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ノヴァムカイワールド  作者: フィのー
一章 旅立ち
10/51

10話

 アキモト様が剣を構えた瞬間、空気が裂けた。

 その刃は、ただの武器ではない。

 **記憶を断ち切るための剣。**

 過去を、絆を、すべてを断絶するための意志の象徴。


「構えろ!」と夢界が叫ぶ。


 仲間たちは即座に陣形を組む。

 太郎が後方で射撃支援、有志が前衛で剣を構え、

夢界が左右に動いて撹乱を担うと同時に分析をする。


---


 アキモト様が一歩、前に出る。

 その足音だけで、展望台が軋む。


「君たちの連携は、見事だった。

 だが、それは“王”には通じない」


 彼が剣を振る。

 その一閃が、空間を裂き、**重力の波動**となって押し寄せる。


「来るぞ――!」夢界が結界を展開。

 だが、波動は結界をねじ曲げ、空間ごと押し潰そうとする。


 その後、横から飛び出し、石を投げる。


「おい、こっち見ろよ! 王様ァ!!」


 石は当然、当たらない。

 だが、その一瞬の隙に、有志が突っ込む。


「うおおおおおおおおおお!!」


 剣と剣がぶつかる。

 アキモト様の剣は重く、鋭く、まるで意志を持っているかのように動く。


「くっそ……! こいつ、マジで強ぇ……!」


---


 太郎が後方から叫ぶ。


「有志、下がれ! 援護する!」


 彼の銃が、雷撃の弾丸を放つ。

 だが、アキモト様は剣を一閃し、雷を真っ二つに断ち切った。


「なっ……!?」


「雷は、過去の記憶の残滓。僕には届かない」


---


 みるいが詠唱を始める。


「記憶の花よ、咲き誇れ――“追想の庭”」


 展望台の床に、無数の花が咲き乱れる。

 その花は、触れた者の記憶を吸い取り、動きを鈍らせる。


「くっ……足が……!」と太郎が膝をつく。


「記憶を奪われてる……!?」夢界が叫ぶ。


---


 夢界が、花の中を駆け抜ける。


「こんなもんで止まってられるかよ!」


 彼は、みるいに向かって一直線に突っ込む。


「お前が何者でもいい! でもな、俺たちの仲間を奪うなよ!!」


 みるいが杖を構える。

 だが、その手がわずかに震えていた。


「夢界くん……お願い、やめて……」


「やだね!」


 夢界が飛び上がり、みるいの結界に拳を叩きつける。

 結界が軋み、ひびが入る。


---


 太郎はその隙を見逃さない。


「今だ……“記憶干渉・逆位相”!」


 彼の術式が、みるいの結界に干渉し、

 結界の構造が一瞬だけ崩れる。


 その隙に、有志が突っ込む。


「唯斗! 目ぇ覚ませええええええ!!」


 剣が、アキモト様の肩をかすめる。

 血が飛び散る。


 アキモト様の瞳が、再び揺れる。


「……やめろ……僕は……」


---


 みるいが、叫ぶ。


「唯斗くん、お願い……! 私を、見て!」


 彼女の声が、唯斗の心を引き戻す。

 紫の瞳が、再び深く染まっていく。


「……僕は、アキモトだ。

 君たちの記憶は、もう必要ない」


---


 その言葉に、夢界が歯を食いしばる。


「ふざけんなよ……! お前がいなきゃ、俺たちはここまで来れなかったんだぞ……!」


 彼は、再び立ち上がる。

 ボロボロの身体で、剣も魔法も持たずに。


「だったら、俺が全部ぶつけてやるよ。

 お前がどれだけ遠くに行っても、俺は――お前を信じる!!」

ありがとう、待っててくれて。

ここからは――**夢界の“運のなさ”が、ついに奇跡を呼ぶ瞬間。**

そして、唯斗の心が、決定的に揺れる。

仲間たちの想いが重なり、**アキモト様の仮面に亀裂が走る。**


 夢界の拳が、アキモト様の胸に届いた。


 それは、剣でも魔法でもない。

 ただの、泥だらけの拳。

 けれど――その一撃は、**確かに届いた。**


 アキモト様の身体が、わずかにのけぞる。

 紫の瞳が、震える。


「……なぜ、届く……?」


 彼の声が、かすかに揺れていた。


---


 夢界は、肩から血を流しながら、笑った。


「知らねぇよ……でもな、俺の“運のなさ”って、

 たまに、すっげぇこと起こすんだよ……!」


 その瞬間、空が鳴った。

 雲の切れ間から、光が差し込む。


 展望台に、柔らかな陽光が降り注ぐ。


---


 太郎が目を見開いた。


「……今の一撃、唯斗の記憶領域に干渉した……!」


 彼が詠唱を始める。


「記憶共鳴・深層接続――“心界投影”!」


 術式が展開され、展望台の空間が揺らぐ。

 仲間たちの記憶が、唯斗の心に流れ込んでいく。


---


 ――初めての出会い。

 ――笑い合った昼休み。

 ――夜の訓練場で、肩を並べた時間。

 ――「また明日な」と交わした、何気ない言葉。


 それらが、唯斗の中で、**確かな重みを持って蘇る。**


---


 アキモト様の剣が、手から滑り落ちる。

 彼の身体が、ふらりと揺れる。


「……僕は……唯斗……?」


 その声に、有志が叫ぶ。


「そうだよ! お前は唯斗だ! 俺たちの仲間だ!!」


 太郎が銃を下ろし、前に出る。


「もう撃たねぇよ。だから、戻ってこい。

 お前がいなきゃ、俺たち、バラバラだ……!」


---


 みるいが、震える声で叫ぶ。


「唯斗くん、お願い……! 私を、見て……!」


 彼女の声が、唯斗の心を引き戻す。

 紫の瞳が、再び揺れる。


「……みるい……僕は……」


 彼女がそっと手を伸ばす。


「あなたが“王”でいられないなら、私は……」


---


 そのとき、夢界が最後の力を振り絞って叫んだ。


「唯斗! お前が選べ!!

 “誰かのために戦いたい”って言ったのは、お前だろ!!

 だったら今、選べよ――お前自身の意志で!!」


---


 静寂が、展望台を包んだ。


 唯斗の瞳が、ゆっくりと閉じられる。


 そして――


 開かれたその瞳は、もう紫ではなかった。

 **あの、優しい色に戻っていた。**


---


 唯斗が、みるいの手をそっと取る。


「ありがとう、みるい。君がいたから、僕はここまで来られた。

 でも、僕は……僕として、生きたい」


---


 みるいの瞳に、涙があふれる。


「……そっか。なら、私はここに残る。

 あなたが選んだ未来を、見届けるために」


 彼女は微笑んだ。

 その笑顔は、どこまでも優しくて、どこまでも切なかった。


---


 空が崩れ始める。

 夢界が転移陣を開く。


「今しかない! 帰るぞ!」


 唯斗が仲間たちと共に走り出す。

 転移の光が、彼らを包む。


---


 最後に見たのは、

 崩れゆく世界の中で、静かに立つみるいの姿だった。


 「……おかえり、唯斗くん」


風に髪をなびかせ、彼女は微笑んでいた。

(続く)

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