2話
二学期、二日目の朝。
まだ誰も、夏休みが終わったことを本気で信じていなかった。
教室の空気は、どこか緩く、眠たげで、
窓の外からは、蝉の声が名残惜しそうに響いていた。
唯斗は、ぼんやりと窓の外を見ていた。
空は青く、雲は高く、風はまだ少しだけ熱を帯びている。
でも、何かが違う。
それが何なのか、言葉にはならなかった。
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「おーい、席つけー」
担任の声が、教室のざわめきを切り裂いた。
「今日は転校生が来てるぞ。静かにしろー」
ざわざわとした空気が、少しずつ収束していく。
夢界が「転校生ってマジかよ」と小声でつぶやき、
有志が「この時期に?」と眉をひそめる。
唯斗は、まだ窓の外を見ていた。
風が、カーテンをふわりと持ち上げる。
その一瞬、**空気の層がずれたような感覚**があった。
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「じゃあ、入ってきて」
ドアが開く音。
足音が、ゆっくりと近づいてくる。
唯斗は、何気なく顔を上げた。
そして――**息を呑んだ。**
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そこに立っていたのは、
黒髪のショートボブに、涼しげな瞳。
制服のリボンを、少しだけゆがめて結んでいる少女だった。
「瑞希瑠唯です。よろしくお願いします」
その声は、はじめて聞くはずなのに、
耳の奥に、何度も響いたことがある気がした。
いや、違う。
**“あの世界”で、何度も聞いた声に、似ていた。**
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夢界が、唯斗の隣で小声を漏らす。
「……おい、唯斗。お前、今すげぇ顔してたぞ。
知り合い?」
「……知らない。はず、なんだけど……」
唯斗の声は、かすれていた。
胸の奥が、ざわざわと波打っている。
懐かしさとも違う。
恐れとも、喜びとも違う。
ただ、**“何かが戻ってきた”**という確信だけが、そこにあった。
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担任が席を指さす。
「じゃあ、あそこの席に座ってくれるかな」
瑞希瑠唯は、静かに頷いて歩き出す。
唯斗の斜め前の席。
すれ違いざま、ふと立ち止まって、彼の目を見た。
その瞳は、まっすぐで、どこか遠くを見ているようだった。
そして――
**「また会えたね」**
そう言った気がした。
でも、口は動いていなかった。
ただただ無性に、カバンの中の石を、そっと握りしめた。
(続く)




