開いた。
「なあ、みる――」
言いかけて、言葉が止まった。
夢界が、横目で彼を見た。
瑠唯は、少しだけ首をかしげていた。
「……ん? なあに?」
「……いや、なんでもない」
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沈黙が、三歩ぶんだけ続いた。
そのあと、夢界が笑いながら言った。
「お前さ、今“みるい”って言いかけたろ。
……誰? 元カノ?」
「ち、ちがっ……!」
「えー? 怪しいなあ~」
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瑠唯は、ふふっと笑った。
でもその笑顔は、どこか寂しげだった。
「“みるい”って、かわいい名前だね。
……私も、そう呼ばれてみたいな」
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唯斗は、何も言えなかった。
ただ、胸の奥で何かが、
**静かに、確かに、ほどけていく音**がした。
(続く)




