表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/82

第76話 ミズホと本当の覚悟

「くっ……オレの負けだ」


ゴロウがそう吐き捨てた瞬間――私の中で、ぷつん、と何かが切れた。


ボコッ。

ドカッ。


「ぐはっ!?」


……うん。とりあえず一発、殴っておいた。

スッキリしたとはいえ、ここまでやられたら“一発くらいは”いいよね? ね?(誰に同意を求めてるんだ私は)


「み、ミズホちゃん!?」

コグリちゃんの声が裏返る。


「大丈夫。死なない程度に力加減はしたから」

我ながら最悪の安心ワードだと思う。でも、ちゃんと加減はした。ほんとに。


「ゴロウさん!? 女、テメェ……!」

ゴロウの連れらしい男たちが、こっちを睨みつけてくる。

視線は刺さる。でも、不思議と怖くなかった。


だって――。


「あなた達、ずいぶんヤンチャしてるみたいだけど……その程度よ」

私がそう言うと、男が一歩踏み出す。

「なんだと!」


私はため息をつく。

「そもそも、あなた達……人を殺したこと、ないでしょ」


言った瞬間、自分の喉が少しだけ痛んだ。

レオンさんとカインさんの顔が、脳裏をよぎる。

あの時の私は、“仕方ない”って言い聞かせながら、命の線を越えた。越えるしかなかった。守るために。でも――越えたことは消えない。


だからこそ、今回のこの“遊び”が、どうしても許せなかった。


ロシアンルーレット。

弾が「人を殺せない程度」だとか、気絶で済むだとか、そういう問題じゃない。

もし本物だったら? もし威力が違ったら? もし誰かが調子に乗って――?


私かゴロウ、どっちかの命がなくなってたかもしれない。

その可能性を、笑いながら転がせる神経が、私には無理だった。


「どうなの?」

私は睨んだまま問いかけた。

「『当たったら終わり』の遊びを、そんな軽い顔でできるの?」


男たちが言葉を詰まらせる。

……そう。ここで吠えるだけの人って、だいたい“本当に越えたことがない”。

怖いのは、命のやり取りを知ってる人間の、静かな目だ。


「ヤマトさん、ごめんなさい」

私はふっと視線を外して、ヤマトさんに頭を下げた。

「せっかく呼んでもらったのに、交渉できない状況にしちゃったかもしれない」


「お、おう……」

ヤマトさんが苦笑いする。

「だが、オレ達……帰れる状況なのか?」


……だよね。

Zクラスの人たちを導くどころか、敵に回したみたいなもの。

さっきから視線が痛い。殺気ってほどじゃないけど、“面倒くさいのが来た”って空気が濃い。


(終わった? 私、詰んだ?)


そう思った、その時。


「……ま、待て」


低い声。

殴られて床に転がっていたゴロウが、ゆっくりと体を起こしていた。


「ゴロウさん!?」

連れが駆け寄ろうとしたのを、ゴロウは手で制する。


そして――私を見た。


さっきまでの“獲物を見る目”じゃない。

どこか、変に落ち着いた目。まるで別人みたいだ。


「篠崎ミズホとか言ったな……」

ゴロウは口の端を歪めて笑った。

「お前さんの覚悟……凄まじいものだった。その若さで、過酷な人生を送ってきたんだな」


……え?

急に何? 心読まれた?

私は戸惑って、言葉が遅れる。


ゴロウは続けた。

「これまでの非礼、謝らせてくれ。すまなかった」


さっきまでと空気が違いすぎる。

私、殴り過ぎた? 脳揺れた? いやでも、目は正気だ。


「……Zクラスに来て、落ちこぼれ判定されてから、荒れてた」

ゴロウは吐き出すみたいに言った。

「何なんだ、このクソシステムはってな」


……それは、分かる。

正直、私も思った。

順位が高いのにZ扱い。見えるランクで見下される。努力や実力が“表のラベル”に反映されない。

そりゃ、腐る。荒れる。拗ねる。――分かる。分かるけど。


(だからって命を賭ける遊びはダメでしょ)


「確かに、このクラスシステムは……納得いかないよね」

私は慎重に言葉を選ぶ。

「あなたみたいに、序列は高いのに落ちこぼれ扱いされるのは……そりゃ腹立つ」


……でも、ますます分からない。

クラスって何で決まってるの? 成績? 生活態度? 危険度?

私たちAZクラスの存在も、ゴロウみたいな例外も、全部“制度の穴”みたいに見える。


「非礼を謝るのはいいけど」

私は一歩だけ前に出る。

「あなたは、何をしてくれるの?」


ゴロウの目が細くなる。

「お前が望むなら……俺たちはアンタの配下に下る」


「……は?」

配下。

今、配下って言った? 私、何かの組織のボスじゃないんだけど。

体育祭の実行委員やるだけなんだけど。


「別に、集団のトップになるとか、そういうのに興味ない」

私は即座に釘を刺した。

「でも、“手を組む”って意味なら……いい。協力してくれるってことでいいのよね?」


「ああ」

ゴロウは短く頷く。

「アンタに従う。……いや、“従う”って言い方が嫌なら、アンタのやり方に乗る」


……うわ、話が急にまともになった。

殴ったのが効いたのか、私の理屈が刺さったのか、それとも――ゴロウの中で何かが折れたのか。


私はゆっくり息を吐いて、背後を振り返った。


「……という事で、なんか話はうまく進みそう、だけど」


コグリちゃんは口を半開きにして私を見てる。

ヤマトさんは笑ってる。

クリームさんは――目を合わせてくれない。ていうか、微妙に顔が横向きなのに、笑ってる気配だけがある。怖い。何その“面白いもの見た”みたいな空気。


「ミズホちゃん……」

コグリちゃんが震える声で言った。

「その……やると思ってたけど、想像の二段階上だった……」


「ウチはやる子だと思ってたわよ」

クリームさん、完全に楽しんでるじゃん。

しかも“褒めてるのに怖い”って、どういう技術?


「いや、よくやったなミズホ」

ヤマトさんが肩を叩いてくる。

「うん、よくやったよ」


……あれ?

私が想像してた展開と違う。

私の中では、ここで大揉めして、最悪逃げ帰って、マヨイ先生に怒られて、Zクラス攻略が地獄になる予定だったのに。


なんでこうなるの。


そして気づけば。


「――というわけで」

ゴロウが周囲に向かって言った。

「こいつが話を通す。文句ある奴は前に出ろ」


……待って待って待って。

え? それってつまり――?


周りの視線が、私に集まる。

さっきまでの“品定め”じゃない。

“認めた”目。あるいは“面白がってる”目。

どっちにしても、逃げられない。


(……嘘でしょ)


こうして私は、気づいたら――

Zクラスのトップみたいな位置に立っていた。


「なんで、こうなったのかな……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ