第65話 ミズホと学園入学試験
異界テック・マトルス。研究機関がいくつも集まっていて、「学園異界」なんて呼ばれてるらしい。
その中心都市――テック中央は、見上げても見上げても建物が途切れない。金属とガラスの塔みたいなビル群、空を走るレール、光の看板。私とエリーがいた魔法都市アルファも都会だと思ってたけど、ここは桁が違う。歩いてる人の服装も、種族も、話してる言葉の訛りもバラバラで、外から学びに来る人が珍しくないっていうのも納得だった。
……そんな場所に、私が「学生」として来る日が来るなんて。
退学になった身としては、胸の奥がちょっとだけ、じん、とする。
私たちはルーシーさんから預かった入学推薦書を握りしめて、セントラル・ノヴァ学園の正門に立った。門だけで城みたいだし、敷地の奥の方は霞んで見える。
受付の職員さんは推薦書を一通り確認すると、機械みたいに正確な声で言った。
「なるほど。ルーシー殿からの推薦ですね。でしたら、実力を測ります。こちらへ」
案内された先は……競技場? 円形の闘技場みたいな空間で、床に薄い魔法陣が敷かれてる。試験会場っていうより、これから戦わせます、って顔をしてる場所だった。
「ここで実技試験を受けてもらいます」
実技試験。望むところ、だよね。
私はルーラ学園にいた頃、実技はトップ。たぶん。……いや、トップだった。うん。
緊張より先に、変な自信が湧いてくる。こういうのは得意だ。
――と思ったら、内容は拍子抜けするくらいシンプルだった。
「魔力測定です。水晶に手を当ててください」
中央に置かれた透明な水晶。そこに手を置くだけ。
……え、殴り合いじゃないんだ。
「こんなので、何が分かるのかな……」
半分ぼやきながら、私は水晶に掌を当てる。
ひんやりした感触。次の瞬間、じわっと、皮膚の内側から何かを吸われるみたいな感覚が走った。
「……おや?」
試験官の眉が、ほんの少しだけ動いた。
え、なに? 私、また何かやらかした? ……いや、手を当てただけだよね? 当て方が悪いとかある? 水晶に「ごめんね」って言いながら触るべきだった?
でも試験官はそれ以上何も言わず、すぐに表情を戻して続けた。
「次、エリンさん。続いて、ルアナさん、フライヤさん」
エリーたちの測定が始まる。水晶が淡く輝いて、数値みたいな光が浮かぶ。
私はというと、自分の時だけ「おや?」が挟まったのが気になって、妙に落ち着かない。胸の奥に小さい棘が刺さったみたいに、ちくちくする。
その後は筆記試験。
正直、ここが一番不安だった。私とエリーがいた異界って、閉鎖的だったし。こっちの常識が違ったら、私たちの知識なんて通用しないかもしれない。
……でも、問題を見て、肩の力が抜けた。
基本的な魔法理論、計算、術式の組み立て。内容は違っても、根っこは似てる。私たちが学んできたものと、ちゃんと繋がってた。
私はペンを走らせながら、少しだけ嬉しくなってしまった。――ここでなら、もう一回ちゃんと学べるのかもしれないって。
最後は学園長との面接。
呼ばれた部屋は、やたら静かで、空気が澄んでる。窓の外には学園の塔が見えて、雲がゆっくり流れていた。
「私が、この学園長を務めているグレープ・ルーンフィリア。君たちが、ダークキャッツか。妹からは色々聞いている」
学園長は、にこりとも笑わないのに、目だけがよく動く人だった。
「妹……?」って、私が聞き返すより先に、学園長がさらっと言う。
「ああ。君たちをここに送り込んだルーシーは、私の妹だ」
その瞬間、私たち全員が同じ顔になったと思う。
え、あのルーシーさんが!? この人の妹!?
……姉妹って、もっとこう、雰囲気が似るものじゃないの? ルーシーさんの方が圧が強いのに。
学園長は淡々と話を進める。
「さて、試験はクラス分けのために受けてもらった。まず、ルアナ君とフライヤ君は同じCランクのクラスだ」
Cランク。……つまり、真ん中より上?
フライヤはまあ納得だけど、ルアナも? あの子、剣だけじゃなくて状況判断も早いし、やっぱり只者じゃないんだ。
「次に、エリン君。素晴らしい。Aランクのクラスだ」
やっぱりね。エリーは、私が見てきた中で一番「真っ直ぐに強い」。
努力も頭も、どっちも本物。……うん、誇らしい。私の親友だもん。
――で、と学園長が言葉を切った。
その一瞬、さっきの水晶の「おや?」が、背中をなぞる。
「ミズホ君なんだが……Zランクだ」
……え?




