第64話 ミズホと学園生活再び
「はい、今日からこのクラスの一員になった篠崎ミズホさんです。みなさん、仲良くしてあげてください」
教室の空気が、ふっと私に集まる。視線、視線、視線。
「篠崎ミズホです。よろしくお願いします!」
声が少しだけ跳ねた気がする。元気に言ったつもりなのに、手のひらがじんわり汗ばんでる。
――まさか私が、また「学生」になる日が来るなんて。
私たちダークキャッツのメンバーは今、セントラル・ノヴァ学園に来ている。学生として。
そう、ギルドの依頼をこなしてレベルを上げるとか、危険地帯に挑むとか、そういう“冒険者っぽい日常”のはずが、なぜか今、教壇の前で自己紹介をしている。
どうしてこうなったのかと言うと――原因は、ルーシーさんの「効率よくギルドレベルを上げる方法」を聞いたせいだ。
「あなた達に、セントラル・ノヴァ学園の学生になってみない?」
その一言を聞いた瞬間、胸がドクンって鳴った。
学生。学園。授業。試験。……私、元の異界じゃ色々あって退学みたいなものだった。もう“学ぶ場所”なんて戻れないって、どこかで思ってた。だから、チャンスって言葉に反射で心が揺れたんだと思う。
「確かに、あなた達のギルドレベルは2で初級。だけど戦闘能力はある。そういう子達向けの特別処置みたいなものね。学園を卒業すれば、レベル4相当の実力者として認められるわ。学園にいる間は依頼のレベル制限もなく、色々な依頼を受けられるの」
……え、そんな“お得パック”みたいな制度あるの?
私は思わず聞き返した。
「そんな、簡単な話なんですか?」
だってこういう話って、絶対どこかに落とし穴がある。入学した瞬間に試験地獄とか、卒業条件が鬼とか、裏でホーリーライトが絡んでるとか。そんな匂いがするのが、最近の私の人生だ。
でもルーシーさんは、いつもの余裕顔で肩をすくめた。
「まあ、今回は裏表はないわ。強いて言うなら、実力ある子達を任務レベルの低い依頼ばかりやらせるほど、ギルド全体に余裕がないってこと。あと、この街のホーリーライトとのトラブルを解決してくれたお礼、ってとこね」
……たしかに。ミドリーノ支部、最初に来た時ルーシーさん暇そうに寝てた。
“仕事がない”って言うより、“仕事が回らない”感じだったんだろうな。だったら、私たちに早く一人前になってほしいっていうのも分かる。
「とりあえず、入学推薦書を渡しておくわ。これを学園長に渡して。場所はここじゃない異界――異界テック・マトルス。あと、異界渡りの許可証も渡すから、それで行ってちょうだい」
あれよあれよと話が進みすぎて、頭が追いつかない。
私はそっと横目でチームのみんなを見た。エリーは落ち着いてうなずいてるし、フライヤは腕を組んで真剣な顔。クロは「面白そうニャ」みたいな顔をして、ルアナは――。
「要するに、その学園に行って、てっぺん取って来いって事だろ?」
ドヤ顔。
いや、違うよルアナ!?どこをどう読んだら“天下取り”になるの!?
「違うわよ、ルアナ。ギルドの任務に参加したければ、常識を身につけなさいって事よ」
フライヤのツッコミは正しい。正しいんだけど、言い方が針みたいに刺さる。
ルアナは「へへっ」って笑ってるけど、私はその会話を聞きながら、早くも胃のあたりがきゅっとなる。
学園に入るってことは、卒業もしなきゃいけない。
授業、規則、集団生活、そして――評価。私はそれが、ちょっとだけ怖い。
でも同時に、胸の奥で小さな火が灯ってるのも分かる。もう一度、“学ぶ”ってことに向き合えるかもしれない。闇の在り方を探す旅の途中で、私は私の「居場所」を作り直せるかもしれない。
……うん。考えすぎるのはやめよう。
とにかく、やるしかない。
とりあえず、行ってみるか。セントラル・ノヴァ学園に。




