第63話 ミズホとキャッツのこれから
「さて、ミズホ。それにキャッツの諸君――お前たちのこれからの旅の目的地を示すニャ」
クロが、どこから取り出したのか分からない“それっぽい”口調で言い放つ。
……いや、うちの黒猫、いつの間に軍師ポジションになったの?
「そういえば、いったん精霊界に戻ってたんだよね。何か分かったの?」
私が聞くと、クロはしっぽをふわりと揺らし、わざとらしく咳払いをした。
「とりあえずは……世界の属性のバランスが、闇だけ明らかに取れていないニャ」
その言葉だけで、胸の奥がひやっとする。
闇が“いないことにされてる”感じ。学園でも、街でも、ずっとそれを肌で感じてきた。まさか世界規模で同じ歪みがあるなんて。
「そして、どこかの異界にある“塔”へ行くニャ。火、水、雷、風、光……その塔にある祭壇で属性の均衡を保ってる。そこに闇の力を注いで、バランスを戻すニャ」
「……塔、五つ」
私の口から、ゆっくり言葉が落ちた。
闇の在り方を探す旅――って、ふわっとしたまま走ってたけど。
いきなり具体的な“目的地”が提示されると、背筋が伸びる。胸が高鳴る。なのに、同じくらい不安も湧く。
「五つの塔。しかも“どこかの異界”にあるってことでしょ。途方もない旅になりそうね」
エリーが淡々と言う。でも、目は真剣だ。私みたいに心が揺れてないわけじゃない。揺れを表に出さないだけ。
そこで、ルアナが腕を組んで言った。
「……いい話がある。実は、この異界に“火の塔”って呼ばれてるものがあるんだ」
「え、早っ!」
思わず声が弾んだ。だって、五つの塔のうち一つが、もうこの世界にある。偶然?それとも――
私が前のめりになった瞬間、フライヤが視線を逸らすみたいに言う。
「……ルアナ。あそこって、確か……」
ルアナは苦い顔で頷いた。
「ああ。ホーリーライトの奴らが占拠してる場所だな」
……はい、きた。
喜びかけた私のテンションが、急ブレーキで止まる。現実、重い。
「早速、目的の場所は分かったけど……困難もセットなのね」
私が言うと、クロが「世の常ニャ」とか言いそうな顔をしたので、先に口を塞ぎたくなるのを我慢した。
ふと、疑問が浮かぶ。
「でもさ、ホーリーライトって“光を崇める”組織でしょ。火の塔に何の用があるのかな?」
ルアナは肩をすくめる。
「そこまでは分からない。だが、あいつらが占拠してる時点で碌でもない。戦いは避けられないだろうな」
……避けられない。
その言葉が、腹の底に落ちた。
クレードの顔がよぎる。逃げた背中。
レオンさんとカインさんの変貌――そして、私が振るった闇。
「クレードはいるだろうし、最悪、リーファもいるかもね」
フライヤが静かに続ける。
「彼女、任務で離れるって言ってたけど……火の塔に向かった可能性は高いわ」
エリーが考え込むように言った。
「それだけ、火の塔が重要な拠点ってことかしら……ミズホ、どうする?」
……どうする。
行きたい。行かなきゃいけない。
でも、行けば戦いになる。しかも、今までの比じゃない。私だけが戦える状況がまた来るかもしれない。誰かを失うかもしれない。
私が言葉を探していると、横から容赦なく現実を叩きつける声が飛んできた。
「みんな、盛り上がってるとこ悪いけど――火の塔に行きたいなら、ギルドランクを上げないとね」
ルーシーさん。笑ってるのに、仕事の顔だ。
この人、こういうときだけ“受付嬢”じゃなくて“ギルドの現実”になる。
「……え?」
私の間抜けな声に、ルーシーさんは地図を指でトントン叩いた。
「火の塔があるのは、ここから北の“ベジタブルマウンテン”。あそこは危険地帯よ。最低でもギルドレベル4は欲しいわね」
「レベル4……」
今の私たちは、さっきレベル2になったばかり。つまり、あと二つ。
「あなたたちの実力は分かってる。でもこれは規則。街の安全とギルドの信用の問題なの」
ルーシーさんは肩をすくめる。
「勝手に突っ込んで全滅されても困るしね」
……ぐうの音も出ない。
正直、“火の塔!”って聞いた瞬間、脳内ではもう出発してた。けど、現実はレベル制。RPGみたいに言うなって思うけど、この世界、ほんとにそういう仕組みなのが腹立つ。
「つまり……しばらくは地道に依頼こなして、レベルを上げるしかないってことかぁ……」
私がぼやくと、ルアナが「遠回りが一番近いこともある」みたいな顔をする。珍しく大人っぽい。
その時、ルーシーさんがニヤッとした。
「――そうだ!ギルドレベルを“効率よく”上げる方法はあるわね。聞きたい?」
私は反射で前のめりになった。
「うん!ぜひ!」




