第61話 ミズホとギルドのチーム名
「よし、潰すか」
……ルーシーさんのその一言が、全部を持っていった。
私とエリーは、ルアナ救出の“ついで”なんて言えないくらいの地獄を、ギルドのカウンター前で一気に吐き出した。地下牢。囚人たちがゾンビみたいに変えられていたこと。クレード少尉が薬で人を“魔物化”させたこと。レオンさんとカインさんが庇って……そして、私が止めたこと。
話してる間、胸の奥がずっと冷たかった。
言葉にした瞬間に現実になって、戻れなくなる気がして。だけど、報告しないといけない。ここで止めなきゃ、また誰かが――。
ルーシーさんは腕を組んだまま、ゆっくり息を吐いた。目の色が、寝起きのぼんやりした感じじゃない。完全にスイッチ入ってる。
「ミズホちゃん、エリンちゃん。まずはお疲れ様。今回の件は上に報告するわ」
頷いて、口元だけで笑う。
「これでこのギルドも、ホーリーライトとの付き合い方を見直す必要が出てきたわね。ふふ……今まで街で好き勝手してた分、倍にして返してあげるわ……」
わお。
ギルドのお姉さん、じゃなくて――“姉御”だ。
この人、怒らせたら一番こわいタイプだ。ホーリーライトと正面衝突しても、絶対引かない顔をしてる。空気が一段、鋭くなった。
「とりあえず、今回の件はお疲れ様。初任務だけど、ギルドレベルを特別に上げてあげるわ」
ルーシーさんが私たちのカードに指を滑らせると、淡い光が走った。
「ギルドレベル2。見習いから初級ってところね。……まあ、これからも頑張ってね」
やった……!
心の奥に残ってた重たい塊が、ほんの少しだけ軽くなる。浮かれていい場面じゃないのは分かってる。でも、進んでる感じがした。ちゃんと“次”に繋がってるって。
「そうだ、せっかくだしチーム名も決めたら?チーム名があると、チームご指名の依頼とかもあるし、便利よ」
チーム名。
え、私たち、もう“そういう段階”なの? 急に冒険者っぽくなってきたんだけど。
(ミズホーズ……いや野球チームか!)
……うん、却下。センスが死んでる。私の中の冷静なツッコミが即死判定出してる。
私はエリーの方を見る。
「どうする? こういうの、エリー得意でしょ」
「ミズホが決めればいいんじゃない?任せるわよ?」
にこっ。
あ、逃げた。完全に逃げた。笑顔がずるい。
任された瞬間、なんか背筋が伸びた。
名前って、意外と大事だ。呼ばれるたびに自分たちの“立ち位置”が固まる。軽く決めると後悔するやつ。
(闇のあり方を探す旅……クロがいる……猫……)
……猫?
「……ダークキャッツ?」
口に出した瞬間、クロがピクッと反応した。
「ダークはともかく、キャッツって……我、ネコじゃないニャ?」
「残念!」私は即答した。
「それ、初対面の時点で破綻してまーす!諦めてください」
「失礼ニャ! 我は偉大な闇の精霊ニャ!」
「はいはい、偉大偉大。偉大でも見た目は猫。以上!」
言い切ったら、ルアナが吹き出した。フライヤも、こらえきれない感じで口元を押さえてる。
……よかった。こういう笑い方、久しぶりだ。重たい空気のままじゃ、みんな折れる。
エリーが小さく頷く。
「ミズホにしては珍しく、いいセンスしてるじゃない」
「え、私そんなにネーミングセンス酷いかな!? 地味に傷つくんだけど!」
「自覚がないのが、いちばん重症ね」
「ひど!」
ルーシーさんが楽しそうにペンを走らせる。
「じゃあ、ミズホちゃん、エリンちゃん。“ダークキャッツ”で登録するわね。おめでとう。改めてよろしくね」
たった一行の登録。なのに、胸が少し熱くなる。
これで、私たちは“ただの旅人”じゃなくなった。誰かを助ける側として、名前を持って動く。……責任も増えるけど、それでも、前に進んでるって感じがした。
……その時。
「なあ、ミズホ。少し良いか?」
ルアナが真剣な顔で言った。隣にはフライヤ。二人とも、迷いのない目をしている。
「フライヤとも話したんだが……アタイらも、ミズホのチームに入れて欲しいんだ」
――え?
私は言葉が一瞬、止まった。
(ルアナとフライヤが……ダークキャッツに?)
驚きで胸が跳ねる。嬉しい、でも、軽く頷いていい話じゃない。だって二人が入るってことは、私の持つ闇の力が原因でホーリーライトに対して敵対する可能性があることだから。
私は二人の顔を見た。
本気だ。冗談じゃない。
私は息を整えて、二人を見返した。
「……理由、聞いてもいい?」




