第66話 ミズホと謎のZランク
はあ……。よく「転生」だの「無双」だのの物語って、不幸とか不憫な立場から始まって、前世の記憶とか、生まれつきのチート能力とかで一気にひっくり返すじゃない?
でも、私の場合はどうなんだろう。
前世の記憶なんてない。
異質な能力だって――うん、「アンチフィールド」は珍しいとは思うけど、世界をねじ曲げるほどの何かってわけでもない。結界の“嫌な効果”を無効にできる、ちょっと便利で、ちょっと厄介なスキル。せいぜいそんな感じ。
……なのに。
今の気分だけは、まるでそういう物語の主人公みたいだった。
だってさ。
まさか、学園でいちばん下のクラスに放り込まれるなんて思わないでしょ……。
「ミズホ君なんだが……Zランクだ」
あの瞬間、頭の中が真っ白になって、次の言葉が耳に入らなかった。いや、入ったけど、理解が追いつかなかった。
私、学園でトップだったんだよ? ルーラでは主席だったし、実技だって誰にも負けなかった。――そう思ってたのに。
……まあ、いい。
いちばん下にいるってことは、上しかないってことだもんね。落ち込んでる暇なんてない。私、そういう時に限って妙に前向きになれるタイプだし。
ただ、ひとつだけ引っかかってる。
グレープ学園長が最後に言った、あの言い方。
「まあ、君が行く事になるZクラスは少し特殊な奴らが集まってる普通のZクラスではないよ」
……“普通のZじゃない”。
それってどういう意味? 上に上がりにくいってこと? それとも、問題児の隔離施設みたいな?
説明は「行けば分かる」だけ。いや、分かりたくないんだけど!
教室の前に着くと、入口の横に人影があった。
スーツ姿の、若い女性。背筋がすっと伸びてて、目だけがやけに鋭い。
「あら、あなたが篠崎ミズホさんね。初めまして。わたしはこのクラスの担任、マヨイ・キタカタです。マヨイ先生でいいわよ」
言葉は柔らかいのに、視線が観察みたいで落ち着かない。
うわ、この感じ……どこかで……。
そうだ、ルーラのアマンダ先生。優しい顔で、平然と地獄の課題を出すタイプの先生。嫌な予感しかしない。
「確かに学園長の言う通り、面白そうな子が来ましたね」
「……面白そう、って褒め言葉ですか?」
ちょっと皮肉っぽく返してみる。だって怖いんだもん。
するとマヨイ先生は、ふっと笑った。
「あら。その様子だと、本当に何も知らないみたいね」
うう……その“知ってる側の顔”、やめてほしい。
「ここから上を目指すのは、かなりハードよ」
「成績がアレだからですか?」
「あら……違うとも言わないけど、主な理由はそこじゃないわ」
……言い方ぁ。
いちいち気になる言い方するの、ほんとやめて。
そして私は、半ば背中を押されるように教室へ入った。
ぱっと見は普通。机と椅子、黒板、窓。
……でも、空気が違う。静かすぎるというか、妙に張りつめてるというか。みんなの視線が、私に一瞬で刺さって、すぐ離れた。まるで値踏みみたいに。
「ミズホさんは探検隊ギルドに所属していて、“ダークキャッツ”ってチームのリーダーなんですって」
ダークキャッツ、って言った瞬間、何人かが「ん?」って顔をした。
そりゃそう。まだ出来たばかりだし、名前だって私の勢いで決めただけだし。
(……“キャッツ”のせいでクロに後から怒られるやつ。)
「彼女がどこまで上に行けるか、先生は正直楽しみね。仲良くしてあげてね」
一同が「はーい」と返事する。やけに揃ってて、逆に怖い。
その流れのまま、マヨイ先生が教壇に手をついた。
「さて。AZクラスはここから序列を上げる為に頑張るわよ!」
……え?
いま、何て? Zじゃなくて、AZ?
私、聞き間違えた?
「あの、先生。いま“AZ”って……」
「そうね。学園長、何も説明してなかったんだったわね」
マヨイ先生は淡々と――淡々と、さらっと、とんでもないことを言った。
「この異界で学ぶ人たちは何億人っている。その中でZからAまでのクラス分けがあるんだけど……Aクラスの更に上があるのよ。それがAZクラス。ここは、この異界でも序列100位以内にいる人が入るクラス」
「……は?」
口から、情けない声が漏れた。
「ちなみに最高はAAクラスね。序列は役所が調査して付けてる。学生証には載らないけど、調べれば自分の順位は分かるわ」
「え、でも……そんなの、聞いたこと……」
「でしょうね。公開してもいいんだけど、昔からA以上は影の存在みたいになってるの。信じない人も多いし、都市伝説扱い。知ってたら相当の“異界マニア”よ」
つまり――
周りから見れば、ここにいる人たちは「Zクラスの学生」。
でも実態は、この異界の上澄み。化け物みたいな人たちの集まり。
……待って。
じゃあ私は? 私は、何でここに?
学園長が言ってた「普通のZじゃない」って、そういう意味……?
頭の中が追いつかないのに、背中だけがぞわぞわしてくる。
私、いま――とんでもない場所に立ってない?
「はあ……」
声にならない息が漏れた。
何だか、思ってた“学生生活”とはまるで違う方向に転がってる気がする。いや、転がってるというか、落とし穴に落ちたというか。
……でも。
こんなところまで来ちゃったなら、逃げるなんて選択肢はない。
何だか、とんでもないところに来ちゃった感じ……?




