第68話 ミズホと気になる依頼
ダークキャッツのメンバーがようやく揃ったところで、私たちはルーシーさんが用意してくれた拠点へ向かった。
学園から電車で三十分くらい。窓の外を流れる景色が、さっきまでの「学園都市」っぽい無機質さから、だんだん生活の匂いに変わっていく。駅を降りて少し歩くと、住宅街の中にそれはあった。外観は普通の家――でも中に入ると、共有スペースが広くて、ちょっとしたシェアハウスみたいな作りになってる。
「……え、ここ、普通に当たりじゃない?」
思わず声が漏れた。キッチンは広いし、リビングには大きめのソファ。壁には掲示板まであって、予定とか貼れそう。窓から差し込む光がやわらかくて、なんだか“帰ってきた”みたいな気分になる。
この先ここが、私たちキャッツの拠点になる。そう思ったら、胸の奥がじわっと温かくなって、同時にワクワクも湧いてきた。……うん、悪くない。すごく、いい。
荷物を各部屋に運び込んで、とりあえず最低限の荷ほどきを終えたあと、私たちはリビングに集合した。これからのことをちゃんと決めるため。チームとして動くなら、最初が肝心だ。
……その前に、言わなきゃいけないことがある。
学園のクラスと、序列の話だ。
「というわけで……私はZクラス。だけど“ただのZ”じゃなくて、AZクラスっていう、上位の枠の中のZっていうか……」
自分で言っててもややこしい。説明してる私が一番混乱しそう。
すると、ルアナが一拍置いて――腹の底から笑った。
「あーっはっはっはっは!ミズホ、面白いことに巻き込まれてるじゃねえか!」
「ホントだよ!なんなの、この学園のシステム……」って、私も同意しかない。
エリーが顎に指を当てて、落ち着いた顔で整理する。
「つまり、ミズホは“ZはZでもAZ”。Aクラス以上のさらに上位帯にいるのに、その中では最下位。……上位なのに一番下って、確かに矛盾してるけど」
「うん、エリーの言うとおり。そんな感じ」
言い切った途端、なんか自分が“よく分からない存在”みたいで、ちょっとだけ心がむずむずした。
フライヤは腕を組んで、ため息混じりに呟く。
「それにしても、この学園にクラス以外の仕組みがあるなんて驚きね。……アタシの順位も見られるのか」
「見たくないの?」
「怖いに決まってるでしょ。現実を突きつけられるのって、案外くるのよ」
真面目な声。だけど、ルアナは逆だった。
「何言ってんだよ。アタイは面白いと思うね。それだけ上がいるってことでしょ?」
「ルアナのその考え方、羨ましいよ……」と、フライヤが半眼で返す。嫌味のはずなのに、ルアナは気にせず肩をすくめただけだった。強い。メンタルが。
「とりあえず順位の上げ方も分からないし、今は置いとこう」
私が話を切り替えると、エリーが端末を取り出して画面をみんなに見せた。
「この異界のギルド端末、依頼閲覧ができるみたいね。簡単な雑用から、魔物討伐まで――種類が多い」
「え、魔物ってどの異界にもいるの……?やっぱ共通仕様なの、それ」
「そして、学園に在籍してる間は依頼のレベル制限が緩い。普段ならランク4相当でも、ここでは受けられる」
エリーの説明は分かりやすい。ほんとに参謀向き。私は端末を覗き込みながら、指先で画面をスクロールした。
討伐、護衛、素材採取、迷子捜索、研究所の手伝い……。いや、幅広すぎない?
「便利すぎて逆に怖いんだけど。これ、地雷混ざってない?」
「だからこそ、選ぶのが大事ね」って、エリーは淡々。
「というわけで――何か気になる依頼、ある?」
私はみんなの顔を見てから、依頼一覧に視線を戻した。こういうのって、最初は無難なのがいい。できれば、チームで動きやすくて、変な恨みを買わなくて、でも実績になるやつ……。
その時、目に止まった。
依頼者:グレープ・ルーンフィリア(学園長)
依頼内容:会ってから話す
報酬:情報
「……情報?」
思わず声が漏れた。報酬が情報って、何それ。普通、お金とか素材とかじゃないの?
「依頼者が学園長って時点で、ただ事じゃない気がする」エリーが小さく言う。
フライヤも眉を寄せた。
「でも、依頼レベルは2相当……難易度は高くないんじゃない?」
「うーん……楽観していいのかなぁ」
正直、依頼相手が学園長ってだけで、難易度が勝手に跳ね上がって見える。クラス分けのときに一回会った程度だけど、あの人、掴めない。にこにこしてるのに、目が笑ってないタイプの“賢い人”って感じがする。
ルアナがテーブルに肘をついて、私の方を見る。
「で、どうするよ、リーダー?」
リーダー。うわ、その呼び方、急に責任が重くなるんだけど。
でも――ここで迷いすぎるのも違う。
私たちダークキャッツは、まだ始まったばかりだ。知名度も実績もない。だからこそ、最初の一歩は派手じゃなくてもいいけど、確実に踏みたい。
「……そうね」
私は息を整えて、端末の依頼をもう一度見た。
学園長の依頼。報酬は情報。内容は会ってから。怪しさはある。けど、情報って、今の私たちには一番欲しいものかもしれない。火の塔のこと、ホーリーライトのこと、闇の属性のこと――何に繋がるか分からない。
「とりあえず、キャッツの知名度も上げたいし……この依頼にしよう」
言った瞬間、空気が少しだけ引き締まった。
「賛成」エリーが頷く。
「アタシもいいわ。腹は括れてる」フライヤも、短く。
「決まりだな」ルアナはニヤッと笑う。「学園長の依頼ってのも、なんか燃えるし」
私は端末で依頼を確定しながら、心臓の奥がトクンと鳴るのを感じた。
――私たちの初任務。
レベル2相当。大丈夫なはず。
……大丈夫、よね?




