10話
アキモト様が剣を構えた瞬間、空気が裂けた。
その刃は、ただの武器ではない。
**記憶を断ち切るための剣。**
過去を、絆を、すべてを断絶するための意志の象徴。
「構えろ!」と夢界が叫ぶ。
仲間たちは即座に陣形を組む。
太郎が後方で射撃支援、有志が前衛で剣を構え、
夢界が左右に動いて撹乱を担うと同時に分析をする。
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アキモト様が一歩、前に出る。
その足音だけで、展望台が軋む。
「君たちの連携は、見事だった。
だが、それは“王”には通じない」
彼が剣を振る。
その一閃が、空間を裂き、**重力の波動**となって押し寄せる。
「来るぞ――!」夢界が結界を展開。
だが、波動は結界をねじ曲げ、空間ごと押し潰そうとする。
その後、横から飛び出し、石を投げる。
「おい、こっち見ろよ! 王様ァ!!」
石は当然、当たらない。
だが、その一瞬の隙に、有志が突っ込む。
「うおおおおおおおおおお!!」
剣と剣がぶつかる。
アキモト様の剣は重く、鋭く、まるで意志を持っているかのように動く。
「くっそ……! こいつ、マジで強ぇ……!」
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太郎が後方から叫ぶ。
「有志、下がれ! 援護する!」
彼の銃が、雷撃の弾丸を放つ。
だが、アキモト様は剣を一閃し、雷を真っ二つに断ち切った。
「なっ……!?」
「雷は、過去の記憶の残滓。僕には届かない」
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みるいが詠唱を始める。
「記憶の花よ、咲き誇れ――“追想の庭”」
展望台の床に、無数の花が咲き乱れる。
その花は、触れた者の記憶を吸い取り、動きを鈍らせる。
「くっ……足が……!」と太郎が膝をつく。
「記憶を奪われてる……!?」夢界が叫ぶ。
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夢界が、花の中を駆け抜ける。
「こんなもんで止まってられるかよ!」
彼は、みるいに向かって一直線に突っ込む。
「お前が何者でもいい! でもな、俺たちの仲間を奪うなよ!!」
みるいが杖を構える。
だが、その手がわずかに震えていた。
「夢界くん……お願い、やめて……」
「やだね!」
夢界が飛び上がり、みるいの結界に拳を叩きつける。
結界が軋み、ひびが入る。
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太郎はその隙を見逃さない。
「今だ……“記憶干渉・逆位相”!」
彼の術式が、みるいの結界に干渉し、
結界の構造が一瞬だけ崩れる。
その隙に、有志が突っ込む。
「唯斗! 目ぇ覚ませええええええ!!」
剣が、アキモト様の肩をかすめる。
血が飛び散る。
アキモト様の瞳が、再び揺れる。
「……やめろ……僕は……」
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みるいが、叫ぶ。
「唯斗くん、お願い……! 私を、見て!」
彼女の声が、唯斗の心を引き戻す。
紫の瞳が、再び深く染まっていく。
「……僕は、アキモトだ。
君たちの記憶は、もう必要ない」
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その言葉に、夢界が歯を食いしばる。
「ふざけんなよ……! お前がいなきゃ、俺たちはここまで来れなかったんだぞ……!」
彼は、再び立ち上がる。
ボロボロの身体で、剣も魔法も持たずに。
「だったら、俺が全部ぶつけてやるよ。
お前がどれだけ遠くに行っても、俺は――お前を信じる!!」
ありがとう、待っててくれて。
ここからは――**夢界の“運のなさ”が、ついに奇跡を呼ぶ瞬間。**
そして、唯斗の心が、決定的に揺れる。
仲間たちの想いが重なり、**アキモト様の仮面に亀裂が走る。**
夢界の拳が、アキモト様の胸に届いた。
それは、剣でも魔法でもない。
ただの、泥だらけの拳。
けれど――その一撃は、**確かに届いた。**
アキモト様の身体が、わずかにのけぞる。
紫の瞳が、震える。
「……なぜ、届く……?」
彼の声が、かすかに揺れていた。
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夢界は、肩から血を流しながら、笑った。
「知らねぇよ……でもな、俺の“運のなさ”って、
たまに、すっげぇこと起こすんだよ……!」
その瞬間、空が鳴った。
雲の切れ間から、光が差し込む。
展望台に、柔らかな陽光が降り注ぐ。
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太郎が目を見開いた。
「……今の一撃、唯斗の記憶領域に干渉した……!」
彼が詠唱を始める。
「記憶共鳴・深層接続――“心界投影”!」
術式が展開され、展望台の空間が揺らぐ。
仲間たちの記憶が、唯斗の心に流れ込んでいく。
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――初めての出会い。
――笑い合った昼休み。
――夜の訓練場で、肩を並べた時間。
――「また明日な」と交わした、何気ない言葉。
それらが、唯斗の中で、**確かな重みを持って蘇る。**
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アキモト様の剣が、手から滑り落ちる。
彼の身体が、ふらりと揺れる。
「……僕は……唯斗……?」
その声に、有志が叫ぶ。
「そうだよ! お前は唯斗だ! 俺たちの仲間だ!!」
太郎が銃を下ろし、前に出る。
「もう撃たねぇよ。だから、戻ってこい。
お前がいなきゃ、俺たち、バラバラだ……!」
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みるいが、震える声で叫ぶ。
「唯斗くん、お願い……! 私を、見て……!」
彼女の声が、唯斗の心を引き戻す。
紫の瞳が、再び揺れる。
「……みるい……僕は……」
彼女がそっと手を伸ばす。
「あなたが“王”でいられないなら、私は……」
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そのとき、夢界が最後の力を振り絞って叫んだ。
「唯斗! お前が選べ!!
“誰かのために戦いたい”って言ったのは、お前だろ!!
だったら今、選べよ――お前自身の意志で!!」
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静寂が、展望台を包んだ。
唯斗の瞳が、ゆっくりと閉じられる。
そして――
開かれたその瞳は、もう紫ではなかった。
**あの、優しい色に戻っていた。**
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唯斗が、みるいの手をそっと取る。
「ありがとう、みるい。君がいたから、僕はここまで来られた。
でも、僕は……僕として、生きたい」
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みるいの瞳に、涙があふれる。
「……そっか。なら、私はここに残る。
あなたが選んだ未来を、見届けるために」
彼女は微笑んだ。
その笑顔は、どこまでも優しくて、どこまでも切なかった。
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空が崩れ始める。
夢界が転移陣を開く。
「今しかない! 帰るぞ!」
唯斗が仲間たちと共に走り出す。
転移の光が、彼らを包む。
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最後に見たのは、
崩れゆく世界の中で、静かに立つみるいの姿だった。
「……おかえり、唯斗くん」
風に髪をなびかせ、彼女は微笑んでいた。
(続く)




